第38話 私の名前

突然の聖女さまの登場に驚きましたがクッキー作りは順調です。


どんどん焼いてます。ちょっと余裕が出てきましたよ。


んっ ちょっと疑問です。

ランチを持て来てくれた聖女さま いきなりあかねさんのお部屋に入ってきましたね。


受付のおじさまの所をにこっとして通って 不思議なエレベーターを操作して お部屋の鍵も開けてきたのですよね。どうやったのでしょうか 聖女さまなら出来るのでしょうか



――――



「『窓』つけていいかな」「そうね」

聖女さま 窓つけるって何ですか


あれ 何もしてないのにテレビの電源が入りましたよ。そういえば前に来た時はテレビ見ませんでした。あかねさんとお話しする方が楽しかったから忘れてました。


テレビおっきいです。外国の街が映ってます。旅番組ですね。


・・・誰もしゃべらないですよ。街角を歩いている人が映っているだけですよ。不思議な番組です。


「これはオランダの風景だよ。世界中にあるカメラの映像をただ映しているだけのテレビ 『窓』の向こうはオランダって感じかな」


不思議だけど面白いです。これならあかねさんとお話ししていても気になりません。外国のホテルにいるみたいです。お優雅です。



「次の焼き上がりまでにお茶でも飲もうよ。せっかく高級抹茶があるから点てて欲しいなぁ」


「はいはい それじゃあ 茶器借りるわね」


聖女さま 抹茶入れるのですか  そんなところにお茶のセットが入っているんですね。

私 お抹茶の飲み方知りませんよ 三回まわしてから飲むんだっけ


「そんなこと気にしなくて良いのですよ。おいしく飲めばそれが作法です」 



お茶の器に耳かきみたいなので抹茶をちょんちょん


お湯をざぁっと入れてしゃかしゃかしゃか 


聖女さまカウンターで立ったまましゃかしゃかしてますよ。畳の所で正座してしゃかしゃかするんじゃないんですか


「粉入れて お湯入れて かき混ぜて出来上がりだからインスタントコーヒーと変わらないですよ。もっと気軽に飲めば良いのです」


そういえばコーヒーも粉入れてお湯入れてくるくるで出来上がりです。



「先生がそんなこと言ってちゃダメでしょ」

えっ 先生なんですか


「ちょっとね はい出来上がりましたよ」

しゃかしゃかの最後だけちょっと慎重にくるっとして出来上がり あわあわの抹茶です。


「せっかくだからローズちゃんに貰ったおまんじゅうをいただきましょう」

おすすめですよ。ローズちゃん一推しのおまんじゅうです。



「あら このおまんじゅう 私も好きよ」

聖女さまも知っているのですか なかなかやりますね。


「ローズさんに褒めていただきましたよ」聖女さま ドヤ顔です。私の褒められると嬉しいですか いっぱい褒めちゃいますよ


それでは抹茶をいただきましょう ・・・甘いですよ 抹茶なのに苦くないですよ


「この味 覚えておいてね これが抹茶の味ですよ」


立ったまましゃかしゃかでもおいしいです。


「お茶のこと 好きになってくれたらうれしいな」


お母さんに聖女さまに抹茶を入れてもらったって自慢します。お優雅なお嬢さまですからね。


そうだ 『cafe不思議のアリス』でもおいしいお茶が出したいです。きっとみんな喜びます。お茶の魔法でみんなニコニコです。


「お茶の魔法ですか そうですね みんなに喜んでいただきましょう 特別なお茶でも用意してみましょうか」

聖女さまの用意する特別なお茶ってすごそうですね。


「それじゃあ 特別なお茶に聖女の『やりませんからね』」


何かやってもらえないようです。

断られたのにあかねさん ニコニコ・・・ 違いますね。ちょっと悪い笑顔です。



――――


出来上がりましたぁ 全部焼きあがりましたよぉ あかねさん特製のクッキーたちです。


「落ち着かせるので広げておいておきましょう。ごくろうさまでした」

あかねさんもお疲れ様でした。聖女さまもお手伝いありがとうございました。



「それではそろそろお暇させていただきます。ふたりともお疲れ様でした」

聖女さま もう帰っちゃうんですか もう少し遊びましょうよ


「お姉さんはこのあと用事があるの ごめんなさいね それにふたりきりの時間をこれ以上邪魔したくないですよ」


これからあかねさんとふたりきり・・・ ふたりきりの夜です。でへへへ


「たくさん甘えても良いのですよ。それではごきげんよう」



「また ふたりきりになっちゃったね あとはゆっくり過ごしましょうか」


ちょっと緊張してきました。



――――


だからね リリーちゃんと騎士くんは無敵の夫婦って呼ばれているんだよ。お付き合いしていないのにもう夫婦って言われてるんだよ。


「あのふたりは見ているだけでお互いに信頼していることがわかるからね 良い子たちだよ」


でもね まだお付き合いしてないってずっと言ってるの まわりのみんなはあきれてるんだよ。

小学校の時からずっとお互いに呼び捨てが普通になってたみたいだし先生まで公認なんだよ。


問い詰めたらね『まだキスしてないからお付き合いしてない』だって お付き合いしてからキスだと思うんだけど普通はどっちかなぁ


「恋愛に普通なんてないと思うよ リリーちゃんの考え方もローズちゃんの考え方もそれぞれあって良いんじゃないかな」


それにお付き合いしてないのに婚約者ですよ。びっくりですよ。きっと恋愛ってなんでもアリなんですね。


「お互いに納得して幸せならそれが愛の形だと信じてるよ」


あかねさん しっかりとした考えを持っているんですね。やっぱり大人です。



「ローズちゃんよりも少しだけ経験が多いからね じゅうななさいにもなるといろいろあったのよ」


そうでした あかねさん 謎の十七歳でした。


――――



大きな窓の向こうは夕焼けです。あかねさん色です。きれいです。


「この時間が好きなの この色が大好き だから私は『あかね』なの」


あかねさんの名前は夕焼けからなんですね。素敵です。ビジネスネームってそうやってつけるのですか



「みんなそれぞれだよ 聖女チームに『ましろ』さんがいるでしょ 彼女も色から名前を考えた子 本名が白をイメージするから真っ白で『ましろ』」


色の名前でお揃いにしたのですね。なかよしなんですか


「なかよしだよ ずっと一緒だったからね」


ずっといっしょだったんですか



「今のチームを立ち上げた初期メンバーだからね 結成が決まった時に窓の外が真っ赤な夕焼けだったの」


その時に『あかね』にしたんですね


「その時に決まったのはチームの名前 私のビジネスネームはもっと後になってからだよ」


チームの名前も夕焼けなんですか



「そうよ 真っ赤に染まる夕陽を見ながらみんなで力を合わせようって誓ったの その情熱の色」



――― 私たちはチーム バーミリオン ――― 

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