第317話 敵の中心にぶっといものをぶち込んだ気分はどうだい?
明日奈と潤がヨグ=ソトース=グリモアと戦っていた頃、仁志は田中と万里香を連れてミスカトニックアーカイブを侵攻していた。
ディープワンと黒い仔山羊が巡回していたため、仁志は基本的に戦闘を田中と万里香に任せて周囲の警戒を行う。
最初に4期パイロットが戦ったようなグリモアがどれだけおり、何処から攻めて来るかわからないからである。
『
『単一個体はグリモアがコピーした姿でしか出て来ないのかもしれませんね』
「そうとは言い切れません。先程、俺達に見向きもせず久遠に向かったグリモアは、ヨグ=ソトースに似てました。となると、グリモアは上位単一個体に化けられる可能性があります」
『『えっ』』
仁志の考えを聞いて田中も万里香も冷や汗をかいた。
何故なら、上位単一個体ならばナイアルラトホテップも含まれてしまうからである。
3期パイロットが明日奈以外手も足も出なかった敵に出て来られたら、自分達では勝ち目がないとわかればこその反応と言えよう。
そこにグラディスからアナウンスが3人に届く。
『仁志さん、田中さん、万里香さん、気を付けて下さい。C109Gダゴン=グリモアがそちらに接近中です』
そのアナウンスが聞こえた直後、仁志達のいる場所に向かう鱗や水かきのついた手足、魚類然とした面貌を持つ巨大な魚人が姿があった。
「では、このグリモアにも2人に戦っていただきましょうか。勿論、ピンチの時は俺がフォローしますので自由に戦ってみて下さい」
『『了解』』
あくまでミスカトニックアーカイブ侵攻作戦の主役は4期パイロットだから、仁志が最初から戦闘に介入する訳にはいかない。
面倒を見ている田中と万里香がピンチになった時、初めて戦うことに決めている。
そうでなければ、ミスカトニックアーカイブ侵攻作戦を3期パイロット4人で引き受けるだろう。
ダゴン=グリモアが万里香の乗るオルタナティブγを狙って攻撃しようとしていたため、田中はオルタナティブΔでダゴン=グリモアのヘイトを稼ぐように迎撃する。
まだ攻撃をしかけていないオルタナティブγと攻撃して来るオルタナティブΔならば、当然後者の方が鬱陶しいから、ダゴン=グリモアはすぐにターゲットをオルタナティブΔに変更した。
両手の水掻きをバチッと叩くように合わせたら、その衝撃波がオルタナティブΔに向かって飛んで行く。
『どうしたよ? その程度か? 遅過ぎるぞこのヌメヌメ野郎』
アスタリスクによく似たオルタナティブΔゆえ、背中のフライトユニットでチクチクとダゴン=グリモアの攻撃を躱しながら反撃しており、それがダゴン=グリモアの苛立ちを強める。
ダゴン=グリモアが両手を振り払えば、両手の水掻きの先から水の弾丸が5つずつ飛んで行く。
それは先程の衝撃波よりも速かったため、田中が避けるのは少しギリギリになった。
そうだとしても、田中が十分にヘイトを稼いでくれたおかげで、万里香はダゴン=グリモアの背後から攻撃してダメージを蓄積させる。
万里香の与えたダメージ量が田中を超えてしまい、ヘイトが万里香に動きそうになったため、田中は慌てて攻撃回数を増やす。
既に今日の分の
したがって、今は自身がもっと危険な目に遭うことを承知でダゴン=グリモアに接近し、ダメージを与えることを優先した。
その甲斐あってダゴン=グリモアのヘイトを自身に向け続けることに成功し、敵の懐に入って戦っていた田中は先程以上に速く避けなければならなくなった。
その隙に万里香がダゴン=グリモアの後頭部にクリーンヒットさせて怯ませたから、田中も攻撃に回ってダメージを与えてダゴン=グリモアを倒した。
ところが、戦闘はそれだけでは終わらなかった。
『続報です。C110Gハイドラ=グリモアがそちらに接近しております』
『マジか』
『嘘でしょ?』
被弾こそないけれど、ダゴン=グリモアを倒すのにそこそこ時間がかかったため、田中も万里香も疲労の色が隠せない。
次で出撃してからの単一個体との戦いは3戦目だから、今までの経験において田中と万里香はハードな条件で戦っている。
「どうしますか? キツそうならば俺も戦闘に加わりますが」
『やれるだけ2人で戦います』
『ギリギリまで手を出さないで下さい』
「わかりました」
若干2人を煽るような言い方になったから、田中と万里香がムキになっているのは否めない。
ダゴン=グリモアは巨大ではあっても頭が1つだったが、現在仁志達の視界に映っているハイドラ=グリモアは頭の数が多い。
頭の数だけ攻撃手段が多いから、これからは苦戦を強いられることだろう。
実際、ハイドラ=グリモアの攻撃が始まって田中が必死にヘイトを稼ぐけれど、1人では受け切れずに万里香も攻撃されてしまっている。
「残念ですが、ここから先は俺も参戦します」
これ以上黙って見ていると被害が出ると判断し、仁志は
その隙に田中と万里香がハイドラ=グリモアから距離を取り、仁志はタクトオブタイラントを構えてハイドラ=グリモアの首を順番に落としていく。
タクトオブタイラントはタクトオブフィクサーにナイトメアを合成して完成した武器で、メイスとビームアックス、パイルバンカーに変形可能な杖だ。
今はビームアックス形態のタクトオブタイラントを振るっているから、仁志はどんどんハイドラ=グリモアの首を落としている。
ドミヌスコンダクターのスペックがあるからこそ、自身に攻撃が来る前に躱して次の攻撃ができるのであり、長重武器はそんなに取り回しやすいものではない。
『ビームアックスってあんなにガンガン攻撃できるものじゃないでしょ…』
『これが私達と3期パイロットの差なんですね…』
田中と万里香が驚いているけれど、仁志からすれば自分の動きなんてまだまだだと感じている。
近接戦闘も行う恭介なんて、紙一重で敵の攻撃を躱しながら敵を仕留めているから、仁志は恭介の技を少しでも真似したいところだ。
しかも、恭介は自分と違ってそこまで戦闘が好きな訳でもないはずなのに、それでも自分よりも戦闘が上手いのだから困ったものだ。
恭介と自分の差が開き過ぎているため、今の仁志は沙耶に追いつくことを目標としているが、沙耶も3期パイロットに追いつかれるように必死に腕を磨いているから、なかなか仁志が操縦の腕前で追いつけていない。
ハイドラ=グリモアの視界を遮る霧の壁が消えて来た時には、ハイドラ=グリモアの頭は残り4分の1も残っていなかった。
再生にエネルギーを使ってしまえば、仁志に弱ったところを畳みかけられてしまうから、ハイドラ=グリモアは残った頭で仁志に対処することを決めたようだ。
その代わり、口から放たれるビームの威力は墜ちておらず、頭部を斬り落とされた首は鞭のように使っている。
ハイドラ=グリモアの攻撃をスイスイと躱し、仁志は敵の懐に潜り込んだ。
「そろそろ終わりにしようか」
タクトオブタイラントをパイルバンカーに変形し、ハイドラ=グリモアの中心部にそれを打ち込んだ。
それがハイドラに変身していたグリモア本体に刺さり、グリモア本体に風穴が開けばハイドラ=グリモアは変身を解除して動かなくなった。
『敵の中心にぶっといものをぶち込んだ気分はどうだい?』
「わざとらしくそういう言い方をするな。偶々だ」
『玉だけに? どっちかって言うと竿だけどエッチじゃん』
「お前もう黙れ」
フォルフォルがハイドラ=グリモアを倒したところでダル絡みして来るから、仁志はうんざりしたように言って会話を打ち切った。
『仁志さん、お疲れ様です。周辺にグリモアの反応はなく、担当されているエリアにも敵性反応はございません。遥さん達と合流して下さい』
「了解。田中さん、万里香さん、行きますよ」
『『了解』』
グラディスが遥と合流するように言ったから、仁志はそれに従うことにして田中と万里香に声をかけた。
グリモアが単一個体に化けられる以上、化ける先によっては自分達だけでは対処できない可能性があるから、仁志達は遥達との合流を急いだ。
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