第314話 不可能を可能にする男、それが俺だ

 3期パイロットを見送った後、恭介はアンチノミーに乗ってレース会場に来ていた。


『やあ、待ってたよ。新しいコースが解禁されたから、真っ先に恭介君には知ってもらおうと思ってね』


「ついでに時空神の権能を使う練習台にしろってか?」


『その通り。今回の縛りは特別に調整したよ。1つ目は時空神の権能を使うこと。2つ目は2周目が終わるまでに他のゴーレムを周回遅れにすること。だから、ドライザーを使ってもらっても一向に構わないよ。恭介君には久し振りに全力でレースに挑んでもらう』


「そうか。それは楽しみだ」


 最近は縛りプレイのせいでドライザーに乗ってレースができなかったから、ルーナにドライザーに乗ってレースに参戦して良いと聞いて恭介は静かに喜んだ。


 レースでスピード勝負をするのが好きだったのに、気づけば自分の好きなように走れなくなっていたので、恭介は新しいコースが解禁されても以前のようなワクワク感が得られていなかった。


 その分、今の恭介は大袈裟なリアクションこそしないが確実にテンションを上げている。


『楽しんでね。コースの名前はチョイスメイズだよ。このコースは特殊でね、1周するルートが複数あるんだ。ただし、一度選んだルートはゴールするまで使えない。戦略的思考も必要になるコースなんだよ』


「それってどうやって周回遅れになるか判断するんだ? 俺が2周し終えた時点で他のゴーレムが1周目なら良いってことか?」


『正解。じゃあ、頑張ってね。入場門は開いたよ』


 ルーナが入場門を開けば、恭介はアンチノミーを操縦してその中に入った。


 チョイスメイズの見た目は一見ただの迷路であり、雰囲気的には大して難易度は高くなさそうである。


 (そう思わせるような造りの時点で絶対ヤバいだろ)


 印象操作を使用とするコースなんて印象通りで簡単なんてことはまず考えられないから、恭介は警戒心を強めた。


 スタート地点には既に7機のゴーレムが位置に着いており、アンチノミーが位置に着くのを待っている。


 1位の位置には火属性のアンチノミー。


 2位の位置には水属性のソリチュード。


 3位の位置には風属性のネメシス。


 4位の位置には土属性のヤルダバオト。


 驚くべきことに恭介が普段使いするゴーレム4種が、このレースでは敵になる。


 ただし、恭介の機体とは別物なのか専用兵装までは装備されていても、ビヨンドロマン等の恭介が使っている武器は装備してないのが救いである。


 5位の位置には火属性のドラグレン。


 6位の位置には水属性のドラクール。


 7位の位置には風属性のドラストム。


 黄竜人機ドラキオンを強化するための合成素材にした3機であり、これらも恭介が以前普段使いしていたゴーレムである。


 こちらも専用兵装はあれど、恭介が当時使っていた武器は装備してない。


 (2周目が終わるまでに全員周回遅れってのがエグいわ)


 完璧に同じスペックではないけれど、ほとんどのパイロットに勝たせる気がないと言わざるを得ないラインナップだから、恭介がそのような感想を抱くのも当然だ。


 もっとも、トゥモローファンクラブの会員なら鼻血を出す程興奮するのだろう。


 明日奈ならばチョイスメイズに来ただけで昇天する恐れすらある。


 レースに参加する全てのゴーレムの準備が整ったため、レース開始のカウントダウンが始まる。


『3,2,1』


「ギフト発動」


 恭介がギフトの発動を宣言し、彼はアンチノミーのコックピットからドライザーのコックピットの中に移った。


『GO!』


 (時よ止まれ)


 スタートの合図と同時に恭介は時空神の権能を使い、時間を止めてから自分だけスタートダッシュを決めた。


 時を止めてのスタートダッシュだから、誰からも邪魔されることもなく恭介は他の7機を置き去りにしてガンガン進む。


 (うわぁ、前方から大量のミサイル来てたじゃん)


 序盤は一本道だったため、大量のミサイルが直進すればスタート地点に向かって飛んで来ても躱せる場所はない。


 普通なら当たる前に撃ち落とすしかないから、恭介のように時間を止めて避けるのは例外である。


 最初のコーナーを曲がり終えたところで、早速通路が分岐していた。


 左と中央、右のいずれかを選ぶようになっており、恭介はなんとなく左の通路を選んで進んだ。


 そのタイミングで時空神の権能を一旦解除した。


 レース中にもう一度使うつもりならば、この辺りで解除しておかないと厳しいと判断してのことだ。


 昨日の訓練のおかげで、時間停止の反動にも体が慣れて来たから頭がくらくらすることもなく、恭介はレースに集中できている。


 左側の通路は左右に連続ヘアピンカーブをする仕様であり、不規則に天井と壁、床から実弾による銃撃が放たれる。


 それでも、ドライザーに乗っている恭介にとってはそれらの弾丸が遅く感じたため、連続ヘアピンカーブの最短ルートを通って3つの通路の合流地点に到着した。


 合流地点から次のコーナーまでの間は、ランダムな爆発や放水があったけれど、これらのギミックも恭介を足止めすることはできなかった。


 2つ目のコーナーを曲がり終えると、再び通路が左と中央、右に分岐していた。


 (今度も左にしよう)


 どの通路が正解かなんてこの時点ではわからないから、恭介は二度目の分岐も左の通路を選択した。


 今度は通路がバラバラに分かれるようになっており、それらがブロック毎に上下に動くからタイミングを逃すと前進できないようになっていた。


 ドライザーのおかげで前のブロックが壁になるよりも先に進み続けられたため、恭介は3つの通路の合流地点に到着してあっさりと2周目に突入した。


 チョイスメイズに参戦するゴーレムはいずれも恭介が使っていたゴーレムだったから、大量のミサイルが飛んで来てもスタート地点でレース続行不能になるような機体はなかった。


 (これ、2周目が終わるまでに周回遅れにできるのか? 時よ止まれ)


 恭介は不安に思いながら、もう一度時間を止めた。


 再び景色が灰色になったところで、恭介は行ける所まで時間を止めて進むことにした。


 分岐の道は中央を選んだところ、大量のミサイルが時間差で発射されていたけれど、時間が止まっているから危険なんてなかった。


 3つの通路が合流した地点でドラグレンとドラクール、ドラストムが小競り合いしているのを見つけて追い抜かし、再び通路が分岐したらまた中央を選んで進む。


 ビームだらけでゴーレムが1機進むのがやっとの隙間しかなかったが、今度も時間が止まってさえいれば安全に進める。


 途中でネメシスとヤルダバオトを追い抜かし、3つの通路の合流地点に到着して3周目に突入するタイミングで恭介は時空神の権能を解除した。


 その直後に、恭介は後ろからアンチノミーとソリチュードの攻撃を受けた。


 (まだ距離がある。どうにか縛りは1つクリアできたな)


 あとはこのまま誰にも抜かれることなくゴールすれば良いので、恭介は飛んで来る大量のミサイルを躱してコーナーを曲がり、右の通路に進んだ。


 右の通路に進んだ時、アンチノミーとソリチュードもドライザーの後ろから付いて来たのか、後ろからの攻撃は止まなかった。


 この通路にはワイヤートラップが張り巡らされており、2機の攻撃を利用してトラップを破壊しながら進んだおかげで、通路が合流するまで恭介が苦労することはなかった。


 最後の分岐でも右の通路に進むと、アクセルリングによく似たディレイリングがあちこちに設置されていた。


 ディレイリングの中を通過すると、強制的に速度が下がってしまうのでアクセルリングと間違って通ってはいけない。


 恭介はそんな凡ミスをするようなことはなく、そのまま合流地点まで進んでなんとか1位でゴールできた。


『ゴォォォル! 優勝は瑞穂の黒い凶星、トゥモロー&ドライザーだぁぁぁぁぁ!』


 アナウンスが聞こえてすぐに、恭介はコースから脱出してレーススコアを確認し始める。



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レーススコア(ソロプレイ・チョイスメイズ)

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走行タイム:14分44秒

障害物接触数:0回

モンスター接触数:0回

攻撃回数:0回

他パイロット周回遅れ人数:7人

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総合評価:S

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報酬:資源カード(食料)100×10枚

   資源カード(素材)100×10枚

   100万ゴールド

非殺生ボーナス:魔石4種セット×100

超ぶっちぎりボーナス:武器アップデートキット(ラストリゾート)

権能使用ボーナス:ヒールキャンディー×10

ギフト:黒竜人機ドライザーLv50(stay)

コメント:不可能を可能にする男、それが俺だ

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「言ってないことを勝手に俺が言った風にするんじゃない」


『そんなこと言ってもさ、私が無理だと思ってたレベルの結果を叩き出すんだもの。これぐらい言ったって良いじゃないか』


「それはルーナの見通しが甘いだけだ。それよりも戦利品について教えてくれ。ラストリゾートをアップデートできるらしい武器アップデートキットはわかったけど、ヒールキャンディーって何?」


『疲労やダメージを舐めることで回復する飴だね。10個だけとりあえず用意したから、瑞穂の医務室でも治らないような権能による疲れやダメージがあったら使ってね』


 報酬に満足した恭介は、ご機嫌な様子で瑞穂の格納庫に戻った。

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