第322話 札束ビンタは通常攻撃じゃないでしょうが

 恭介に抱き着いたおかげで気合十分な麗華は、機舞円環ダンシングメビウスを装備したシグルドリーヴァに乗り込んでコロシアムにやって来た。


「来たわよ」


『いらっしゃい。さっきは恭介君に自分の匂いを上書きするとか言って、恭介君の体を堪能してたよね。エッチじゃん』


「黙らないと恭介さんにデコピンお願いしちゃうけど?」


『…新手の脅し方を覚えたんだね。話せばわかるよ。落ち着こうじゃないか』


 恭介のデコピンは思ったよりも痛かったようで、ルーナは早まるんじゃないと麗華にジェスチャーも交えて訴えた。


 ルーナも麗華を軽く揶揄いたいだけだったから、すぐに真面目な表情に戻って本題に入る。


『オホン、麗華ちゃんにも恭介君と同様にミラージュデュエルに挑んでもらうよ。準備は良いかい?』


「準備はできてるけど1つ質問するわ。アザトースにも権能があるのかしら? あった時にそれに対応できないのは困るんだけど」


『申し訳ないんだけど、アザトースの権能は完全に特定できてないんだ。わかってるのはネクロノミコンを有してて、破壊が得意らしいってことだけだよ』


「後手に回ってるわね。まあ、いつものことだけど」


『最近、麗華ちゃんも恭介君も私の煽り方を覚えて来たよね。実に良くないことだよ』


 ルーナがムッとした表情になるけれど、麗華はそれをスルーしてシグルドリーヴァを操縦してルーナが開いた入場門をくぐった。


 コロシアムの中には、オリジナルと同様に緑色の機舞円環ダンシングメビウスを装備したシグルドリーヴァが待ち構えていた。


 オリジナルの機舞円環ダンシングメビウスは元々が白い兵装ユニットだが、装備された瞬間に装備したゴーレムと同じカラーに染まる。


 したがって、今は向かい合うシグルドリーヴァが装備する機舞円環ダンシングメビウスはどちらも緑色なのだ。


 機舞円環ダンシングメビウスは盾形態のパラダイスロストがボディでアルテマバヨネットの銃口が前面に突き出し、ガトリングガン形態のインジャスティスがボディの下部に固定されている。


 両翼はフォビドゥンアサルトによって形成されており、機舞円環ダンシングメビウスは麗華が現在使える4機全ての装備の集合体とも呼べる兵装ユニットだ。


 ゴーレムに装備されると、集合していた武器が分解してメビウスを描くようにゴーレムの周囲を回りつつ自動で攻撃と防御を行ってくれる。


 なお、機舞円環ダンシングメビウス機王円環ロイヤルメビウスと同様に使用者がゴーレムを乗り換えても消えずにその場に残るように設定されているから、夜明拓装デイブレイカー自警盾団ヴィジランテよりも使いやすくなっている。


 戦闘開始の合図として、双方のガトリングガン形態のインジャスティスの乱射が始まる。


 麗華は速やかにゴーレムチェンジャーを使い、ネクサスに乗り換えて風属性に対して相性を良くした。


 機舞円環ダンシングメビウスのパラダイスロストがダメージを稼ぐ際に、耐久力を考慮してのことだ。


 ところが、麗華のコピーも同じ考えで動いたため、ネクサスに乗り換えていたから機舞円環ダンシングメビウスのパラダイスロストに着弾した攻撃の大半は火属性で相性の良し悪しはなかった。


 (思考まで同じってのは想像以上に厄介ね。これからは恭介さんのアドバイス通りやるわ)


 初手は様子見であり、本当に自分のコピーと思考回路がそっくりであることを理解できた。


 そうであるならば、次にやるべきは恭介にアドバイスしてもらった通りに普段の自分が選ばない攻撃手段を選ぶことだ。


 現状でいつもならヴォイドに乗り換えるのだが、麗華はアルスマグナに乗り換えた。


 麗華のコピーは普段通りの思考で水属性のヴォイドに乗り換えていたから、属性的には土属性のアルスマグナは有利である。


 しかも、アルスマグナは専用兵装ユニットの厭世連砲ペシミストが加わったことによってスペックが上がり、ヴォイドによって動きが止められないラインに乗った。


 厭世連砲ペシミストはアルスマグナの妖精の翅に追加された複数のビームキャノンであり、左右にそれぞれ3つずつ砲門があるから一気に6つのビームを放てるようになった。


 ゴーレムの乗り換えで自分のコピーが動揺している隙を利用し、麗華はすぐに厭世連砲ペシミストを含めた全武装を一斉掃射した。


 機舞円環ダンシングメビウスで攻撃を防げるのは盾形態のパラダイスロストのみだから、麗華の攻撃を全て防ぎ切ることはできず、厭世連砲ペシミストの6つのビームの内2つがヴォイドの脚に命中した。


 負傷した機体では十全に戦えないから、麗華のコピーはすぐにシグルドリーヴァに乗り換える。


 麗華はここでネクサスに乗り換えた。


 裏をかいて別のゴーレムに乗ることも考えたが、火属性のネクサスに対して有利なヴォイドが脚部を損傷した以上、麗華のコピーがヴォイドに乗り換えることはないと確信してのことだ。


 4つの属性のゴーレムに乗り換えて戦う場合、どれか1機でも失うと後出しじゃんけんができなくなるデメリットがある。


 同じ思考回路だったとしても、使える手段が限られていれば全く同じことはできないし今なら麗華が優位に立てる。


 ネクサスを相手にシグルドリーヴァに乗る訳にはいかないから、麗華のコピーはアルスマグナに乗り換えて麗華に攻撃する。


 しかし、土属性の攻撃ならば火属性で受けても耐えられるので麗華はそのまま機舞円環ダンシングメビウスのパラダイスロストでダメージを稼いだ。


 そのおかげで機舞円環ダンシングメビウスのパラダイスロストはビームキャノンに変形可能になり、麗華は一気に攻勢に出る。


 (ここから先はずっと私のターンよ)


 アルスマグナを相手に一気に攻撃を仕掛け、麗華のコピーは攻撃手段が足りず防戦一方である。


 機舞円環ダンシングメビウスのパラダイスロストは1つしかないから、どうしても防ぎ切れない部分があってアルスマグナも守られていない側に被弾してしまう。


 すかさず麗華のコピーはネクサスに乗り換え、盾を2つにしてそれらの攻撃を捌き始める。


 機舞円環ダンシングメビウスのパラダイスロストはビームキャノンに変形できるようになり、迎撃し始めたことで麗華のコピーは少しだけ持ち直した。


 だが、麗華はヴォイドに乗り換えて水属性の優位性で押し切る。


 インジャスティス2つをガトリングガンにすれば、盾1つではどうしても捌き切れなくなり、揚棄双砲アウフヘーベンの片方がネクサスの左肩に命中し、そのまま左腕が失われた。


 麗華のコピーが最後の砦であるシグルドリーヴァに乗り換えたら、麗華もシグルドリーヴァに乗り換えてホーミングランチャー形態のアルテマバヨネットを連射し始める。


 機動性という点で麗華のゴーレムの中で最も優れるシグルドリーヴァだが、同じシグルドリーヴァと戦って機舞円環ダンシングメビウスを全て攻撃に割けない以上、逃げるしかない。


 それに対して、麗華は機舞円環ダンシングメビウスのアルテマバヨネットもホーミングランチャー形態に変えて敵を追跡するビームの数がどんどん増えていく。


「チェックよ。ギフト発動」


 100万ゴールドをコストに金力変換マネーイズパワーを発動し、麗華は敵のシグルドリーヴァが回避するだろうコース目掛けて翡翠衛砲ジェイドサテライトの一撃を放った。


 それが見事に命中し、麗華のコピーが乗るシグルドリーヴァは爆散した。


「チェックメイト。自分と同じ機体を撃つって良い気分じゃないわね」


『麗華ちゃんは金の力に物を言わせ、シグルドリーヴァは自分の乗る1機だけで良いと言って撃墜するんだね。札束ビンタが通常攻撃の人は怖いなぁ』


「札束ビンタは通常攻撃じゃないでしょうが」


 麗華はルーナにツッコミを入れつつ、シグルドリーヴァのモニターに映るバトルスコアを確認し始める。



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バトルスコア(バトルメモリー・ミラージュデュエル)

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討伐タイム:12分46秒

対戦相手:明日葉麗華=レプリカ

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総合評価:S

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報酬:資源カード(食料)100×10枚

   資源カード(素材)100×10枚

   100万ゴールド

ノーダメージボーナス:ワープチケット

デイリークエストボーナス:魔石4種セット×100

ギフト:金力変換マネーイズパワーLv50(stay?)

コメント:おめでとう。商売神の権能が目覚めてるよ。破壊神じゃなくて良かったね

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 (破壊神じゃなくて本当に良かった)


 コメント欄を見た麗華は心の底からホッとした。


 ルーナから自分は商売神か破壊神のどちらかになると告げられていたため、言葉の感じからして危険な破壊神の権能が目覚めなくて安心したのだ。


 麗華は懸念事項が払拭されてご機嫌な様子でコロシアムを脱出し、そのまま瑞穂の格納庫に戻った。

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