第1章 迷いの森の大冒険

第29話 クエスト、開始!

「えっ!? ぼ、僕が……迷いの森へ!?」

 カイトは真剣な表情で頷いた。


 タクトに与えられた【クエスト】は本来【ギルド】を通して行われるレベルのものだ。しかしカイトはジムリーダーの特権により【クエスト】をオーダー。何かあった際の全責任は負うつもりでいた。

 緊急を要するこの事態を打破するため、カイトはタクトの『資質』に懸けることにしたのだった。


「時間がない。要件だけを言う。一つ、迷いの森に千年生きるという伝説の【森スライム】を探し出すこと。二つ、森スライムの協力を得て、迷いの森で何が起こっているのかを調査すること」

 森スライム。スライムと名がついているものの、本当にスライムなのかどうかは不明だった。何しろ人前に姿を現さないため、情報が少なかった。しかし、本当にスライムなのであれば、タクトに対して友好的になる可能性がある。

 千年も生きているのであれば、森のことは熟知しているはずだ。何が起きているのかを把握するための手助けとなる……と思いたい。


「俺のポチを連れていけ。森のモンスターは炎に弱い。好んで近寄ってくることはないはずだ。それでも対処できない危険があると判断した場合、無理をせずにすぐに帰ってくること。いいな?」

 ヘルハウンドのポチはものすごく不満そうに唸った。

 タクトはいきなりのことに状況が呑み込めなかった。しかしカイトの真剣な表情の中に、少しばかりの焦りの色を見た時、タクトは決心した。


「……わかった! やるよ、カイトにいちゃん!」

 初めての冒険。その舞台が、大人でも近づかない迷いの森。不安しかない。怖い。しかしそれ以上の高揚感。タクトの表情を見て、カイトはふっ、と笑った。


「頼んだぞ、タクト! 迷いの森までの道はポチが把握している。ポチ、タクトの言うことをよく聞いて頑張るんだぞ」

『ぐるるる』

 やはり不満そうなポチに、タクトは不安な気持ちを隠せなくなりそうになる。

 しかし彼は、まっすぐにポチを見つめ、そして笑いかける。


「よろしくな……ポチ!」

『……』

 ポチはじっとタクトの顔を見て、ふいっと顔を背けた。そしてすたすたと歩き出し、やがて走り出した。


「あ、待ってよポチ! それじゃ、カイトにいちゃん……行ってきます」

 タクトたちはポチに続いて走って行く。

 

 タクトたちの冒険が──始まる。

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