第323話 もう、恭介君ってばツンデレなんだから
その日の夜、屋敷の寝室では麗華が上手く寝付けなくてベッドから起き上がった。
隣ではスヤスヤと恭介が寝ており、麗華は恭介の頭を優しく撫でる。
「恭介さんはすごいなぁ。こんな時でもぐっすり眠れるなんて」
それに比べて自分はアザトースとの決戦を前に気持ちが昂っているのか、なかなか寝付けなかったため水でも飲んで落ち着こうとベッドを抜け出した。
そのタイミングでベッドが揺れたため、眠っていた恭介も目を覚ました。
「…麗華、どうした?」
「ちょっと眠れないから水でも飲もうかと思って」
「そうか。じゃあ、俺も飲みに行くかな」
恭介は麗華のことが心配だったから、自分もベッドから起き上がって麗華と一緒にキッチンに向かった。
コップ1杯の水を飲んだ後、恭介と麗華は寝室のベッドに戻った。
「明日の戦いが心配で眠れない?」
「うん。ほとんど何もわからない敵と戦う訳だし、それがラスボスなら尚更心配だよ」
明日はハイパードライブではなく、ルーナが特定した次元に穴をこじ開けてそこに進むから移動したらいつでも戦える準備をしなくてはならない。
そう考えれば、恭介の隣にゆっくりといられるのは今が最後だろうから、麗華は今の内に恭介を近くに感じておきたいとも思っている。
それも眠れなくなってしまった原因の1つである。
心配そうな表情の麗華に対し、恭介は少しでもリラックスできるように麗華のことを抱き寄せた。
「麗華のことは俺が守るから安心しろ」
「私だって恭介さんのことを守るもん」
恭介の言葉は嬉しかったが、自分は守られるだけの存在ではないとも思ったので、麗華は少しだけ頬を膨らませて抗議した。
「そうだな。俺の背中は麗華に預けるよ」
「うん。そうして。私も恭介さんに背中を預けるから」
麗華がそれで良いんだと笑えば、恭介もそれに釣られて微笑んだ。
少しだけ安心したけれど、麗華はまだ眠気を感じなかったから恭介に訊ねる。
「私が眠くなるまでお喋りに付き合ってくれる?」
「良いぞ。俺も目が冴えちゃったし」
これは本当のことで、恭介も水を飲んで眠気が吹き飛んでしまったのだ。
もっとも、仮に眠かったとしても今の麗華を放って自分だけ寝るなんてことはできないから、恭介は意地でも起きているつもりだったが。
「ありがとう。恭介さんはさ、子供は何人欲しい?」
「唐突だな。どうしていきなりそんな話に?」
「私も商売神の力に目覚めたから、恭介さんとずっと一緒にいられるなって思ったの。それで恭介さんはどれだけ子供が欲しいのかなって気になって訊いてみた」
「そうだったな。子供かぁ。少なくとも男女1人ずつは欲しいかな」
「そ、そうだよね」
恭介の答えを聞いて麗華の目が泳いでいた。
どうやら2人では収まらないぐらいには、麗華は子供が欲しいようだ。
「麗華は何人欲しいの? その感じからして2人じゃ済まないと思うけど」
「5人かな?」
「なんで疑問形なんだよ。というか本当はもっと欲しそうだな。正直に言ってごらん」
「本当は10人欲しい」
5人でもこの時代ではかなり子だくさんなのだが、実は麗華の希望はその倍だった。
長い時を一緒に過ごせるとわかったから、麗華の子供が欲しい欲求が強くなったらしい。
「俺は良いけど麗華は大丈夫なのか? 出産って大変だと思うけど」
「大丈夫。恭介さんとの子供がいっぱい欲しいもん。この気持ちは嘘をつけないよ」
「麗華が良いならそう思ってくれるのは嬉しいな」
恭介の場合、血縁上の父親を屑認定していて母親はここ最近になって和解したから、仲の良い家族を築き上げたいという気持ちがある。
子供の数が多くなるのはウェルカムであり、麗華がそう言ってくれるのは嬉しかった。
「ルーナにエッチって言われたけど、別にエッチじゃないんだかねっ。私は子供が好きなだけだからねっ」
「なんでツンデレ風? 大丈夫だって。麗華がエッチだとか思ってないから。大胆だとは思ってたけど。混浴して来たり、一緒に寝たいって言って来るって今思えば結構大胆だったよな」
「うぅ、恭介さんの意地悪。そもそも恭介さんが鈍感だったから、あれぐらいやらないと駄目だったんだよ」
「それは本当にすまないと思ってる」
父親のせいで恋愛を理解しようともしていなかったから、麗華の好意を受け止めるまでに時間がかかってしまった。
それについて恭介は本当に申し訳ないと思っていた。
今ならいかに麗華が好きだとアピールしているのかわかるけれど、当時は何も理解できていなかったのだから仕方あるまい。
麗華も意地悪をしてしまった自覚があったから、申し訳なさそうに笑う。
「ごめんね、意地悪だったね。私もそれだけ恭介さんを落としたかったんだよ」
「落とされました」
「落としました」
恭介が苦笑したのを見て麗華がニッコリと笑い、恭介の胸に顔を埋めた。
落としたとドヤッたものの、少し恥ずかしくなってそれを誤魔化すために恭介の胸に顔を埋めたのだ。
恭介の胸の鼓動を聞いてリラックスしたらしく、麗華はそれからすぐに寝息を立て始めた。
恭介は麗華が寝入ったのを確認したため、自分も目を閉じて眠りに着いた。
気がついた時、恭介はパジャマ姿のまま真っ白な空間にいた。
そこにいるのは勿論ルーナだった。
「麗華ちゃんのターンは終わりだよ。次は私のターンだね」
「寝てる時ぐらい休ませろよ」
即レスする恭介にルーナが顔を引き攣らせる。
「ね、ねぇ、麗華ちゃんに見せる優しさの10分の1でも良いから私に見せてほしいな」
「えっ、無理」
「即レスかよ畜生!」
「帰って良い?」
「
そうは言ってもルーナが意味もなく呼び出さないだろうから、恭介は本気で変えるつもりもなかった。
「それで、用件は何?」
「激励しようと思ったのさ。ほら、皆が起きてる時に恭介君だけ応援するのは不公平でしょ? だから夢にちょっとお邪魔したのさ」
「俺だけ激励せずにみんなと一緒に応援してくれれば良いのに」
「そんな冷たいことを言わないでよ。私と恭介君の仲じゃないか」
ルーナが自分を依怙贔屓する理由について、自分はクトゥルフ神話の侵略者達に対する切札だからだと恭介は考えていた。
しかし、実際にはルーナの幼馴染と恭介のタイプが似ているから、それもあって自分と話したかったことを恭介は知らない。
「関係性と言えば、加害者と被害者だな」
「酷いなぁ。大事なことが抜けてるよ。私達は仲良し神の先輩後輩コンビじゃないか」
「そんなコンビを組んだ覚えはないな」
「そんなぁ…」
ルーナはショボーンという効果音をこの場で流し、落ち込んでいることをアピールした。
ここまで露骨に落ち込まれると申し訳なく感じたため、恭介はやれやれと首を振った。
「仕方ないな。話に付き合ってやる」
「もう、恭介君ってばツンデレなんだから」
「…帰るぞ?」
「ごめん。謝るから帰らないで。本当に恭介君と喋ってると思い出すなぁ」
恭介の言動が幼馴染に似ており、ルーナは幼馴染のことを思い出した。
恭介は自分が誰かに似ているのだろうと予測し、偶にはルーナの話も聞いてみることにした。
「俺が誰かに似てるのか?」
「うん。私の幼馴染に似てるんだ。あっ、あの子は人間だったからもう死んでるからね」
「反応に困ること言うなっての」
「ハハッ、人間から神様になったらこういうことはあるんだよ。恭介君は麗華ちゃんってパートナーがいるから寂しくないね」
ルーナには恭介にとっての麗華みたいな存在がいなかったから、恭介が時空神の権能に目覚めるまで共に生きられる仲間がおらず独りぼっちだった。
時折ルーナから伝わって来る悲しみは感じ取れていたから、ルーナも自身を知る者が減っていく悲しみを味わいたくないのだろうと思い、恭介は返す言葉に気を付ける。
「悲しいこと言うな。これからは俺も麗華もいるんだから、ルーナがぼっちになることはないだろ」
「…恭介君、ありがとう!」
ルーナは満面の笑顔で恭介に抱き着いた。
チョロいと言ってはいけない。
ルーナだって独りぼっちは寂しいから、恭介の言葉が嬉しかったのだ。
「こら、妻帯者に頬擦りするんじゃない」
「気のせいだよ。恭介君、質の良いパジャマを着てるね」
「頬擦りして確かめてるじゃねえか」
「そんなことないよ。このパジャマ、着心地良さそうで良いよね」
「おい」
この後、ルーナが頬擦りしていることを認めるまでくだらないやり取りがしばらく続いたが、咳払いをしてルーナはキリッとした表情になった。
「まあ、冗談はさておき、明日は頑張ってね。無事に帰って来てくれることを祈って新しいレースコースを準備しておくから」
「そりゃ楽しみだ」
ルーナもなんだかんだで恭介の扱い方を理解していた。
いつの間にか時間は経っており、起床時刻を迎えて恭介の意識が浮上した。
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