長く険しく楽しいプラモデル製作
プラモデルを作る上で、エデンズを作る上で何が楽しいかと言うとやはりボディ作りだ。
エデンズ特有のフォルムだったり可動だったりと触っていて楽しい。丁寧に作り込むほどリムバス内での挙動はスムーズになるし、ある意味自分の身体を作っているようなもので自然と集中して作る事が出来る。
半面、退屈というか面倒なのが複数の共通パーツの作成だ。レギオンが装備していたような複数の遠隔兵装などはその最たるもの。俺があの遠隔兵装を押しつぶした時など、貴崎ウィリアムも内心では叫んでいたのではと邪推できる。
「ふぅ、疲れた」
パーツを紙ヤスリで丁寧に削り、プラスチックのカスを息で飛ばす。
今まで作った経験の無いパーツ製作というのは神経を使う。
貴崎ウィリアムとは全く関係ないのだが、あの男が遠隔兵装を優雅に使いこなしていた姿とは全く関係ないのだが。全く関係ないのだが何故だか遠隔兵装に興味が出てしまい買った結果、製作の面倒臭さに少し後悔。
「けど、かっこいい」
組み立てた三つの遠隔兵装レジデント、トランジエント、オフショアは外見は細長い楕円形と殆ど同じでありながら、プリセットされた挙動が異なるのが特徴。どことなく流線形の海洋生物っぽい見た目だ。
遠隔兵装はその種類によってどれも操作感覚が変わってくるのだが、おススメはやはり見た目が気に入ったものを作る事だ。見た目だったりロマンを優先する事はこのエデンズにおいて悪い事ではない。なぜなら、好きな武装を使う方がテンションが上がるから。
そしてその気持ちにアニマが、エデンズが応えてくれる。
もっとも俺は遠隔兵装を始めとした特殊兵装の感覚的な操作は得意ではないから、実戦投入するとなるとプリセットされた自動操作を選んで使う事になる。貴崎ウィリアムの様にマニュアル操作で使用しつつ基本操作もこなすとなると、少なくとも大会に持ち込むレベルになるには数か月、いや、数年かかる気がする。
新しいものに挑戦したい気持ちは心の片隅にはあるものの、結局俺は何年たっても同じような装備を使い続けてしまう。
それこそ、中学生の頃から成長が無い気がする。
ともかく、この遠隔兵装。作ったはいいものの使う機会は無いかもしれないという事だ。
こんな感じで買ったものの使わないパーツ、けっこうあるんだよなぁ。買って積んだままのプラモも店のロッカーに入れっぱなしだし。そろそろ溢れるかもしれない。
「…………よし、できた」
カリンは独り言を漏らしながらパーツを組み立てている。
時刻は二十時半。閉店時間まであと三十分。ガブリエルを購入してから店内の作業スペースで黙々と作業を続けており、その集中力は凄まじい。これも一つの才能だ。集中力が高ければそれだけアニマへの干渉力も上がるし。カリンのエデンズ捌きも期待ができるかもしれない。
店長も感心したようにその様子を眺めていたが、先に気力が尽きたらしくウトウトしながらレジの向こうに座っている。寝る程暇なのか……この店、潰れないよな?
「クレハくん、いっしょにやろ」
三つの遠隔兵装を箱にしまった俺がグググとストレッチしていると、風呂上がりのぽかぽかボスがあにまるワールドを持ってやって来た。ボスが持っているのは全長三十センチほどのワールド。子供が持つにはやや重いので店長が土台部分に取っ手を付けた特別仕様だ。
半球上の透明な特殊プラスチックの内側では雪のエフェクトがかかっており、あにまる達は家に引きこもっている。去年の十一月ごろに模様替えを手伝ったワールド内は一面真っ白の雪景色で見るからに寒そうだ……。
「なにやるの」
ボスのお願いとあらば疲れも無視して姿勢を正す。
「雪合戦」
首元のリンクスを起動。ボスのワールドに居るはずの俺の分身とも言える移住者とコネクト。
だが見当たらない。
身体に負担の無いレベルの精神接続だと中々自分の位置が分からず、ワールドを見渡しながら自分探しに興じる。年末に遊んだ時はボスの家の横に建てられた犬小屋に寝かされていたはずなんだけど。ボス、勝手に場所を移したな。
「ふふ。どーこだっ」
ボスがニコニコとしながらコントローラーを握っている。十歳未満のリンクス使用は非推奨なのでボスはコントローラ―を操作してあにまるワールドを遊んでいるのだが。さて。
「どこかなぁ」
疑似感覚の反応が鈍い。少し集中してアニマに触れて――。
「ぶはっ」
雪に埋もれていた移住者の片手が地表に飛び出す。くそ、この妙な息苦しさは雪の下に埋められてたからか。ボスを見れば「あはは」と嬉しそうにしている。
リンクスを使用するとたまに現実の挙動と移住者の挙動が重なってしまう事があり、どうやら俺のその様子にボスはご満悦のようだ。
「引っ張りだしてくれー」
「しょうがないなぁ」
ボスが操作するのは可愛らしい冬服を着こんだ移住者。トテトテと俺の元に近づいてくる。
「がんばれ、がんばれ」
よいしょ、よいしょ、とボスが俺を雪の中から引っ張り出そうとする。プラ製のスノーパウダーモドキなのだがアニマ同士が結合する事によって現実の雪みたいな硬さとなっており、俺は中々引っ張りだされない。
「だめだ。ちょっとみんな呼んでくる」
ボスはそう言うとあにまるが住む家の方へ移動する。冬支度したあにまるは中々出てこないからなぁ。はたして俺を助けれくれるあにまるはいるのか。
コンコン、ガチャガチャ。
「いるすだ。つぎ」
コンコン、ガチャガチャ。
「だめだ。これはもう春までこのままかな」
「いやいや、トナカイのヨシオカさんなら出てきてくれるんじゃない?」
はたから見ている分には面白い。
俺は雪に埋められて、同じワールドに住むあにまる達は寒さに負けて家から出てこず助けてくれない。塩対応過ぎて笑えて来るというもの。
結局、俺を救出する事を諦めたボスは埋まっている俺の横で雪だるまを作り始めた。
雪合戦はどうした、と言いたいところだが子供は気紛れ。俺は飛び出た片手を操作し、雪玉をボスに投げつける。と、そんな風に遊んでいると。
「……楽しそうね」
「うわっびっくりした」
ぐったりとした様子のカリンが現れた。心なしかやつれている。
「まだ武器が残ってるけれど、もー限界」
初心者らしからぬ丁寧さの弊害とでも言えば良いのか、未だ完成には至っていないらしい。
まあ、これはあるあるだ。
本体を作るまでは集中力が持つのだが、少し毛色が違う武装を作りはじめようとすると途端に集中力が途切れてしまう。なので経験者は武器から作ったりするんだけど。
カリンは関節一つ一つに潤滑材を塗ったりパーツ同士の合わせ目をアニマ配合接着剤で消したりしていたので余計に疲れたのだろう。ちなみに本気で作り込もうと思うとこの先に塗装が待っていたりする。
「ここまでにしようか。時間も遅いし」
「今日中に作りたかったけど、しょうがないか」
「でもよく出来てるんじゃない?」
「ありがと。でもせっかくなら家でもう少し丁寧に作りたいかも」
感覚的な話になるが丁寧に作られたエデンズは見ただけで『よく動きそうだな』と分かる。カリンが作り上げたガブリエルはまさに、よく動きそうだ。
ガブリエルを両手で持つカリンの視線がワールドに移ると、疲れた瞳が少しだけ輝いた。どうやら本当にあにまるワールドが好きらしい。
「かわいい。これ、ユリちゃんが作ったのかしら?」
「うん。パパとクレハくんと一緒に」
内弁慶のボスが警戒しながら頷く。店まで案内して来たとはいえ、あまり年上の女性と接する機会が無い小学生だ。カリンに話しかけられると俺の陰に隠れた。
「すごいわね。今度、あたしのワールドでも一緒に遊んでくれる?」
ボスが俺を見るのでコクリと頷くと。
「べつに、いいけど」
と了承した。その様子が琴線に触れたのかカリンは「かわいいっ」と嬉しそうにしている。
「それじゃ、そろそろ帰るか」
家に夕飯があるからと店長のまかないを断ったのだが、お陰で随分腹が減った。
「泊まってけば」
「また来るから」
微かに寂しそうな顔をする小学生。この顔をされると罪悪感が沸くものの、そろそろ小学生は寝る時間だ。ポンポンと頭を撫でるとボスは口から息を漏らし「ばいばい」と一言、あにまるワールドを持って去っていった。
「ユリちゃん可愛いっ」
小動物のボスにメロメロのカリンに片付けを促しつつスマートデバイスを確認すると、我が家のメイドから何通かメッセージが届いていた。
先に食べて、と連絡したはずなのだが徐々に冷めていくビーフシチューの画像が一時間ごとに送られて来ている。
最初は湯気を立てていたビーフシチューが今や表面に薄い膜を張っており、言外に四季の不満を感じる。これは帰ったら文句を言われそうだ。
基本的に我が家の夕飯は家族揃って食べる事が滅多にない事もあり、一人での夕飯には慣れているのだが、四季はどうやら俺が帰るまで待ってくれているらしい。ありがたいね。
「店長。俺達帰りますよー」
「ふごっ、ああ、もうこんな時間か。ユリちゃんは?」
「さっき上行きました」
「悪いね、いつも相手させて」
「一人っ子同士気が合うんで」
閉店準備を始める店長を手伝い、カリンと共に店を後にした。
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