まちのバス

海湖水

まちのバス

 「おかあさーん。でんしゃに遅れそうなんじゃないの~?」


 朝、綾香あやかは息子の颯来そらに起こされて目を覚ました。

 綾香がベッドの近くのスマホを見ると、駅まで行くバスに間に合うか間に合わないかの、ギリギリの時間だった。


 「あー!!遅れちゃう!!急がないと!!」


 綾香は二階の自分の部屋からバタバタと降りると、出かける準備を始めた。それを颯来は横で見ている。颯来はすでに着替え終わっているが、ご飯は食べていない。ご飯を作るのは後にして、綾香はすぐに着替え終わる。


 「おかあさーん!!もうすぐじゃないのー?」

 「はいはーい。ちょっとまってね」


 颯来は今年で6歳になる。

 誰の言葉を真似しているのか、言葉を延ばすことが多い。本当に、いったい誰の言葉を……、お父さんか。

 

 「はい!!間に合った。じゃあ、行こう!!」

 「はーい!!」


 颯来は靴を履き替えると、家から駆け出して行った。それを綾香も遅れて追う。いつもどうり、周りの道の交通量はとても少ない。この近くに何かがあるわけでもないので、交通量が少ないのはわかるが、少し寂しい気もする。

 周りには住宅が広がってはいるものの、すれ違う人もこの時間は少ない。そのため、道を歩いているのは颯来と綾香だけだった。


 「ほら!!バス停が見えたよ!!」


 颯来が走っていく先には、一つのバス停があった。時間を見ると、バスが来る3分前を指している。綾香は間に合ったことに胸をなでおろした。

 この地域にはあまり店などはない。昔は近くにいくつかあったのだが、今ではそれらのすべてが閉店してしまっている。そのため、買い物に行くには車や自転車などを使う必要がある。綾香は車を持っていないので、自転車で買い物に行っていた。

 しかし、駅に行くのは別だ。自転車では駅まで1時間以上かかってしまう。なにより、颯来は自転車に乗れないのだ。そのため、駅に行くにはバスを使うしかない。


 「つかれたー。おかあさん、次からはもっと早くおきてよね!!」

 「疲れたんだったら、バスはちょうどよかったね。ここからはのせてもらおうか」


 ちょうどよかったも何も、はじめから乗る気だったのだが。

 そんなことを話していると、バスが到着した。この地域のみを走っている、市営バス。この地域の人では使う人がかなりいるが、今回はあまりいなかった。


 「やったー!!座れる!!」

 「こら!!バスの中では静かにしなさい!!」


 バスに乗って座り込んだ綾香を、疲れがどっと襲ってきた。今日は朝から走らされたのだ。疲れて当然だとは思うが、体力が落ちているようにも感じた。


 「少し休憩させてね」

 

 そうつぶやくと、綾香は颯来の隣に座った。バスのガタガタとした振動が、今はとても心地よかった。

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