第28話 混乱、そして──
様子がおかしい。
タクトは町の人たちが慌ただしく動いているのを見て、尋常ではない何かが起きていることを察した。
人だかりができていて、その中央で誰かが叫んでいる。
「ひ、人喰い魔女が……伝説の魔女が、うちの子供をさらっていっちまった! だ、誰か……助けてくれ!」
そう叫んだ男性は、大けがをしていた。そしてそのまま意識を失ってしまったようだった。
人喰い魔女。
そういえば、このあたりの地域ではそんな伝説があったということをタクトは思い出した。
西の【迷いの森】に潜み、子供をさらっては喰らうという。なんでも昔、魔女の烙印をおされて迫害を受け、自分の子供(または孫)をこの地域の住人たちに殺されてしまったのだとか。それで魔女は人々を憎み、幸せそうに暮らす家族を狙い、幼き子をさらって喰らうらしい。
あるいは、永遠の命を得るために若い命を吸っているという話もある。
その恐ろしい魔女は七賢者のひとりにより森に封印されたということだったのだが……。
さらに──。
「た、大変だ! ダンジョンからモンスターの大群が現れて……この町に接近してきているらしいぞ!」
メモリアシティは一瞬のうちに混乱に陥った。それを一瞬にして鎮めたのは、この男の声だった。
「みんな落ち着け! 大丈夫だ! このメモリアシティには、俺たちがいる!」
カイトだった。
その背後にはローザを先頭に、黒い騎士たちが並んでいた。
「おお! カイトさん! それに【騎士団】も!」
「そうだ! このメモリアシティには最強の【ガーディアン】がいる! 安心だ!」
混乱のざわめきが、希望の歓声に変わる。
その様子を見て、タクトは感動した。カイトはこの街にとっての守り神であり、希望。これだけ信頼されているというのは、実力以外にもかなりの人望があるという証でもあった。
カイトの自信に満ち溢れた凛々しい表情は、皆に安心を与えた。彼がいれば、何が起きても大丈夫だ。皆は、そう信じていた。
しかし内心、カイトは焦っていた。
モンスターの大群がダンジョンから? もしやジムのテイマーたちが“事故”の対処に向かったあのダンジョンから? こんなこと、今まで起きたことがない。しかも人喰い魔女も出たって? 何がどうなっているんだ、一体。
──落ち着け。まずは、できることから、ひとつずつ。カイトはすぅっと息を吸って、吐いた。
「まず、モンスターの群れを何とかしよう。皆は念のため【地下】に避難するように。それと──タクト。頼みたいことがある」
「は、はいっ!」
急に名前を呼ばれ、タクトは身をこわばらせた。
そしてカイトはタクトに【依頼】する。
それはタクトにとって、初めての大冒険の幕開けだった──。
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