第19話 大掃除、開始!

 おかしい。

 そんなに大きな部屋じゃないのに、いくら掃除してもゴミが減らない。

 タクトは異変に気がついた。


『タクト様。この空間……【圧縮】されているみたいです』

「圧縮!?」

 タクトはゴキブリを【捕食】して消化しているプリンにひきながら、オウム返しした。

『恐らくなんですけど、もともとこの部屋は今わたしたちが見ている範囲の10倍以上大きいものと思われます。それが、ぎゅっと圧縮されているんです。あの賢者という方の魔法かと』

「はぁ……そんなこともできるんだ。さすが賢者様だね」


 傍から見ると独り言を喋っているようなタクトを、ビクターはまじまじと見つめた。

「きみ……もしかしてそのピンクのスライムと話してる?」

「あ……いや、その……」

「ふぅん。モンスターの声を聴ける者がこの時代にいるとはね。しかしそのことは他の人間に話さない方がいいだろうね。色々な意味で」

「は、はぁ」

 もちろん、そのつもりのタクトだった。こんなこと、信じてもらえないし、変な目で見られるだけだ。

 ビクターは“この時代”と言った。昔はモンスターと話ができる人たちがたくさんいたのだろうか。

 それにしても。賢者ビクターの見た目はずいぶん若い。20代くらいだろうか。確か一番若い賢者でも、200年は生きていると言われていたはず……。

「ふ。見た目なんて大した問題じゃないさ。きみの目にはボクがそう映っているだけだろう。さ、キビキビ掃除しなきゃ、何日経っても終わらないよ」

 ビクターはまるでタクト心の内を読んだかのようだった。

 なんといっても彼は賢者。不思議な力を持っていてもおかしくない。

 

 とにかく。ビクターが言うように、このままではこの家の中を綺麗にするのに何日かかるかわからない。これは魔法の力が必要だ。しかし、あのドラゴンとの戦闘を経て、もはや魔法を使えるだけの魔力は残っていなかった。

 何か回復アイテムはないかとバックパックを漁ると【マジックポーション】を見つけることができた。タクトはそれを一気に飲み干す。


 よし。仕切り直しだ。

 タクトは風の魔法を使い、ゴミを吹き飛ばしつつ、部屋中のモノを片付け始めた。


「ふぅん。いい風を使うじゃあないか。どれ、お手並み拝見といこう」

 ビクターはやはり不敵な笑みを浮かべ、掃除に汗を流すタクトとスライムたちを横目に自身の『研究』に没頭するのであった。

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