第6話 出発

 やはり、チャンピオンの血を引いているだけのことはある。モンスターテイマーとしての才能、戦闘センスは抜群だ。

いや、それだけではない。あのスライム、大事に育てられている。

 タクトは【使役】という言葉を嫌う。彼にとってモンスターは『ともだち』。使い、使われる関係ではなく、ともだちのように仲良くなりたい。そんな想いがよく表れていた。

 ジョセフは感心した。これでスライム以外のモンスターが使役できるようになれば、さらにその才能を開花させることだろう。


 ミカはまだ、自分が敗北したことを認めたくないようで、タクトを睨みつけていた。

 彼女もまた優れたテイマー。ファイアリザードもよく鍛えられていた。

 スライムなんかに100%負けるわけがない。油断と慢心。無理もない。ジョセフもこの勝負、ミカが一瞬で決めると確信していたくらいだ。

どんな勝負にも『確実』はない。それを思い知らされた一戦だったとジョセフは思う。


「……負けは負け。今回は引き下がるわ。でも、次は確実に潰す。奇襲なんて通用しない、あたしのとっておきでぶっ潰してやるから……覚悟してなさい。ギース! いつまで寝てんの!? さっさと起きなさい! 行くわよ!」


 ミカは捨て台詞を吐き、ファイアリザードのギースを連れてずかずかと歩いて行ってしまった。

 同じ手はもう、通用しない。そしてその、“とっておき”のモンスターはファイアリザードよりもずっと強いのだろう。勝てるビジョンが、見えなかった。


「ハカセ、僕、もう行くよ。はやくメモリアシティにいかなきゃ」

 はやく七賢者に会って確かめなければ。

 スライムしか仲間にすることができないなんて……そんなこと、あるわけがない。



「待て待て。まず、そのスライムを回復してやる。【ヒール】」

 ジョセフの回復魔法により、スライムの傷は癒された。

「あとはこれをもっていくといい」

 ジョセフは青いバックパックを持ってきてタクトに渡した。

「この中に冒険に必要なアイテムが色々と入っておる。この先きっと、おまえさんの役に立つじゃろう」

「ありがとう、ハカセ! それじゃ、行ってきます!」

「うむ。気をつけてな」


 ジョセフはタクトとスライムの後姿を見送った。

 その姿が、かつてのタクトの父親の姿と重なり、ジョセフは目を細めた。


 タクトの旅が、始まる。

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