第308話 やったか!?

 昇降機に乗って移動した先は、玉座の間と呼ぶべき場所だった。


 玉座の上には予想外なことに、輝くトラペゾヘドロンが浮いているだけだった。


「本体はトラペゾヘドロンなのか?」


『恭介さん、麗華さん、そのトラペゾヘドロンがC207ナイアルラトホテップの本体です。漏れ出るパワーがそれを証明しております』


「マジかよ」


 貌がない故に千の貌を持つとされるナイアルラトホテップだから、どんな姿をしているのかと思えばトラペゾヘドロンが本体だったため、恭介は衝撃を受けた。


 それは麗華も黙っているけれど同じ気持ちだった。


『驚いてもらえたようだね。それならば私の留飲も少しは下がるというものだ』


「レースで手も足も出なかったもんな。ここで俺を驚かせられて良かったじゃん」


『…ただじゃおかんぞ』


 その瞬間、ナイアルラトホテップがアンチノミーとシグルドリーヴァの間に現れて全方位にビームを発射した。


 アンチノミーが腰の両サイドにあったビットを使い、エネルギーバリアを展開してその攻撃を防いだ。


 麗華は自警盾団ヴィジランテによって守られたため、恭介も麗華も無事に済んだ。


「ギフト発動」


 アンチノミーのスペックでは敵わないと判断し、すぐに恭介は黒竜人機ドライザーを発動して乗り換えた。


『恭介さん、夜明拓装デイブレイカー自警盾団ヴィジランテを発進させます。予想到着時刻は10分です』


「了解」


『ほう、これが噂に聞く黒いゴーレムか。これはデータが少ない。楽しませてくれそうだ』


 ナイアルラトホテップはドライザーを見て楽しそうに言うから、恭介は眉間に皺を寄せた。


 クトゥルフ神話の侵略者達との戦いを楽しいと思ったことは一度もないから、恭介がそんな表情になるのは当然である。


「別にお前を楽しませるために乗ってんじゃないだが」


『そう釣れないことを言うな』


 トラペゾヘドロンの体のどこにも指がないはずなのに、指をパチンと弾く音が周囲に鳴り響く。


 何も起きないなんてことがなく、その音が鳴った直後にレースで戦ったナイアルラトホテップの分身がうじゃうじゃと湧き出た。


『恭介さん、本体はお願い!』


「わかった。必ず倒す」


 夜明拓装デイブレイカー自警盾団ヴィジランテを両方装備している今、麗華のシグルドリーヴァは1対多数に強い状態だ。


 右手にオリジナルのアルテマバヨネット、左手にはアルテマバヨネット形態の夜明拓装デイブレイカーを装備し、両方をホーミングランチャー形態にする。


 この2つで連射すれば、ナイアルラトホテップの分身の数を減らせる。


 仮にそれで撃ち漏らしたとしても、五対の翼の銃と翡翠衛砲ジェイドサテライトの攻撃もあるから、今の麗華は正に移動要塞である。


 そんな麗華が邪魔になる分身の相手を引き受けてくれているから、恭介はナイアルラトホテップ本体との戦いに集中できる。


 ラストリゾートをビームサーベルに変形させ、先程と同様に一瞬で横に来たナイアルラトホテップを迎撃したら、今度はしっかり捕捉できていたから本体の頂点が切断された。


『ぐっ、この速度について来るのか』


「アンチノミーとの違い、見せてやるよ」


 そう言った次の瞬間には、恭介がナイアルラトホテップの別の頂点を切断しており、ナイアルラトホテップは全身を震わせて形を変える。


 (変身の隙なんて与えない)


 恭介が放った竜鎮魂砲ドラゴンレクイエムが命中し、ナイアルラトホテップの変形が歪な形で一時停止した。


 (もう一丁!)


 赤不動砲アチャラナータが続いて命中し、ナイアルラトホテップの中心に大きな風穴が開いた。


『やったか!?』


「おい、余計なフラグ立てんな」


 ルーナがフラグを立ててしまったため、恭介が懸念していた通りにナイアルラトホテップは穴を塞いで体をトラペゾヘドロンから悪魔型ゴーレムの姿に変えた。


『全く困ったものだNE。君の攻撃のせいDE、私の変身が不完全になっちゃったじゃない…』


 言葉が途切れた後、ナイアルラトホテップは一瞬でドライザーと距離を詰めて刃に変形させた腕でドライザーのコックピットを目掛けて刺突を放つ。


『KA!』


「チッ」


 舌打ちした恭介だが、ラストリゾートを大太刀に変えてナイアルラトホテップの刺突を弾いている。


 ダメージを受けた訳でもないのに舌打ちをしたのは、トラペゾヘドロン型の第一形態の時よりもゴーレム型の第二形態の方が速かったからだ。


『これを避けるとはなかなかやるNE』


「まあな。いきなりチャラくなった奴の攻撃なんて当たらねえよ」


『証明してもらおうKA』


 それだけ言ってから、ナイアルラトホテップはもう片方の腕も刃に変えてドライザーにラッシュを仕掛けた。


 恭介はラストリゾートを小太刀に変えて防御に専念し、三対の翼からビットを飛ばして反撃はそれらに任せていた。


 ナイアルラトホテップはノーガード戦法で攻めて来たから、恭介としてはとにかくその攻撃を捌くことに集中せざるを得ない。


 ダメージを受けても体が再生しているようで、ダメージがちゃんと蓄積しているのかわからない。


 それでも、変身途中に大きなダメージを与えたせいなのか、時々ナイアルラトホテップの動きに不自然なズレが生じているため、その隙を突いて恭介もチクチク反撃していた。


『良いNE! すごく良い動きDA!』


「そりゃどうも」


 ナイアルラトホテップは恭介に感心していた。


 下等生物と見下している人間の中に自分とまともに戦える者が存在しているだなんて、これまで一度も思っていなかったからだ。


 その一方、恭介はナイアルラトホテップに感心されても気味が悪いだけだから、適当にあしらって動きのズレを突いて反撃している。


 このままではチクチク反撃を喰らい続け、ダメージを負うのは自分だけだと判断したらしくナイアルラトホテップは両腕を刃から大砲に変え、何もなかった両肩にガトリングガンを生やして攻撃し始めた。


『ダンスの時間DA』


「お前と踊りたくないんだが」


『そうだよね。踊るなら麗華ちゃんと一緒だよね』


「ハウス」


 今はルーナの相手をしている場合じゃないから、恭介はルーナの名前すら呼ばずに短く命令だけ出した。


 ルーナもうっかり乗っかってしまったが、余計なことを言った自覚があったのでおとなしくドライザーのモニターから消えた。


 両肩のガトリングガンで近付かれないように牽制しつつ、ナイアルラトホテップは大砲になった両腕でドライザーを撃ち落とさんと極太ビームを連射する。


 それが嫌なことに恭介を追撃するビームだったため、恭介もそれに気づいた瞬間にホーミングランチャー形態のラストリゾートで迎撃した。


 ビームとビームがぶつかって相殺する中、6つのビットがナイアルラトホテップの両肩から生えたガトリングガンを撃ち抜いた。


『墜ちRO! 蚊トンBO!』


 両腕の大砲をビームライフルに変形させ、鬱陶しい6つのビットを撃ち落とそうとするナイアルラトホテップだったが、既に6つのビットはドライザーの三対の翼に格納されており、その攻撃は当たらなかった。


 (第二形態は第一形態に比べて火力は高いけど狙いは雑だ。力を求めた結果、大雑把な攻撃しかできないなら敵じゃない)


 第二形態と第一形態を比較し、恭介は今のナイアルラトホテップなら攻撃に当たる気がしなかった。


 無論、だからと言って慢心するつもりはないから慎重に操縦しており、恭介はラストリゾートをパイルバンカーに変えて至近距離から発射した。


『がはっ!?』


 語尾が片言になることなく、ナイアルラトホテップの体は中心に風穴を開けつつ後方に吹き飛んだ。


 (ここで追撃しない手はない)


 恭介はラストリゾートをホーミングランチャーに変形し、どうにか体勢を立て直そうとしていたナイアルラトホテップに追撃した。


 その結果、第一形態から第二形態に変形する前と同じでナイアルラトホテップの全身が震えていた。


 体の中心に空いた風穴が塞がるかどうかというタイミングで、恭介との戦いに集中していたナイアルラトホテップにとって望まぬ事態が起きた。


『ギフト発動』


 麗華が300万ゴールドをコストに金力変換マネーイズパワーを発動し、連結させた翡翠衛砲ジェイドサテライトでナイアルラトホテップの体に再び大きな風穴を開けたのだ。


『恭介さん、お待たせ。分身を倒して来たよ』


「ナイスタイミング。完璧な不意打ちが決まったな」


『残念だけど、まだ戦いは終わってないよ。ナイアルラトホテップをよく見てごらん』


 恭介と麗華が短く言葉を交わしているところにルーナが声をかけた。


 その直後にナイアルラトホテップの体が球体に変形し、全方位に太くて黒い柱を変則的なリズムで突き出し始めた。

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