第60話 無神経な先輩

ドラマのような告白に沸き立つ会場 熱気がまだ残っています。


あのあと『ぷりぷりすいーと』は舞台袖から飛び出してきたアイドルさんたちにもみくちゃにされていました。



「台本じゃないよね 打合せになかったよね」


「さいっこぉよ 完璧な王子様シチュでしょ」


「年下だよね。どこで見つけたの」


「あんな彼が欲しいよぉ ねえ ちょうだい」



「絶対 ダメッ」


「「「きゃぁぁ」」」



§ 



『オタク仮面』はお仲間のオタクさんたちにボコボコに・・・勇気をたたえられてます。



「ペンライトブレードを叫んだオレ氏 優勝」


「あの時はお世話になりました。飛び出しただけで何も考えていませんでした」


「あれ青ブタだよな 同士よ 詳しいところ語ろうじゃないか」



「『ぷりぷりすいーと』すげーな こう なんて言うか すげーよな」


「うむ あれは良いものだ」



「さわらせんぞ」



「「「おおおぉ」」」



――――

――――



「姉さま マスクさんの夢が叶いましたね」


「幸せになる姿は何度見ても気持ちの良いものですね」



片隅からショーを見守っていたのはリリーさんと聖女さま

ふたりにとって最大の目的が達成できたことに胸をなでおろしています。



「舞台の上で告白なんて勇気を出したのですね。 本当の気持ちがあふれたみたいで素敵でした」


ショーの間ずっと祈りの姿勢を崩さなかったリリーさん


嬉しい結末に夢見る乙女の表情



「『年上の女性に告白するのはどうしたら心に届きますか』と昨日cafeに来て相談されましたからね」



驚いて聖女さまの顔を見るリリーちゃん



「姉さまに相談があったのですか それでは舞台が始まる前から結末が見えていたじゃないですか 姉さまも人が悪いです」


「気持ちがわかっていても踏み出せるかは本人次第ですよ。両片思いなんて言の葉があるではないですか」


暗躍していたのはピエロさんだけではないようです。




「もしかしてあの告白も姉さまが・・・」


「私はバニーガール先輩を口説き落とした年下ヒーローがいると教えてあげただけですよ。好きな作品を布教しただけです」



「あの告白の場面 素敵でしたよね。憧れます」


「マスクさんも好きな作品です。同じように告白されることで心からヒロインになれたと思いますよ」


このふたり 姉妹揃って青春ブタ野郎でございます。




「そうですね。バニーガール先輩と並ぶ注目のヒロインですね」


「リリーさんも注目されていますよ。『ぷりぷりすいーと』の恋を叶えた聖女さまですからね」



「あれは姉さまの聖女の術が・・・」


「あなたはみなさんが認める聖女です。もう聖女見習いではありません。姉として誇らしく思います」



「私が聖女・・・」

 


――――

――――



すてきなショーが終わったらローズちゃんもお優雅なお仕事に戻りましょう。



「「「アリスちゃんって可愛いよね」」」


「ありがとぉ みんなぁ」



『可愛いアリスちゃん』セット大好評です。もうすぐシュークリーム無くなっちゃいますよ。




cafeでウワサになっているのはやっぱりさっきの大告白ショー



「すごい告白だったよね」「自分の目で見てたのにまだ信じられないよ」


「大人っぽいお姉さんが泣きながら『だいしゅき』って可愛かった 萌え死ぬところだったよ」



「私たちがお祈りしたポーション飲んだからうまくいったんだよね そうだよね」


「もしかして私にも聖女の力が」


「ないない そんなに簡単じゃないでしょ あの時聖女さまと聖女ちゃんもいたからね」



「やっぱり聖女ちゃんだよね」


「聖女ちゃんなら特別な力が無くてもモテモテだよね。優しいし可愛いし男女関係なく人気あるもん」


「モテモテだけど一途だよね。彼の事しか見てないって感じ」



「でもお付き合いしてないって言ってるよ。信じられないけど」


「騎士くんでしょ お似合いだと思うんだけどな」


「そんなこと言ってるからおバカな男子があきらめないんだよ。付き合っちゃえばいいのに」



「さっきみたいな告白すれば誰も手を出さないよね」


「そうそう 教室の真ん中で抱きしめて大好きだって宣言しちゃうってどうかな」


「でもふたりきりの時に告白でしょ 屋上に呼び出してなんて王道も良いよね」


「うちの学校 屋上に上がれないでしょ」


「それなら帰り道で・・・



リリーちゃんの知らない所で盛り上がってますよぁ



――――

――――



「先輩って無神経なことしますよね」


「そんなに褒められると照れるなあ」



頭を掻くピエロさんに呆れる騎士くん




「マスクさんの彼が居るなら言ってくださいよ。マスクさんの事バルンバルンなんて怒られますよ」


「でもやる気は出たみたいだから良かったんじゃないかな」



騎士くんの文句を受けながらも飄々としたピエロさん



「無神経なふりがお上手ですこと ふふふ」



突然の声に振り返るとドレス姿の美女

口元を扇子で隠しながら優雅に笑っています。



「リズさん いつのまに来たのですか」


「弱気な彼を目の前の席に誘導したあたりかしら」


「最初からじゃないですか 見なかったことにしておいてください」



ピエロさん目が泳いでいます。



「告白を後押ししたナレーションも素晴らしかったですわ 効果的な一押しでした。聖女さまと連携していたとお聞きしていますよ。


マイクの配置も照明の角度も初めからわかっていたかのように用意されておりましたね。スタッフの方々も細かな指示があったと絶賛されておりました」


「お願いですから知らなかったことにしておいてください」



ピエロさん いろいろと暗躍していたことがバレています。



「『ヒーローがいくぞ』の指示は胸が震えましたわ」


「リズさん 降参です。勘弁してください」




「先輩 陰で活躍なんてカッコいいじゃないですか なんで教えてくれないんですか」



ピエロさん目が泳いでいます。ざぶんざぶん泳いでます。




「おっ そろそろ聖女さまの警護に戻らないとまずいんじゃないか さっきのショーで浮足立った男どもが押し寄せるぞ」


「そうですわね。魅力的な女性がいると評判になっております。しかも恋を叶える聖女さまですからね。殺到するのも時間の問題ですわ」



無理やり話題をそらしたピエロさんですが、リズさんの一言に分かり易く焦りだす騎士くん



「俺 戻ります。先輩 いろいろとありがとうございました」



小走りにcafeへと急ぐ騎士くんを見て楽しそうな二人




「今のはかなり露骨でございましたよ。もう少し優雅に出来ませんこと」


「あいつは露骨に背中を押さなきゃ動けないでしょ 今まで動けなかった後輩に先輩からの最後の一押しってところです」



「騎士くんも良い先輩に恵まれましたね」


「良い先輩でしょ 惚れちゃいましたか」



「嫉妬の視線を感じておりますのでご遠慮いたします。恋路の邪魔をしたくはありませんので」



先程からちらちらとこちらを伺う女性スタッフさんがひとり


リズさんが視線を送るとさっと目をそらしております。



「何のことかなぁ ははは」



「本当に無神経なふりがお上手ですこと」


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