体力作り

 中学生の時から思っていたけれど、なぜ冬になると体育の授業はランニングになるのだろうか。ウィンタースポーツが出来る地域じゃないとはいえ、もう少し授業に工夫が欲しい所だ。


「ふ、ふ、は、は」


 とはいえ運動部で普段から走り回っている事もあり、気持ちにも体力にも余裕がある。

「まて、運動部! 陸上部より早く行くんじゃあないっ!」


 ドドドドと背後から迫る音。


「お、谷君」


 体育は2クラス男女合同で行われるから、普段は会わない人と喋る機会がある。谷君はその一人で、けっこう愉快な人だ。


「くそ、余裕そうな顔しやがって」

「そんな事ないけど」

「って、言いながらペース上げるな!」


 谷君は熱血タイプで近くにいるとうるさいものの、悪い人ではない。


「谷君スプリンターなんだから、無理じゃない?」

「無理じゃあ、ないっ!」


 と、言いつつも谷君がだんだん離れていく。確か長距離走の選手と短距離走の選手は筋肉の付き方が違うらしく走る距離の得意不得意も変わってくるという。とりあえず谷君の叫び声は面白いから次の体育の授業も楽しみだ。


「うおおお、運動部ぅ!」


 谷君をちぎり、グラウンドを駆けていると周回遅れの女子が見えてきた。


「はぁ、はぁ、あれ、クレハ」


 普段の髪型ではなくツインテールをシニヨン風に纏めたカリンが息を切らして走っている。


「……」


大変そうなカリンを見ていると悪戯心が沸いてきた。


「へ、あ、ちょっと押さないでー」

「エデンズに体力は必須だぞ」


 カリンの背中を押しながら少しだけ速度を上げる。


「運動は、むり、なの」

「ガブリエルは完成した?」

「出来たけど、まだ」

「まだ?」

「試しに行くのが、怖いかも。ゲームセンターは不良の、たまり場だって」

「今時、いないよそんなの」

「でも、この前、肩に、トゲ付けた人が、いたけど」


 肩にトゲって……。


「あ」


 ケルベロス花畑か!

 確かにアレを見たならビビる気持ちもわかる。


「というか、完成したなら言ってよ」


 一応、誘われるのを待ってたんだけど。

 こういうのは俺の方から聞くべきだったのかな。反省。

 一人で楽しくエデンズで遊ぶ終末を過ごしてしまった。もう少しスマートに気を遣えるようになりたいんだけど、難しいもんだ。


「う、うん、ただ、ちょっと待って。もう、限界、なの、だ」

「おっと」


 膝から崩れ落ちるカリンの手をとりどうにか支える。


「ちょっと茅場くん、なにしてんのー」

「……かやば?」


 あ、俺か。苗字で呼ばれなさすぎて気付くのが遅れた。阿波野さんが後ろからかけ寄って来る。


「もう、転校生いじめないの。大丈夫、えっと……茅場君、教えて」

「浜辺カリン」


 転校生と言うことしか知らなかったらしいので助け舟を出す。


「そうそう。もー、浜辺さん。駄目だよ、男子にかまっちゃ」

「た、たすかった」


 波多野さんにシッシッと追いやられたので、ヒラヒラとカリンに手を振り再び走り出す。

 それにしても、ガブリエルが完成したのか。なら後でヒバリ屋にでも誘うのも良いかも知れない。放課後の楽しみが出来た。


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