第23話 2戦目

 実のところ、タクトはプリンの能力を把握しきれていなかった。

 一撃でゴブリンを倒したものの、不意を突いての、無防備な状態への攻撃が決まったからであり、決してプリン自体の能力が高かったわけではない。むしろそこらへんのスライムよりも弱いのではないかとタクトは思っていた。


 ”恐らく”雷の属性のスキルが得意で、形状の変化がサスケやリロイに比べて自在。

恐らく……というのも、プリンは他の属性のスキルも使える可能性があったから。

 サスケとリロイとの『特訓』中に、氷属性のスキルが発現しかけていた。考えにくいことではあるが、複数の属性のスキルを操れる可能性があった。

 もちろん、複数の属性のスキルを発現するモンスターはいる。しかし、スライムに限ってはありえないことだった。いや、タクトが知らないだけで、未知の可能性を秘めているのかもしれない。

 とにかくスライムには謎が多かった。というのももちろん、弱すぎて誰にも見向きもされないからだ。モンスター研究者も研究対象と見ていなかった。

 もしかしたら、他のモンスターにはない才能スキルが眠っているのかもしれない。しかし、スライムを育て上げるという道はあまりにも険しい。世界最高峰の【バベル・マウンテン】の登頂に成功するよりも困難かもしれない。


「やるな、タクトとスライム。さて、次はどうする? 交代せずにそのままそのピンクのスライムを続投させてもいいが」

「……交代させます。次はリロイ、やれるな?」

『ぴ、ぴぃ』

 ぷるぷると震えるリロイに、タクトは微笑みかける。

「大丈夫! 特訓を思い出して。僕を、信じて」

 リロイの震えが、止まった。

『ぴぃっ!』

 

 なんと、一声だけでスライムから戦いの恐怖心を拭い去ったか。あのスライムは恐らく戦闘は初めてなのだろう。それなのにまるで歴戦の猛者を思わせる自信に満ち溢れた雰囲気へと変わった。

 カイトは笑った。


「よし……オレの二番手はこいつだ! いけ! トン吉!」

『ぶひっ!』

 現れたのは、槍を持ったオークだった。

 ゴブリンよりも手強い相手だ。高レベルのスライムなら何とか互角には渡り合える。

 まだ『ともだち』になったばかりのリロイには荷が重い。しかし、タクトとリロイは怯まなかった。


 先に仕掛けたのは、やはりカイトだった。

 オークなら一撃でスライムを倒せる。

 攻撃をくらえば終わる。それはタクトも承知の上だろう。故に、取れる行動は先ほどのような奇襲。考える間を与えない速攻が一番効果的だ。カイトはそう判断した。

「トン吉! 【閃光突き】!」

 図体の大きなオークから想像もできない鋭い突きが放たれた。


 ──ガン!


 ……ガン? なぜ、何か硬いものに当たったような音が響いてきたのか。

 カイトは目を見開いた。

 そこには岩のように硬質化したスライムがいた。槍はスライムを貫けず、オークは手を痺れさせ、顔を苦痛に歪めた。


 ただ硬質化するだけでは、オークの一撃は防げなかっただろう。

 タクトの新しい防御魔法【シールド】の効果により、硬質化が強化されたのだ。

 その魔力レベルに比例して防御力は強化される。今のタクトの魔力であれば、スライムの強度は鋼以上まで高められた。


「跳べ、リロイ!」

 硬質化したまま、リロイが跳ぶ。高く、高く。

 そして勢いよく──オーク、トン吉の頭へと落ちた。


 ゴチン。

『ぷ、ぷぎぃぃ……』

 頭への直撃を受け、トン吉は意識を失い、倒れた。


 ──トン吉、戦闘不能。

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