第48話 マジックポーション

時計の針は儀式の前にまで戻ります。『聖女の術』発動までもう少し 


それではローズさんお願いします。



――――

――――



ローズちゃん 準備完了


聖女見習い三人 世界樹を前にして整列です。


リリーちゃんとダリアちゃんはちょっと興奮気味 ローズちゃんはお優雅に大人しくしているのです。

でもリリーちゃんを見ていると私が思っているよりすごいことが始まりそうです。


アイラさんは向こうのステージに立って準備完了 あの不思議な歌を歌うのですね。凛々しいです。私のお姉さんはカッコ良いのです。コスプレしてウイッグで髪型を変えたらお姉さんの新しい魅力がっ 何をしても完璧な自慢のお姉さんです。


お姉さんを見つめてうっとりとしていたら突然隣に見慣れないお姉さんがやってきました。

私と同じくらい小柄な身長でくりくりした目 顔がちっちゃいです。ふわふわのドレスを着てお姫さまみたいですね。誰でしょうか

まわりはもう儀式に入るようでちょっとお話しする雰囲気ではありません。静かにしていましょう。


誰も何も言わない空気の中 鳥の鳴き声だけが聞こえています。

足音も聞こえないくらい静かに聖女さまがやってきました。これで全員集合でしょうか



リズさんが小さな声で教えてくれました。「始まりますよ」



――――



アイラさんが歌い始めました。昨日は演奏しながらでしたが今日は歌うだけみたいです。歌うことだけに集中しているせいなのか昨日よりも感情が入っているように感じます。

右手を胸に当てて、左手は少しだけ前 かっこいいです。きれいです。あいかわらず歌詞の意味は分からないけど・・・


アイラさんの歌に合わせて聖女さまは世界樹の前に進みます。いよいよでしょうか 私はどうしたら


聖女さまが胸の前で指を絡ませて手を組みます。お祈りをするポーズですね。リリーちゃんもダイアちゃんも同じポーズ 私も同じポーズでお祈りです。私でも聖女見習いの仲間に入れてもらえたのです。真剣にお祈りします。



―――― 聖なる力よ


―――― 世界樹の精よ



「あっ」 驚くダリアちゃん 



私も声が出そうになりました。

あれって魔法陣だよね アニメによく出てくる魔法陣だよね 聖女さまの足元に魔法陣です。

プロジェクターで映して・・・ませんね。聖女さまの真下ですから映せませんよ。しかもゆっくり形を変えながら回ってますよ。


だとしたら・・・ まさか本物っ



―――― 惑う心に 希望を


―――― 願いよ 祈りよ 道を照らす光となれ



私の知っている聖女さまではないです。アイラさんの歌声よりも大きな声です。真剣さが伝わってきてちょっと怖くなってしまいます。

いけません お祈りしなればっ お姉さんの恋が叶いますようにっ



―――― ブリオングロード


聖女さまが叫ぶように唱えた術 ぶりおんぐろーどって意味が・・・


 『うぉん』


わぁっ 地響きみたいな音がして聖女さまの魔法陣がぶわっと爆発

風が吹いてきたと思ったら急にあたりが真っ白です。


劇で使うもくもくではなくて霧の中に入ったみたい 

ゲホゲホにはならないから煙ではないです。どちらかというとしっとりしています。お肌に優しい聖女の術です。



あれ 聖女さまのあたりがきらきらと・・・ 空中に金色のキラキラが浮き上がってきます。何もなかった空中にキラキラが浮かんでいます。

真っ白が少しずつ薄くなると良く見えます。聖女さまの周りがキラキラです。魔法です。これは絶対に魔法です。

アニメで見ていたシーンそのままです。あれってうそじゃなかったんだぁ

リリーちゃんはこれが見たかったんだよね。今ならわかります。とってもきれいです。



―――― 恋よ 咲き誇れ



えっ リズさん 何を・・・ 少し温かい風が吹いてきて霧がなくなりました。


聖女さまは手を広げて風を受けているみたい。良い匂いがします。いろいろな花が咲いている匂いがします。お花畑の中にいるみたいです。

これはリズさんの力ですか リズさんも魔法を使えるのですか 謎のお嬢さまです。



良い香りに包まれた不思議な景色 聞こえてくるのは不思議な歌 ぼおっとしていたらアイラさんの曲が終わってしまいました。


やっぱりアイラさんの歌はすてきだったなぁ 私のお姉さんは何をしても完璧なんです。どやっ



あれっ 世界樹 なんだか雰囲気違うよ なんだか光ってる じわぁって光ってる

さっきまで紙で作った木だったよね 世界樹が本物になってるっ でも本物は光らないか・・・ 手品なのっ 魔法なのっ



リズさん 終わったんだよね これってどういうことなの 

アイラさんと聖女さまにも聞かなきゃ




 えっ 聖女さまっ 






聖女さまが急に倒れて・・・ えっ







「ねえさまぁあ」リリーちゃん 落ち着いて


「ねえさまがぁ ねえさまがぁ」



泣き叫んでいるリリーちゃんをリズさんがぎゅっと抱きしめてます。聖女さまのところに行かせないように抱きしめています。いじわるかも知れないけど今のリリーちゃんを行かせてはいけない気がします。



「お嬢っ」



倒れた聖女さまのそばにはアイラさん 一瞬で駆けつけて抱きしめています。速過ぎて動きが見えませんでした。

ぎゅっと聖女さまを抱きしめていたアイラさんがこっちを見てうなずきました。


大丈夫そうです。リリーちゃんも安心したのか少し落ち着きました。



「マジックポーションを」


私の隣に立っていた謎のお姉さんが青色の小瓶をアイラさんに手渡します。


えっ お姉さん マジックポーションって普通に言いましたよね。どこから持ってきたのですか それって魔法の薬ですよね。


アイラさんが受け取った小瓶を聖女さまの口に当てて「飲みなさい」って優しくささやきます。

ゆっくり一口ずつ アイラさんはずっと聖女さまを見つめています。

みんな動きません。何も話しません。みんながじっと見ています。


謎のマジックポーション ゆっくりとですが飲み切りました。だいぶ落ち着いたように見えます。

マジックポーションの小瓶を床に置いたアイラさん 聖女さまを横から抱えるようにして・・・ お姫様抱っこ



お お お姫様抱っこですよ。



アイラさん お姫様抱っこしてますよ。聖女さまも大人しくしています。

しっかりした足取りで本部席へ向かいます。私のお姉さんカッコ良いです。美人だけど王子様です。危ない時に駆け付ける王子様です。


ちょっとざわついています。スタッフのお姉さんを中心に・・・きゃぁぁ 聖女さま ちょっと恥ずかしくなって顔を隠してしまいました。


そっと そっと 扇風機のそばにある椅子へ そっとおろしました。

聖女さま まだふらふらしてますけどにっこりしてますよ。




リズさんようやくリリーちゃんを開放しました。

リリーちゃん 聖女さまの様子を見ながらゆっくりと近寄って行って・・・ 今度は座っている聖女さまに抱きしめられています。


リリーちゃんまた大泣きです。聖女さまに頭をなでてもらってます。妹としても心配だったよね。どうしたら良いのかわからなかったよね。

アイラさんは素早く助けに行ったのに妹の私は何もできなかったです。動くことも出来ませんでした・・・




「魔力切れですね。マジックポーション飲んだからすぐに回復しますよ。無理するからいけないんです。休憩室できちんと休んでください。シュークリームもありますからね」


マジックポーションを渡した小柄な謎のお姉さんが聖女さまを叱っています。聖女さまを叱るなんてもしかしてすごい人なんですか でもどうしてシュークリームなんですか


お姉さんの一言でスタッフさんもみんな安心した雰囲気になりました。不思議なお姉さんです。



「さあ休憩室に行きますよぉ シュークリームですよぉ」

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