第22話 大人のないしょ話
明るい応接室の昼下がり
この会社ではいつも美味しいお茶を出して戴けます。
会社でお茶が出てくることは珍しいことではありませんが、ここのお茶は美味しいのです。
独断と偏見ではありますが、美味しいお茶を出すことが出来る会社は実力があると感じています。
白を基調にしたシンプルな湯飲みに綺麗な緑色を水色とした緑茶
今日も美味しいですね。
――――
「いつもありがとうございます。こんなに細かい変更までしていただけて助かります。インボイスまで面倒を見ていただいて・・・追加契約で費用をお支払いしたいのですが・・・」
奥さまは優しいですね。でもそこは譲れないのです。
「駄目ですよ。私はお約束通りシステムのメンテナンスをしているだけですからね。お約束以上に費用を頂いたら怒られてしまいます」
「こんな契約で上司の方は納得されているのですか あかねさんが社内で不利な立場になっていませんか 主人も心配しているのですよ」
ご主人様も優しいお方です。家族全員が優しいですからね。
「ありがとうございます。心配はいりませんよ。私に上司は居ませんから」
「えっ あの もしかしてあかねさんが社長さんですか」
やっぱり驚きますよね。
「いえいえ そんな大層な者ではありませんよ。私たちチームには上下関係はありませんからね。その代わり頼れる仲間はいますから大規模なシステムでも安心してまかせてください」
「今更ですが、あかねさんの会社は何をされている会社なのですか 失礼ながら主人が調べたのですが全くわからないと言っておりまして」
当然調べますよね。でも簡単に調べられるほど脇は甘くないですよ。
「会社ではありませんから調べてもわからないと思いますよ。そんな団体があるのだとだけ思っていてください」
「徹底した秘密主義なんですね」
そうなんです。ないしょのひみつなんです。
「取引先が非公開の団体では不安ですよね」
「いえ そうではなくて私たちに都合が良すぎる話ばかりで戸惑って・・・ システム構築だけでも感謝しきれないのにいくつも大きな取引先とつないでもらえましたし・・・」
「私は紹介をしただけですよ。仕事でつなぎとめたのはこの会社の実力です。すごいことなんですよ」
本当にこの会社は実力があるのです。だからこそ私たちが動いたのですからね。
「そんなことを言われたら主人が有頂天になりそうです。主人もあかねさんが大好きですからね」
大好きなんて言われると照れますね。でも既婚者の方では・・・
「光栄ですね。でも奥様の前でそんなこと口にしていると天罰が下りますよ」
「大丈夫です。もう天罰は何度も落としてますから・・・」
「あらら ほどほどにお願いします。大切なファンをなくしたくはありませんので」
――――
「あかねさんの存在自体がもう秘密みたいなものですよね」
乙女に秘密はつきものですよ。
「あんなに立派なマンションに独り暮らしと聞いて驚きましたよ。お年頃の綺麗な娘さんを独りでなんてご両親も心配でしょう」
「綺麗なんてお世辞でも嬉しいです。うちの父は過保護なんですよ。あのマンションも父が許すまでかなり揉めたんです。今年になってようやく念願の独り暮らしが実現出来ました。いろいろとお目付役付きですけどね・・・」
本当に過保護なんですよ。子離れするつもりも無いようです。
「あかねさんはかなりのお嬢様だと感じますけどやっぱりお金持ちなんですよね」
やっぱりそうなりますよね。誰でも気がつきますよね。
「嫌みになりますけど裕福な家に産まれたのは事実です。不自由なく育てていただいた自覚はあります。でも凄いのは両親であって私ではありませんからね。勘違いしないように意識しています。
資産を持っている責任を常に考えるようにと教えられて来ました。でもまだ私に出来ることなんてたいしたことありません。
それに私の周りはもっと社会に貢献している友人が揃っていますので・・・力不足を感じます」
「なんだかすごい世界ね。あかねさんのお友達ってもっとお金持ちなのかしら」
「そうですね。紹介させていただいた企業も友人の所有しているひとつですよ。良い企業を紹介して戴けたと喜んでいました」
「お友達は何をされている方ですか、やっぱりお茶会をして『おほほほ』ってしてるとか」
「お茶会はよくしますけど『おほほほ』はないですよ。私と同じチームで同じようなことをしています」
お嬢さまのイメージってやっぱり『おほほほ』なのでしょうか。
「お嬢さまでもお仕事するのね。どうしてなのかしら お金には困っていないんでしょ」
お嬢さまの世界って想像以上に過酷でございましてよ。
「どうしてなんでしょうね。 それに私も友人もお仕事はしていませんよ。同じ『じゅうななさい』ですからね。未成年ですよ」
ぴっちぴちの『じゅうななさい』ですよ。じょしこーせーですよ。
「あかねさんが十七歳ねぇ そんな色気のある十七歳はいないわよ どうして十七歳なのですか」
「まあ 宗教上の理由といいますか・・・」
「そんな宗教ありましたっけ」
「『じゅうななさい教』ですよ。入信すると全員十七歳になるんです。結構有名ですよ」
「あらいいわね 私も入信しようかしら」「ぜひ 入会金 年会費も不要ですからね。今なら聖女さまのサインも付きますよ」
期間限定の入信サービスですよ。
「聖女さまのサインって・・・ もしかしてあかねさんのお友達って世界樹の聖女さまですか」
あら ご存じでしたか ずいぶんと広範囲で有名になられたのですね。
「よくご存じですね。そうですよ。仲の良い友人です」
「あのお嬢さまもいろいろなうわさを聞きますけど何をされているのかわからない方ですよね。あかねさんと一緒にシステム関連のお仕事ですか」
「いえいえ 彼女も『じゅうななさい』ですからお仕事はしていませんよ。
そうですね・・・ 聖女の術を使って困った人を助けるのがお仕事でしょうか うふふふ」
「聖女の術ですか・・・ 魔法みたいな物なんですよね。実在するんですか」
「実際に救われた方々がいらっしゃいますからね」
――――
くしゅん
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