第315話 ここって時には頑張らないと勝者にはなれない! 頑張れ俺!

 恭介達が瑞穂に来て70日目、久遠はハイパードライブを終えてミスカトニックアーカイブ付近まで来ていた。


 3期と4期パイロットの8人は待機室パイロットルームに集まっており、出撃する前にそれぞれのメンターとメンティーが話をしていた。


 その中で明日奈は万里香と装備について語り合っていた。


「オルタナティブシリーズにはトゥモロー様が使うような兵装ユニットはないの?」


「日本を出発する前に技術チームがアイディア出ししてる段階だったわ。火力支援兵装ユニット夜明拓装デイブレイカーと防御支援兵装ユニット自警盾団ヴィジランテよね?」


「情報が古いわ万里香。その2つは合成されて攻防支援兵装ユニット機王円環ロイヤルメビウスになったの」


「それは知らなかったわ。どんな兵装ユニットなの?」


 万里香が知らないのも当然のことで、攻防支援兵装ユニット機王円環ロイヤルメビウスはドリームランド侵攻作戦の報酬で恭介が手に入れたユニット合成キットによって完成した。


 合成したことで装備可能なゴーレムが限定されてしまい、現状だと恭介が普段使いしている4機とドライザーだけしか装備できないから、実質恭介専用の兵装ユニットだ。


 麗華もユニット合成キットは手に入れたのだが、合成しても攻防支援兵装ユニット機王円環ロイヤルメビウスにはならなかった。


 これは合成した際にレアな結果が出てしまったからであり、やはり恭介が幸運の持ち主であることを示していた。


 攻防支援兵装ユニット機王円環ロイヤルメビウスはビームキャノン形態のライトニングメナスが水平に並び、両翼は斬馬刀形態のビヨンドロマンで上下はリフレクトシールド形態のビヨンドカオスが2枚で挟み込む形で構成されている。


 恭介のゴーレムが装備する際は、装備が分離してゴーレムの周囲をメビウスの環を描くように周回し、攻撃を受けた際は自動的に2枚の盾が防ぐ。


 攻撃は2本の剣が自動で至近距離の敵を攻撃し、遠距離の敵はビームライフルが自動的に狙撃する。


 どの武器も白と金がベースのデザインになっており、王に相応しい荘厳さを感じられる。


 以上を明日奈がドヤ顔で説明したところ、万里香はかなり悔しがった。


「ぐぬぬ、狡い。ずる過ぎるわ。私だって実物が見たい」


「フッフッフ。こればっかりは瑞穂クルーの特権ね。悔しかったら瑞穂クルーになってみなさい」


「くっ、簡単にはなれないとわかっててそんなことを言うなんて、悪魔みたいな明日奈ね」


「誰が悪魔よ」


 悪魔ではないかもしれないが、明日奈は恭介関連では異常者認定されているヤバい奴なのは間違いない。


 恭介が麗華と結婚式を挙げている隙に、恭介達の屋敷に忍び込もうとしていたことを知っているのは数名であり、他の3期パイロットはその話を知らないけれど、恭介関連で明日奈が以上な執着を持っているのは共通認識である。


 その一方、遥は茜と作戦前にリラックスした雰囲気で話をしていた。


「仁志君との仲は順調みたいね。遥はいつ式を挙げるつもり?」


「それが悩んでるのよね。どちらの両親やそれ以外の家族も日本にいるから、高天原で式を挙げるなら高天原に来るつもりのある家族が来てからの方が良いのだけど、高天原には行けなくとも式には出たいって人もいてね」


 現在、高天原にいるのは恭介と麗華、沙耶の親だけだ。


 それ以外の瑞穂クルーの家族は移住の準備が終わらなかったため、次に瑞穂が日本に立ち寄ったタイミングで移住できる者だけが移住する手筈になっている。


 瑞穂クルーにも兄弟姉妹がいる者もいて、その家族も移住を希望するケースもあれば残留を希望するケースもあるけれど、仁志と遥の結婚式には参列したいと思っているものが多いのは確かなのだ。


 遥の話を聞いて茜は短く息を吐く。


「はぁ、贅沢な悩みねぇ」


「茜だって本気になれば口説き落とせるんじゃないの?」


 遥がそう言ってチラッと視線を送った先にいるのは、仁志と話している博己である。


 茜は博己のことが好きなのだが、博己に対してアプローチらしいアプローチをしておらず、博己も茜が自分を好きだと思ってくれていることに気づけていない。


「さっさと告白しちゃって付き合いたいなと思うこともあるけど、博己って色々と癖のある異性にモテるのよ。だから、私が博己にアプローチすることで、博己に迷惑がかかりそうで怖いのよ」


「あぁ、なるほど…」


 明日奈を知っている分、それに近い性質の女性が博己のことを好きだとすれば、気軽にアプローチできないというのは遥も頷けた。


 残念ながら、博己と茜がくっ付くには何か1つでも大きなイベントが必要なようだ。


 そんな時、待機室パイロットルームのモニターにグラディスが映る。


『総員、第一種戦闘配備。繰り返します。総員、第一種戦闘配備。ミスカトニックアーカイブよりC108Gウボ=サスラ=グリモアが接近中です』


『私から補足するよ。ミスカトニックアーカイブには危険なグリモアやSAN値を削って来る危険で貴重な書物が収蔵されてるんだ。久遠に接近中のウボ=サスラ=グリモアはウボ=サスラをグリモアが再現した個体だね』


 グラディスとフォルフォルの話を聞き、明日奈は速やかに指示を出す。


「ウボ=サスラ=グリモアとの戦闘は4期の4人に任せるわ。手の内の知れたコピーが相手なら、4期でも囲めば行けるはずだもの。いざとなった時は私達が出るから、今までよりも強い敵と戦ってちょうだい」


「「「「了解」」」」


 3期パイロットが後ろに控えてくれているだけでも、4期パイロットにとっては十分心強い。


 全員が格納庫に移動するが、すぐに出撃するのは4期パイロットだけということになり、博己から順番に搭乗したゴーレムをカタパルトに移動させる。


 グラディスは準備が整い次第、すぐに出撃の合図を出す。


『進路クリア。オルタナティブα、発進して下さい!』


「速水博己、オルタナティブα、出ます!」


 カタパルトから射出され、オルタナティブαが久遠の外に飛び出してから茜達が続く。


『丸山茜、オルタナティブβ、出るわ!』


『三箇万里香、オルタナティブγ、発進する!』


『田中遊盛、オルタナティブΔ、行きまーす!』


 残りのオルタナティブシリーズも宇宙空間に飛び出し、博己のオルタナティブαと合流して隊列を組んだ。


 4期パイロットの指揮を執る者は、同期内で最も経験を多く積んでいる田中である。


「ヘイト集めは俺がやるので、3人はガンガン攻撃して下さい」


『『『了解!』』』


 田中の乗るオルタナティブΔはアスタリスクに似ており、防御特化という訳ではない。


 しかし、田中はパンゲアクルー時代に避けタンクとして敵のヘイト集めをやり続けていたから、オルタナティブΔでも全然問題ない。


 その上、田中には決闘挑発レッツデュエルがあるから、普通のヘイト稼ぎでは足りない時にこのギフトで味方にヘイトを向けさせない。


「ここって時には頑張らないと勝者にはなれない! 頑張れ俺!」


 田中は自分を奮い立たせ、ウボ=サスラ=グリモアの正面に移動してヘイトを稼ぐ。


 決闘挑発レッツデュエルはまだ使っていないはずなのに、ウボ=サスラ=グリモアは田中だけを狙って攻撃し始めた。


『流石は田中。動きがウザくてギフトを使わずともヘイトを稼げるんだね』


「ちょっと黙っててくれる!?」


 ウボ=サスラ=グリモアはあくまでウボ=サスラのコピーであり、その動きはフォルフォルから事前に教え込まれていたから田中はそれを思い出して攻撃を避け続ける。


 その隙に博己と茜、万里香がウボ=サスラ=グリモアに攻撃を命中させてダメージを着実に与えていく。


 スライムのように体から無数に触手を伸ばし、自身にダメージを与えた博己達を狙おうとしたのを察知したため、田中がそれを防ごうと動き出す。


「ギフト発動。俺とデュエルしろ!」


 田中が決闘挑発レッツデュエルを発動した瞬間、ウボ=サスラ=グリモアの全ての触手がオルタナティブΔに向かって伸ばされた。


「ぬぉぉぉぉぉ!」


 伸ばされた触手を田中が必死に躱し、それによって生じた隙で博己達がガンガンダメージを与えることでウボ=サスラ=グリモアは力尽きて姿が巨大なスライムから本に変わった。


 それをフォルフォルが回収したところで、グラディスからアナウンスが4期パイロット全員に届く。


『皆さん、お疲れ様でした。周辺に他のグリモアの反応はありません。そのままミスカトニックアーカイブに向かって下さい』


『『『「了解!」』』』


 田中が体を張ったことにより、4期パイロットの誰も負傷することなくミスカトニックアーカイブでの初戦は白星スタートで終わった。

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