第11話 信頼、そして勇気
「サスケッ!」
タクトは隅で震えているサスケに向かって叫んだ。
瞬間、サスケの震えは止まり、タクトの前に出た。
僕を信じて。タクトのその強い眼差しが、サスケを勇気づけた。
まさか、スライムでドラゴンに立ち向かうというのか。無茶だ。無謀だ。
「ルーカスさん! 僕が、サスケが一瞬……ほんの一瞬、隙を作ります! だから……!」
一瞬でも隙があれば、どうにかできるかもしれない。
「……わかった! キミを信じよう! ヘルメス……【力を溜めろ】!」
『ゴウ!』
ヘルメスは渾身の一撃を放つための力を溜め始めた。
「こっちだ、ドラゴン!」
『グォオ!!』
タクトがドラゴンの注意をひく。
なんて威圧感だ。踏ん張っていないと、足が震えて立っていられない。
怯んだらダメだ。立ち向かうんだ。
「サスケ! 【ウィンド・ステップ】!」
『ぴぃっ!』
タクトは風の補助魔法でスライムの速度を高めた。さらに【スピードアップ】の魔法の重ね掛け。ミカとの一戦で使ったものよりも一段階上の速度強化だ。
タクトが今、使用できる最大の強化魔法。本来の能力以上のものを引き出すと、モンスターの身体に大きな負担がかかる。しかし、これまで自分なりに懸命に育ててきたサスケなら、これに耐えられるはず。タクトはそう信じていた。
『グガァアアァッ!』
ドラゴンがサスケを叩き潰そうと、尻尾を振り回し始めた。
「サスケ、【ステップ】! 回避だ!」
ドラゴンの攻撃。しかし小さな小さなサスケの素早い動きを捉えきれない。
ドラゴンは今度は腕を振り回すもサスケには当たらない。
次第にドラゴンは苛立ちの声を上げ始めた。
そして、大きく息を吸い込む。ブレスを溜め始める──この瞬間を、タクトは待っていた。
「サスケ……【ジャンプ】!」
『ぴぃぃっ!』
サスケが跳躍した。
それに合わせて、タクトは風の魔法でサスケを押し上げる。ドラゴンは高く、高く飛ぶサスケを見上げた。
まずい。あれでは格好の的だ。しかし、隙はできた。今か──。ルーカスはヘルメスに指示を出そうとした。それをタクトが制止する。
「ルーカスさん、まだです! サスケ……天井にへばりつけ!」
サスケは天井にべたっとへばりついた。スライムが落下してくるものとばかり思っていたドラゴンは目測を誤り、ブレスをあらぬ方向へと放ってしまった。
広範囲のブレスとは言え、これなら十分に回避できる。
「サスケ! 尖って……硬くなれ!」
『ぴゅい!』
スライムがツララのように形状を変化させ、ドラゴンに向かって落下した。
タクトは風の魔法で速度を加速させ、サスケをドラゴンの眉間目がけて飛ばした。
【ニードルショット】。
タクトとサスケが編み出した、彼らの現時点で最強の技である。
ゴスッ。
鈍い音が響き渡る。
ドラゴンの表皮は硬く、眉間に攻撃が直撃したもののダメージはほとんどないだろう。せいぜい小石がぶつかった程度か。
『グ……ガアアアァァァァァアアァッ!』
ドラゴンの目が赤く光った。激怒している。これまでと比べ物にならない威圧感が放たれる。
自分よりも下等な種族の攻撃を受けた屈辱か。ドラゴンはサスケに向かって威嚇の咆哮を放つ。
これが、ドラゴンか。
なんて恐ろしいんだろう。しかし、強くて、美しい。タクトは震えながらも、笑っていた──。
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