第18話 賢者ビクターと汚い部屋
「七賢者? ああ、あの男のことか。あそこに見えている、古びた木の家に住んでいるよ。かなーりの変わり者だから、気をつけてな」
道行く人に訊ねたら、その場所はすぐにわかった。七賢者の一人が住むというその家の前にタクトは立つ。
なんだろう、この変な雰囲気は。というかなんだか臭いような。
タクトは家のドアをノックした。反応は、ない。
「すみませーん! 誰かいませんかー?」
返事はない。タクトはドアノブを回してみた。
ガチャリ。鍵はかかっていなかった。タクトは恐る恐るドアを開ける。
「うわっ!?」
バタバタバタ!
鈍い羽音を立てて、何か黒いモノがいくつも飛んできた。
あれは、そう、黒い悪魔ことゴキブリである。家の中からたくさんの黒いヤツらが外に飛び出していく。
家の中を覗いたタクトはさらに衝撃を受ける。
足の踏み場もないほどにゴミが積まれている。そして漂う悪臭。
その中心部に、家の主はいた。
「う~ん。この術式もダメかぁ。ならこれなら……あ、違った!」
ボン!
爆発音を立てて、紫色の煙がもくもくと広がった。
「だ、大丈夫ですか!? うわーっ!?」
タクトは煙に包まれた男性のもとに駆け付けようとしたが、ゴミ山に足を取られて転んでしまった。
「げほ、げほっ。おや……客人かな。珍しい。でもボクはね、忙しいんだ。悪いけどもてなすことはできないな。帰ってくれたまえ」
ぼさぼさの薄汚れた赤い長髪をわしゃわしゃとして、これまた薄汚れた白衣を着た長身の男がふわあとあくびをした。目の下は真っ黒な隈ができている。
「あ、あなたが……七賢者様……」
「うん? 久々にその単語を聞いたね。そういえばボクは賢者と呼ばれたこともあったかな、たしか。ボクの名前はビクター。きみは……ああ、名乗らなくていい、わかるから。ふむ、ふむ、なるほど。そうか、あのジョセフ坊やの紹介状を持っているのか、タクト少年。なら話は別だ。きみの用件はすでに把握したが、しかしボクはこの通り忙しくてね。そうだ……ボクの家の中を綺麗に掃除してくれたら、きみのためにボクの貴重な時間を割いてあげよう」
「え……あ、は、はい! やります!」
タクトは家の中を見渡し、ぞっとした。
これを、綺麗に……しかし、やるしかない。
タクトとスライムたちは意を決し、賢者ビクターの家の掃除を始めた。
その様子を見て、ビクターは不敵な笑みを浮かべていた。
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