第313話 安心して。お前もう船降りろ案件じゃないから
恭介達が瑞穂に来て69日目、瑞穂は高天原に帰艦していたが3期パイロットには次のスケジュールが組まれており、恭介によって
「ということで、3期パイロットの4人には久遠クルーのお目付け役としてミスカトニックアーカイブに同行してもらう。また、笛吹さんから申し出があったため、3期パイロットのリーダーは笛吹さんから等々力さんに変更する。連絡事項は以上だ。質問はあるか?」
日本の4期パイロットの茜から、瑞穂クルーに負けない経験を積みたいと意見が出たため、田中が挙げたミスカトニックアーカイブに4期パイロット全員が久遠で向かうことになった。
ただし、4期パイロットだけでの移動させるのはまだ心配だから、第3回新人戦で彼等のメンターをした3期パイロットが久遠に乗り込んで一緒にミスカトニックアーカイブに行くことが決まった。
ミスカトニックアーカイブとは、恭介達が侵攻作戦を成功させたニューイングランドにあったミスカトニック大学の分校がある小惑星であり、そこには危険な書物が保管されている。
パンゲアクルーが危機感の中で力を付けるために宇宙を旅していた時、一度挑んでみようとしたけれどF国担当のフォルフォルが向かわせられないと判断し、侵攻が取り止めになったことがあった。
今回は3期パイロットが同行するので、ルーナは久遠を向かわせても良いと判断したが、本来ならば4期パイロットだけでは向かわせられない難易度である。
恭介はルーナから3期パイロットを同行させる話をルーナから聞かされ、ドリームランド侵攻作戦で留守番組だった3人については行かせても良いと即決したが、明日奈は一緒に向かわせるか悩んだ。
明日奈はドリームランド侵攻作戦で侵攻組だったから、もう少し休みを与えた方が良いのではと考えて本人に意思確認をしたところ、久遠に同行すると申し出たため3期パイロットが揃って久遠に合流することが決まった。
確かに休みは短かったけれど、明日奈としては恭介から声をかけてもらった時点で行かない選択肢はない。
ちなみに、遥がリーダーを降りたのは今までの戦績を考えてのことだ。
3期パイロットの中で、ナイアルラトホテップを相手に瞬殺された自分よりも、抗うことができた明日奈の方が相応しいと主張したものだから、恭介も本人の意思を尊重したのである。
恭介から質問があるか訊ねられたけれど、手を挙げる者はいなかった。
明日奈には疑問がないから手を挙げなかったけれど、他3人は訊きたいことはあっても訊く踏ん切りがつかないことがあって手を挙げられなかったというのが正しい。
それを察したのか、
『安心して。お前もう船降りろ案件じゃないから』
「ルーナ、なんでわざわざ不安を煽るようなことを言うんだ?」
『ここは私が悪者になってでも彼等が知りたいことを教え解いた方が良いでしょ? それが気になって動きに精彩を欠くなんてことがあったら不味いし』
ルーナの言い分を聞き、明日奈以外の3人が瑞穂を降ろされることを恐れていると知り、恭介はやれやれと首を振ってから3期パイロットを見回す。
「俺には3期パイロット4人を瑞穂から降りろなんて言うつもりはない。もうゴーレムに乗れないって言うなら日本に送り届けるが、乗って戦う意思がある限り俺は瑞穂から追い出すなんて真似はしないぞ」
瑞穂のトップから言質が取れたため、仁志と遥、潤はホッとしたようだ。
明日奈は自分が恭介のために生きろと言われた以上、生き甲斐から遠ざかれと言われることはないと確信しているからすまし顔である。
そこにラミアスが艦長室から出て来た。
「3期パイロットの皆さん、久遠が地球から出発したとグラディスから連絡がありました。出発する準備をして下さい」
「「「「了解」」」」
ラミアスの言葉に応じ、3期パイロットは格納庫に移動して各々のゴーレムに乗り込んだ。
明日奈が最初に発進するため、カタパルトの上にコメットゲイザーを移動させた。
準備が整ったことを確認したら、ラミアスのアナウンスがコメットゲイザーのコックピットに届く。
『無事に帰って来ることを望んでおります。進路クリア。コメットゲイザー、発進どうぞ!』
「等々力明日奈、コメットゲイザー、出るわ!」
カタパルトから射出され、コメットゲイザーが高天原の宇宙空間に飛び出してから仁志達が続く。
『山上仁志、ドミヌスコンダクター、発進する!』
『笛吹遥、トリスタン、出るわよ!』
『田辺潤、ドレッドポープ、行きます』
ドミヌスコンダクターとトリスタン、ドレッドポープも宇宙空間に飛び出し、明日奈のコメットゲイザーの後ろに続く。
明日奈達が久遠と合流するのは地球を出てすぐの位置だ。
久遠が地球から宇宙に向かう方法は瑞穂と同様であり、特装砲が放たれた瞬間に久遠がスピードを上げ、一気に宇宙に向かって上がっていくというものだ。
具体的には特装砲を発射した際に薄くなった大気と瑞穂が帯びたプラズマをブースターで増幅させ、後方に収束させてから磁場誘導を発生させて船体側の主推進器を全開にし、大気圏を離脱している。
ついでに補足すれば、名称こそ違えど久遠にも特装砲があり、主砲、副砲は瑞穂と同じものが備わっている。
スピード重視な瑞穂に比べ、久遠は火力に重きを置いているゆえにごつい。
もっとも、アップデートパッチを使っている今、久遠よりも瑞穂の方が火力も含めて性能は勝っているのだが。
戦艦のスペックはさておき、青と黒がベースの久遠が合流地点に来たから、明日奈達は久遠に乗り込むべく近づく。
それを補助するべく、4人のゴーレムのコックピットにグラディスの声が聞こえる。
『3期パイロットの皆さん、初めまして。私が久遠を任されているグラディスです。着艦を許可します。順番に着艦して下さい』
『『『「了解」』』』
グラディスの指示に従い、久遠に着艦した明日奈達はコックピットから出た。
格納庫には4期パイロットの4人が集まっており、明日奈達を出迎えた。
明日奈は万里香の顔を見てほんの少しだけ頬を緩める。
「直接会うのは久し振りね、万里香」
「そんな感じはしないけどね。でも、確かに明日奈と対面するのはファンクラブのオフ会以来だったかな」
トゥモローファンクラブにはオフ会が存在している。
このオフ会はトゥモローの雄姿をまとめた映像を集まった会員だけで視聴し、それからネットカフェに移ってGBOを楽しむというものだ。
当然のことながら、オフ会は恭介に一切関係なく開かれている。
オフ会に参加するのはトゥモローファンクラブの中でもトゥモロー愛が強い会員ばかりだ。
そうだとしても、恭介が麗華と結婚式を挙げている間に家に忍び込み、人工授精を企むのは明日奈ぐらいであることは捕捉しておこう。
そうしなければ自分を明日奈と一緒にするなとクレームが出るぐらいには、麗華と他の会員の間に越えられない壁が存在している。
非公認のトゥモローファンクラブのことはさておき、遥の顔を見てスッと茜の後ろに隠れた者がいた。
A業スマイルのパイロットネームを使う博己である。
博己が遥に怯えている理由だが、第3回新人戦前の特訓期間中に遥を変人扱いしたことを本人に聞かれていたからだ。
無論、新人戦の最中に仁志に告白した遥を普通と表現するのは難しいから、博己の考え方が間違っているとは言い難い。
それでも、自分の恋路にケチを付けられて気分の良い者はいないだろうから、博己は遥にしばかれるのではないかと怯えていた訳である。
怯えられている遥だが、博己が怯えていることに興味を示さずに茜に話しかける。
「これから少しの間、この船でお世話になるわ」
「少しの間になるかどうかは私達次第だけどね。まあ、わからないことがあったら気軽に聞いてよ。私がわからないことはグラディスに訊くけど」
「それは私がグラディスに訊けば済むんじゃないかしら」
まったくもって遥の言う通りである。
その時、金髪でウェーブのかかったマダムと呼ぶべきグラディスが格納庫のモニターに映る。
『皆さん、久遠はこれよりハイパードライブを開始します。ミスカトニックアーカイブには明日到着する予定ですので、それまでの間は自由に過ごしていただいて結構です』
ラミアスとは異なり、グラディスよりも機械的な応対だった。
これはラミアスが恭介達と関わって人間らしくなったから、余計にそう明日奈達が感じさせた。
何はともあれ、3期パイロットは無事に久遠に合流してミスカトニックアーカイブに向けて出発した。
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