第324話 なんて置き土産を用意してくれたのよ。これじゃ私がお荷物になるじゃない

 恭介達が瑞穂に来て71日目、瑞穂は1~3期パイロットの乗せて高天原から出発した。


 格納庫でクルー全員がそれぞれのゴーレムに乗っていると、ラミアスがこれからどうやってアザトースのいる次元に向かうのか説明を始める。


『これから瑞穂はアザトースのいる虚世界ワールドオブホロウに移動します。ハイパードライブモードに入る瞬間に座標を入力してキャンセルすることで、虚世界ワールドオブホロウに無理矢理侵入します』


『ゲームのバグ技みたいだね』


 ラミアスの説明を聞いた瞬間、真っ先に晶が思いついたことを口にした。


 晶の発言に恭介達も頷いた。


 GBOにはバグ技なんて確認されていないけれど、世の中には様々なゲームが存在しており、バグ技を使って物語を進めるものもある。


 ゲームに触れたことがあるならば、バグ技の1つや2つ知っていることが多いので恭介達も頷いた訳だ。


『その通りだよ。実際、アザトースがいる場所には普通の手段ではいけないことがわかったんだ。だから、リスクがあるけどバグ技みたいなやり方で侵入するんだ』


『…あのさ、バグ技って大体リスキーで失敗すると大変な事になるんだけど、僕達ってちゃんと虚世界ワールドオブホロウに行けるんだよね?』


『大丈夫だよ。アップデート前の瑞穂だったら確率は半々だったけど、今の瑞穂なら100%辿り着けるから安心して。というかほら、こんな話をしてる内に虚世界ワールドオブホロウに着いたよ。これが外の様子だね』


 ルーナが瑞穂の外の景色をそれぞれのコックピットのモニターに映すと、そこは宇宙にしては星々の光がなくて真っ暗であり、唯一の光源が巨大な宮殿が建っている小惑星だった。


『あの宮殿からC301アザトースの強い反応が出ております。他にも反応が複数あるようですが、C301アザトースの反応が強過ぎて何がいるのか探知できません。申し訳ございません』


『あっ、これは不味いね』


 ラミアスが謝った直後にルーナが困った表情を見せた。


 その顔を見れば格納庫にいる場合じゃないと察し、恭介は全員に指示を出す。


『全員いつでも出撃できるようにしておけ』


『『『…『「了解」』…』』』


 恭介達が急いでゴーレムに乗り込んだら、ラミアスがそれぞれのゴーレムのモニターに映って追加情報を届ける。


『不確定情報ですが、C101バイアティス~C143ノーデンスまでの全ての単一個体が瑞穂に接近中です』


『ルーナ、どういうことだ? 何が起きてる?』


『分析完了。アザトースの持ってるネクロノミコンが悪さをしてるね。ラミアスが言った敵は全てネクロノミコンパーツで再現されてる。おそらく、アザトースが露払いのためにネクロノミコンのページを千切って配下のコピーをこっちに寄越したんだ』


『わりと冗談じゃない展開だな』


 いくら単一個体とはいえ、43体が一気に集まって襲撃して来るのは数の暴力としか言いようがない。


 囲まれたらかなり苦しい戦いになるだろう。


『ラミアス、ミサイル全弾発射。その後に副砲と主砲で数を減らせ。敵の数が減ったら、3期パイロットが出撃して撃破だ』


『承知しました。ミサイル全弾、撃てぇぇぇ!』


 ラミアスは恭介の指示に従い、まずは瑞穂が放てるだけのミサイルを全て発射した。


 ミサイルの雨が敵集団に降り注ぎ、半分以上がその爆発に巻き込まれて残骸だけ残る。


 その残骸を残った単一個体のコピーが喰らい、足止めできているのを確認してからラミアスが次の攻撃を始める。


パニッシュメント、撃てぇぇぇ!』


 副砲のパニッシュメントが強化を兼ねた食事をしている個体を撃ち抜き、それらを撃ち抜いた向こう側にある宮殿に命中する前に結界に阻まれた。


『結界を展開するぐらいには私達のことを警戒してるらしいな。ラミアス、主砲も撃ってくれ』


『承知しました。審判ジャッジメント、撃てぇぇぇ!』


 主砲の審判ジャッジメントが放たれ、43体いたはずの敵が3体まで削られた。


 生き残っているのはシュブ=ニグラス=ネクロノミコンパーツとツァトゥグア=ネクロノミコンパーツ、クタニド=ネクロノミコンパーツである。


 9割以上の単一個体をクルーが出張らずとも倒せたと考えると、瑞穂のアップデートによる恩恵はかなり大きいと言えよう。


 敵の数を減らしている内に明日奈達の準備が整い、明日奈はコメットゲイザーをカタパルトの上に移動し終えていた。


『明日奈さん、恭介さん達のために邪魔者を排除して下さい。コメットゲイザー、発進どうぞ!』


「等々力明日奈、コメットゲイザー、出るわ!」


 カタパルトから射出され、コメットゲイザーが瑞穂の外の宇宙空間に飛び出してから仁志達が続く。


『山上仁志、ドミヌスコンダクター、発進する!』


『笛吹遥、トリスタン、出るわよ!』


『田辺潤、ドレッドポープ、行きます』


 ドミヌスコンダクターとトリスタン、ドレッドポープもカタパルトから射出され、明日奈のコメットゲイザーの後ろに続く。


 明日奈達がシュブ=ニグラス=ネクロノミコンパーツ達を視界に捉えた時、心をざわつかせる音楽が明日奈達の耳に届く。


 その直後にラミアスがアナウンスでその正体を知らせる。


『3期パイロットの皆さん、新手です! C144トルネンブラが潜んでおります! 気を付けて下さい!』


『トルネンブラは姿形を持たず、生きた音そのものとして知られる存在だよ。範囲攻撃が有効だね』


『それなら私がトルネンブラを引き受けます』


 名乗り出たのは潤だった。


 潤ならば不幸爆弾バッドボムで範囲攻撃ができるから、明日奈も潤に任せることにした。


「頼むわ。私がクタニド=ネクロノミコンパーツを引き受けるから、山上さんがツァトゥグア=ネクロノミコンパーツ、笛吹さんがシュブ=ニグラス=ネクロノミコンパーツを倒しましょう」


『『了解』』


 明日奈が素早く戦う相手を振り分け、仁志と遥はそれに従った。


 遥はシュブ=ニグラス=ネクロノミコンパーツの見た目に忌避感を抱いており、それに加えてトルネンブラの流す音楽のせいでイライラしていた。


 そのせいで攻撃が雑になっていたけれど、シュブ=ニグラス=ネクロノミコンパーツのサイズが大きかったおかげで攻撃は次々に命中した。


 その一方、仁志はツァトゥグア=ネクロノミコンパーツの見た目に忌避感こそ抱いていなかったが、トルネンブラの流す音楽のせいでいまいち集中できていない自覚を持っていた。


『この纏わりつくような音楽が鬱陶しい』


 ツァトゥグア=ネクロノミコンパーツにタクトオブタイラントで致命傷を与えたが、どうにも仁志の顔色は優れない。


 致命傷を負って動きが鈍れば、勿論追撃して敵を仕留めるのだけれどやはり気分が優れなかった。


 明日奈はクタニド=ネクロノミコンパーツの髭を躱しつつ、フライトユニットのガトリングガンで迎撃し、コメットゲイザーの両手に持ったデュアルクリムゾンで髭を切断してじわじわとダメージを与えていた。


 仁志や遥と違い、トルネンブラの音を不快だと思ってもそれで集中力が鈍るようなことはなかった。


 それを見てコメットゲイザーのモニターに現れたルーナが分析する。


『どうやらギフトレベルが40以下のパイロットに影響が出るみたいだね。どうにも仁志君と遥ちゃん、潤君の動きがいつもよりも大雑把だ』


「私のギフトレベルが41で、彼等が40ってことを考えるとそのようね。ギフトレベル40でも通じる精神攻撃って結構厄介じゃない?」


『アザトースのお膝元にいられるんだから、普通に考えて雑魚なはずないよね』


「そうね。クトゥルフ神話の侵略者達の王が雑魚を侍らせるとは思えないわ」


 ルーナの考察を聞き、明日奈はその通りだと頷いた。


 当然、ルーナの考察を聞いている間も明日奈はクタニド=ネクロノミコンパーツの攻撃を捌いており、デュアルクリムゾンで斬られれば斬られる程クタニド=ネクロノミコンパーツは苦しんでいた。


『おのれ、ロキの手先はまたしても卑怯な武器を使うんですね』


「私はトゥモロー様の騎士。それ以上でもそれ以下でもないわ」


 追跡曲砲トレースキャノンでとどめを刺しつつ、明日奈はクタニド=ネクロノミコンパーツの発言を否定した。


 それと同時に潤もトルネンブラを不幸爆弾バッドボムで倒し、周辺に単一個体の反応は消えた。


 ところが、トルネンブラはとんでもない置き土産を用意していた。


「えっ、嘘でしょ? 動かないわ」


『俺の方も駄目だ』


『私の方も動かせない』


『ドレッドポープも動かせませんね』


 トルネンブラは力尽きるまでの間に、自分が流していた音楽の効果で明日奈達が乗るゴーレムを時間差で操縦不能にしたのである。


 色々試しても明日奈達のゴーレムは言うことを聞かず、ルーナは少し考えてから4人に指示を出す。


『ゴーレムチェンジャーでサブのゴーレムに乗り換えてから帰艦して。君達はこの後、瑞穂で待機してもらう』


「なんて置き土産を用意してくれたのよ。これじゃ私がお荷物になるじゃない」


 恭介と共にこのまま宮殿に攻め込みたかった明日奈だが、サブのゴーレムで恭介の足を引っ張る訳にはいかないからルーナの指示に従って他の3人と共に瑞穂に帰艦した。

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