第54話 聖女ちゃんの涙
本日イベント二日目 コスプレデー
まだ始まったばかりですがあまり良い雰囲気ではないです。
正直に言えば悪い雰囲気です。
いつも穏やかに笑っているリリーちゃんが怒っているのです。
理由はわかります。わかりますけど・・・
――――
視線の先には『まだお付き合いしていない』彼がいます。
中学生なのに体格も良くてちょっと大人びた騎士くん
スタッフさんに用意してもらった本格的なコスチュームでさらにイケメンのナイトくんに進化しています。
今日はコスプレ大好きな人ばかり 早速コスプレお姉さんたちに見つかりましてちやほやされています。
きれいなお姉さんがコスプレしているのですよ。
しかもコスチュームのおかげで色っぽいのです。
そんな色っぽいお姉さんと一緒に写真撮影をお願いされて・・・ナイトくんデレデレです。かなりデレデレです。
腕なんか組んで写真撮ってます。おっぱいが当たってむにってなってますよ。
良いのですか ここで静かに見ているリリーちゃんを忘れていませんか
大好きなんでしょ 大好きな女の子の目の前で何をしているのっ
ローズちゃんもちょっとムカッと来てますよ。
§
写真撮影が終わって戻ってきたナイトくん ニコニコしながら戻ってきましたが・・・
リリーちゃんの様子を見て凍り付いています。ようやく事態を理解したようですね。
もう遅いですよ。遅すぎます。
開店以来あまい空気が漂っていたcafeですが急に緊張する場面になってしまいました。
『恋する仮面舞踏会』で喧嘩始まっちゃいましたよ。
「ナイトくんはお姉さんにモテるようですね」
「いや その 写真を一緒にってお願いされただけで」
「腕まで組んでいましたよね。私にはしてくれないくせに・・・」
「お姉さんが強引に・・・ 断るのも・・・」
「わたしのこと・・ わたしのこと・・ わす・・ わすれてましたよね・・・」
リリーちゃん涙声になってきちゃいましたよ。これはいけません。
ずっと我慢していたのに口にしたら急に泣き出してしまいました。手で顔を隠して静かに泣いています。肩が震えています。
「私の妹を泣かせるとは何をしているのですか」
泣いているリリーちゃんに駆け寄ろうとした時に後ろから冷え切った声 聴いた瞬間にぶるっと来ます。
振り返ると表情が消えた聖女さまが立っていました。
『絶対零度の雪姫』は都市伝説ではなかったようです。空気が凍り付いています。
ゆっくりと歩いて来てリリーちゃんをナイトくんから隠すように正面から抱きしめます。
「お姉さんのお胸はやわらかかったですか 気持ち良かったですか やっぱり大きい方が良いのですか」
ナイトくんに背を向けたまま答えられない質問をぶつけます。
いつもお話をするときは相手の目を見ながら話してくれる聖女さま
今は視線どころか顔さえも向けません。
じっと我慢していたリリーちゃんを黙って見守っていましたからね。『特別な妹』が泣いているのです。
しかもおっぱいにデレデレするとは聖女さまの地雷を踏みぬいています。
「守るべき聖女を騎士が泣かせてどうするのですか その剣は誰のためにあるのですか」
ナイトくんのお仕事は聖女見習い専属の警護
これは聖女さまの言う通りですよ。ローズちゃんも怒ってます。かなり
「ごめんなさい 浮かれていました。騎士のくせに大切な人を傷つけました」
今度はナイトくんがちょっと声が震えてます。
「自分が情けないです。言い訳はしません。すべて俺が悪いです」
怖いのではなくて悔しくて声が震えていたみたい
―――― 長い沈黙
「落ち着くまで妹を預かります。後をよろしくお願いします」
あかねさんやアリス店長が小さく頷くとリリーちゃんの肩を包むように抱きしめて休憩室に消えていきました。
誰も動けません。何を言えば良いのかわかりません。
この冷え切った雰囲気どうしよう
「リリーちゃんを泣かせた罰です。スタッフさんのお手伝いしてなさい ピエロさんカモン♪」
アリス店長さんの掛け声でいつのまにか待機していたピエロさんやロボットさん ナイトくんを強制連行です。
青い顔をしたまま大人しく連れていかれるナイトくん
どうなるのですか ナイトくんひどいことされませんよね。
「先輩がお話をしたいと言っていただけですから大丈夫です。OHANASHIだけ♪」
アリス店長さん 可愛く言ってますけど何か怖いです。
――――
――――
「可愛い妹を守ってあげられませんでした。ごめんなさい。気が付くのが遅すぎました」
「姉さまは何も悪くはありません。誰も悪くないんです」
休憩室のソファで抱きしめあう聖女姉妹
あれから一頻り泣いて少し落ち着いたリリーちゃん
「騎士くんの事、嫌いになってしまいましたか」
俯きながらも首を振って否定します。
「年上の魅力的なお姉さんからモテるのは当然なんです。騎士くんはカッコいいんです。私がわがままなんです。いままで騎士くんのことを『お付き合いしていない』なんて突き放していたのは私なんです。それなのにお姉さんと仲良くしているだけで怒ってしまいました」
「恋する乙女はそんなものですよ。面倒なんですよ。恋する乙女は」
「今まで騎士くんはずっと私だけを見ていてくれました。『騎士くん』なんて言われるのも私の為でした」
「そうでしたね。でも だからこそ騎士の姿であなたを泣かせたことが許せませんでした。おせっかいとは知りつつもふたりの夢を実現させたかったのです」
「夢ですか」
「騎士くんが思い描いた世界 聖女を守る騎士を実現させてあげたかったのです。それなのに・・・」
また静かになってしまった部屋 かすかに舞台からの音楽が聞こえてきます。
みんなが楽しんでいる所へどんな顔をして戻ればよいのでしょうか
「ふたりとも少しは落ち着いたかしら」
突然の声に振り向くと侯爵令嬢の衣装をまとったきらびやかなお嬢さま
「リズお姉さん どうしてここへ」
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