第30話 ポチと干し肉

「はぁ、はぁ……ポ、ポチ……ま、待ってよ……」

 ポチは立ち止まり、ため息をついてタクトたちを振り返った。


『だらしのないやつらめ。鍛え方が足りないんじゃないのか……って言ってます』

 プリンがポチの『言葉』を訳してくれたが、それは態度から伝わってきていた。

『まったく、なんでオレ様がこんな貧弱なやつに従わなきゃならないんだって文句言ってますね』

「そう言わずに……今の僕たちにはポチが頼りなんだ」

 ポチはフンと鼻を鳴らしたかと思うと、突然、タクトのバックパックのにおいをクンクンと嗅ぎ始めた。

「な、なに?」

『オマエ、干し肉を持っているな。それをくれたら少しくらいは協力してやることにしよう』


 干し肉。

 特定のモンスターが好物とし、与えると倒した時に【仲間】になる確率が少し上がるとか上がらないとか。

 タクトはこのバックパックを用意してくれていたハカセに心の中で感謝した。


 タクトはバックパックの中から干し肉を取り出すとポチに与えた。

『ふん。まぁまぁの肉だな。仕方ない。オレ様の背に乗れ』

「え、いいの?」

『このままのろのろ走ってたら日が暮れる。乗らないなら、おいていくぞ』

「わ、わ、まって!」

 タクトは慌ててポチの背中に乗った。スライムたちもそれに続く。

 どっしりとした、まるで大きな岩のような安定感だった。ポチはまるでタクトたちの重さを感じていないようだ。


『いくぞ。しっかりつかまってろ』

 ヘルハウンドは疾風となった。


 ──なんて、凄まじい速度。サスケとのバトルの時は全力ではなかったのだ。

あのバトルの時。カイトの指示だろうか。ポチは本気を出していなかったのだ。それはカイトが手を抜いたというわけではない。そういう『段取り』なのだろう。あれはあくまで『試験』のようなものなのだ。

 ポチが本気を出していたら、サスケは間違いなくやられていただろう。そう思えるほどに、このヘルハウンドというモンスターのポテンシャルは高いものだ。とてもまだ幼体とは思えない。


 そんなことを考えていると、あっという間に森が見えてきた。近づくにつれ、その森の広大さがよくわかった。

 まさに樹の海。樹海。

 この森に、恐ろしい人喰い魔女が……。


『震えているな。引き返すなら今だぞ』

 プリンがポチの言葉を伝える。

「大丈夫……行くよ、みんな」

 タクトは恐怖で震えたわけではない。待ち受けているであろう冒険に心を奮わせていたのだ。

 

 そして彼らは、迷いの森へと足を踏み入れた。

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