第12話 限界を超えろ

 絶好のチャンス。ドラゴンは今、隙だらけだった。これを逃すわけにはいかない。

 ゴーレムに指示を与えようと口を開いたルーカスは、少年の姿を見て口を閉ざした。


 彼は目を輝かせている。闘志が、彼の瞳を燃やしている。

 立て続けに魔法を使用したことによる消耗は激しいはず。少年が使役しているスライムもまた、体力の限界のはずだった。それなのに、彼らは──。


 どうして、ドラゴンにあそこまで立ち向かえるのか。

 彼と同じ年ごろの子供ならば、ドラゴンを前にしただけで戦意喪失、モンスターがトラウマになってもおかしくない。

 ベテランのモンスターテイマーでさえ震えあがるだろう。

 しかし彼らは、ドラゴンに立ち向かう。


 勝ち目はない。勝てるわけがない。それなのに、彼らは負けてやるつもりはないらしい。


 面白い。なら、見届けよう。この戦いの先を。

 ルーカスはが来るまで、待つことにした。



 ドラゴンは地面を踏み鳴らした。大震撼。振動がスライムの行動を封じる……はずだった。

 タクトはすでにサスケに回避指示を出していた。

 ぴょんぴょんと軽やかなステップをして間合いを取る。ドラゴンはさらに苛立つ。

『ガアアアァッ!』

 ドラゴンは火球を吐いた。しかも、連射。

 溜めのある炎のブレスほどの脅威はない。それでもスライムが受ければ即戦闘不能の威力がある攻撃だ。

 それも、サスケには当たらない。

 小さなスライムに対し、ドラゴンは大きすぎた。

 恐らくブレス以外にも広範囲の大技があるはずだったが、この遺跡の中ではその力が存分に発揮できないようだ。どうやらこの遺跡を傷つけたくないらしい。

 それでもやがてドラゴンはタクトたちを追い詰めるだろう。精神力、体力の限界に近づいている二人に対し、ドラゴンには消耗がない。

 サスケは素早い動きでドラゴンを翻弄し続ける。ドラゴンの苛立ちはピークを迎えようとしていた。


 超えろ。限界を、超えろ!

 まだ、死力を尽くしていない。まだ、やれる。

 次の一撃に、すべてを込める。


 タクトは魔力を集中させた。


 ドラゴンがブレスを溜め始めた。

 それは、誘いだった。タクトはそれに乗った。



 ──勝負だ!!



 タクトとドラゴンの視線が、交差した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る