第46話 コスプレ少女は年下彼氏の夢を見ない

ついにこの日が参りました。


今日は金曜日 イベントの前日です。授業も終わってメイドさんのお迎えで会場までやってきました。

今からセイ姉さまが世界樹へ命を吹き込みます。


憧れの『聖女の術』をこの目でしっかりと見る事が出来るのです。

聖女見習いとしてこの日を夢見ていました。


待っていてくださいね。セイ姉さまの妹リリーが立ち会わせていただきます。



――――

――――



「お待たせいたしました。関係者の方 ご入場ください」

ローズちゃん ダリアちゃん いよいよですよ。伝説の誕生に立ち会うのです。緊張します。


「リリーちゃん 興奮しすぎだよ 深呼吸して はい ひっひっふぅだよ」


「ローズちゃん それは違うと思うよ」



§



入口で仮面を渡されました。目元だけを隠す仮面です。


「仮面をつけた方から奥へお進みください。サイズが合わない人はスタッフに声をかけてください『我慢しろ』って言いますので」


スタッフさん面白い人みたいです。そう言いながらもサイズが各種あるようです。私は我慢しなくてもちょうど良いサイズですよ。

仮面をつけただけで別の人に変身したみたいです。コスプレをする人の気持ちがわかるような気がします。ウキウキしてきました。



「仮面ローズちゃん 参上っ」 ローズちゃんノリノリです。



よく見ると仮面は何種類もあるみたい 私の仮面は小さな白い羽が一本ついてます。おしゃれですね。



建物に入るとちょっと薄暗くなっています。外も暑かったですが室内はもっと蒸し暑く感じます。



「ごきげんよう みんなよく来てくれましたね。嬉しいですよ」


ごきげんよう セイ姉さま

今日は『聖女の術』に参加させてください。一緒に祈っても良いですか


「もちろんですよ 恋のため一緒に祈りましょう」

セイ姉さまと一緒です。聖女見習いとして精一杯祈りに願いを込めます。


セイ姉さまの衣装がいつもと違います。聖女さまの衣装と言えばセイ・タカナシさんと同じ赤いドレスでした。

でも今日はとっても豪華な衣装 白いドレスにキラキラした糸で刺繍がしてあります。聖女さまの正装です。物語では聖女と認められた後のセイ・タカナシさんの衣装です。仮面も私たちとはすこし違った雰囲気

いつもより落ち着いた大人のお嬢さまのようです。いつもはちょっと子供っぽくてちょろいポンコツさんと言っているわけではありませんよ。



すぐそばではローズちゃんがアイラさんとお話ししています。とっても嬉しそう。

アイラさんもすでにお着換え済み 髪は短く髪色も違います。仮面をつけているのでいつものお姉さまとは全く違う人のようです。でも衣装を押し上げているお胸は変わりません。むしろいつもより大きく感じてとても色っぽいアイラさんです。



「ごきげんよう リリーさん」


ごきげんよう リズさん お久しぶりです。きちんとカーテシーでご挨拶 

予想通りエリザベスお姉さんでした。知っているお姉さんが多くて安心です。

セイ姉さまのお友達はすでに『聖女の術』をご存じなのでしょうか


「詳しく知っているのはアイラさんだけではないでしょうか わたくしも正式には初めて披露していただくのですよ。一緒に祈りましょうね」

そういえばリズさんも見せてもらえないと言っていましたね。私も正式な『聖女の術』に参加させていただきます。



――――



世界樹の下にあるお店『cafe不思議のアリス』は昨日と違ってテーブルがありません。観葉植物だけが残されています。カウンターにも布がかけてあるようでお店が見えません。ほんのりとした光で世界樹が照らされています。神秘的で昨日と同じ場所とは思えません。


少し離れたところでセイ姉さまがひとりで世界樹を見上げています。きっと精神統一です。邪魔をしてはいけませんね。



「衣装を変える方は更衣室へお願いします。なおすべての電子機器の持ち込みは出来ません。更衣室のロッカーに預けてください。故障する恐れがありますので絶対に持ち込まないでください」


さあスタッフさんの案内がありましたので私たちも正装しましょう。


――――


お着換え きゃいきゃい



ダリアちゃんもローズちゃんも下着を清楚な白にしたのですね。私も白で統一しました。やっぱり聖女見習いとしてはこうあるべきですよね。髪もしっかりとブラッシング もちろん『聖なる水』を使って整えました。


「まだほかに出来ることあるかな 聖女見習いのケープも着けたし」「お祈りの仕方わからないよぉ どうしよう」


正式かどうかわかりませんが胸の前で指を組んで祈るようにしています。聖女さまがそうしていますから間違いないでしょう。それにリズさんが隣にいてくれるそうです。間違っていたら教えてくれますよ。


「えっ リズさんは正式なお祈りの仕方を知っているのっ ダリアちゃん どうしてっ」


「えっとえっと 聖女さまと仲良しだから知っていると思うの ねっ リリーちゃん」


は はい そう思います。


「ふたりともすごく怪しいよ」



§



「電子機器はロッカーに置くんだよね。スマホだけかな。でもどうしてだめなんだろう。コンサートみたいに撮影禁止ってことかな それとも音がしたら迷惑だからかな」


セイ姉さまの聖なる力が強すぎて機械が耐えられないのでしょう。神聖な儀式なのですからスタッフさんの指示に従いましょうね。




――――


お着換えする前よりも蒸し暑くなってきました。まるで熱帯の森にいるようです。この方が世界樹にとって過ごしやすい環境なのでしょう。鳥の声もかすかに聞こえます。もちろん人工だとはわかっていますが世界に溶け込んでいます。


世界樹から少し離れたところにスタッフさんが集まっている場所 丈夫な戸棚のような物に機械が詰まっています。テーブルのような機械にはつまみがたくさんついています。 世界樹対策本部と言った雰囲気です。


案内された場所には椅子と小さな扇風機が置いてあります。私たちはここで待っていれば良いのでしょうか



「聖女のリリーさんですか」 とんでもないです。まだ聖女見習いです。

あの どちら様でしょうか



「マスクと申します。今回はお姉さんの力をお借りしますね」

マスクお姉さんでしたか 初めまして妹のリリーです。お話は聞かせていただきました。みんな味方ですからね。マスクお姉さんの彼は一途なのですね。感激しました。


「べっ 別にまだお付き合いしているわけではないから彼ではないですよ」



「リリーちゃんと同じこと言うお姉さんだぁ」ダリアちゃん 失礼ですよ。


「聞いてますよ。リリーさんには素敵な彼がいるそうですね」


ま まだお付き合いしていませんからね。彼じゃないですからね。


「ほらぁ 同じこと言ってる」 あうぅぅ



――――

――――



「マスクさん 不安ですか 聖女の力と言われても戸惑いますよね」


「リズさん あなたの助けがあったから聖女さまが手を貸してもらえるのだと聞きました。ありがとうございます」



「私は聖女さまと少しお話をさせていただいただけでございます。彼女は恋の為なら本気を出してくれる方ですよ」


「聖女の力とはどんなものなのでしょうか 私も趣味ですから聖女のコスプレをする人をたくさん見ています。空想の物だと分かっています。それでも信じたい気持ちでいっぱいです」



「今夜は『恋する仮面舞踏会』の前夜祭 ふさわしい演出はするつもりです。作り出された空想の世界かもしれません。でも祈る気持ちは本物です」


「聖女さまが祈る気持ちですか」



「今から『聖女の術』を行います。マスクさんもコスプレイヤーであればどのようなものかはご存じでしょう。『聖女の術』でマスクさんの恋を見守る世界樹に生命を宿します」


「『聖女の術』ですか 聖女の魔力を使うと言われる術ですね どうしてそこまでしてもらえるのですか」



「聖女さまが術を使うのは『妹が願った時』です。そして術を使った時『何か』が起こります。不思議ですがそれだけは事実です」


「『何か』ですか 何が起こるのか期待もありますが不安もあります。悪いことが起きるのかもしれません」



「今まで悪いことは起こりませんでしたよ。それにリリーさんはマスクさんの恋の成就を願っています。その願いで聖女さまは動いたのです。聖女さまにとって妹の願いは絶対ですよ」


「私はあきらめていました。フラれるなら本気で好きになる前にして欲しいと後ろ向きな気持ちで舞台に立つつもりでした。夢なんて見るとつらくなるだけだと・・・」


「もう好きになっていること お認めになってはいかがですか 恋する乙女ですから夢を見ましょう。夢は見なければ叶いませんよ」



§



リズさんとマスクさん 和やかにお話ししています。リズさんは侯爵令嬢の衣装に仮面 マスクさんもご令嬢の衣装に仮面をつけて並んでいると本物の貴族にしか見えません。本物の舞踏会にいそうな二人です。


もともとリズさんはお嬢さまですからドレスも似合います。コスプレ用の金髪も違和感がありません。違和感どころか圧倒的な何かを感じます。お嬢さまの力でしょうか

マスクさんはさすがコスプレイヤーですね。ご令嬢が優雅にお話をしているようで空気から違うように感じてしまいます。


恋する仮面舞踏会 本物が混じっていますよ。



――――

――――


「みなさんにお願いがあります。本日見たこと 聞いたこと 他言無用でお願いします。聖女さまはここにいる人たちを無条件で信頼すると言ってくれました」


もちろんです。セイ姉さまの魔力が知られてしまったら大変なことになります。スタッフさんに言われなくてもないしょのひみつです。



「オンライン小説に書くだけなら許可します。読んでくれる人数なんてほんの少しだけですからね。どこにもバレませんよ。あははは」


スタッフさん 何を言っているのか良くわかりません。

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