第306話 フッ、小さいですね
晶がクタニドと戦っている頃、恭介達は砂浜にある巨大な貝殻でできた建物を見つけた。
大荒れの海が近いにもかかわらず、その建物だけは傷一つなくて違和感しかない。
『貝殻? 中にヤドカリでもいるのか?』
『恭介さん、麗華さん、沙耶さん、気を付けて下さい。貝殻の中にC143ノーデンスがいます』
恭介の問いかけに対し、ラミアスがそれを否定して建物の主の名前を告げた。
その直後に貝殻が圧縮しながら変形し、恭介達が載っているようなゴーレムに姿を変えた。
ゴーレムの見た目は筋骨隆々な上裸の男神であり、無骨な大剣を片手に1本ずつ装備している。
「ラミアス、ノーデンスはゴーレムの中にいるんでしょうか?」
『その通りです』
「そうですか。であれば、次は私の番ですね。兄さんと麗華さんには先に進んでもらいましょう」
『わかった。無理するなよ』
『気を付けて下さいね』
ナイアルラトホテップと戦えるのは恭介と麗華だけだから、予定通りに沙耶はこの場に残ると宣言した。
恭介と麗華はこの場を沙耶に任せ、荒れ狂う海の向こうに見える要塞に向かって進んで行った。
「クタニドと違って貴方は兄さん達を行かせてくれるんですね」
『儂は敵わぬ敵と戦いたいとは思わぬ』
「私なら勝てるとでも言うつもりですか?」
『そう聞こえなかったのか? ならば其方の耳は腐ってるのだろうな』
ノーデンスは恭介と麗華に比べ、沙耶が弱いことをナイアルラトホテップから聞かされていた。
ただし、それはあくまで恭介と麗華と比べればという相対的なものであり、沙耶が弱いとは限らないことを忘れてはならない。
上位単一個体でもない単一個体に舐められていると知り、沙耶は静かに怒った。
確かに恭介や麗華には実力で敵わないが、今ではGBO時代では敵わなかった3期パイロット達よりも強く、瑞穂クルーで3番目の実力者なのだから決して舐めて良い実力ではない。
それをわからせるために、ミラージュドレイクを背景と同化させてノーデンスの視界から消えた。
『馬鹿な!? 儂の目でも見破れぬだと!?』
「答えは簡単です。その目が節穴なんですよ」
ノーデンスの乗るゴーレムの背後に周り、沙耶はコックピットに向かってドリル形態のデストロイで攻撃した。
不意打ちされたノーデンスのゴーレムは爆散し、その中から槍を持った筋骨隆々の上裸の男神が現れた。
これがノーデンスの本体である。
「フッ、小さいですね」
『貴様、儂を見て小さいと言ったな! 痛い目に遭わせてくれる!』
ノーデンスは自身が馬鹿にされたことに怒り、巨大化してミラージュドレイクと同じサイズになった。
先程までは沙耶を其方と呼んでいたが、二人称を貴様に変えるぐらい怒っていたため、沙耶は更に挑発してみる。
「図体だけ大きくなれば良いと思ったんですか?」
『黙らぬか!』
巨大化したノーデンスの両目が光り、そこから2本のビームがミラージュドレイクに向かって放たれる。
二対の翼がエネルギーバリアを展開するためのビットになっているため、沙耶はそれを使ってノーデンスの放ったビームを防いだ。
不意打ちの仕返しを狙ったノーデンスだったけれど、残念ながらその程度の攻撃では沙耶を傷つけることなんてできない。
「不意打ち失敗ですね」
『おのれ、忌々しい!』
ビームが駄目なら槍で乱れ突きを放つノーデンスだが、その攻撃もエネルギーバリアの前に防がれ続ける。
しばらくの間休まずに攻撃し続けたため、ノーデンスは息切れしていた。
その隙にエネルギーバリアを解除し、沙耶はミラージュドレイクの尻尾のビームウィップでノーデンスを攻撃した。
咄嗟のことだったため、ノーデンスは焦って槍でその攻撃を防ごうとしたがビームウィップの攻撃に槍が耐え切れずに折れてしまった。
『ぐっ、槍が折られたか』
「その程度の実力で私を倒せると思ったんですか? 舐めてるとしか思えませんね」
『こうなれば仕方あるまい。物量による包囲作戦だ』
たった今折られたのと同じ槍が100本程ノーデンスの周囲に現れ、それが沙耶を包囲するように襲い始める。
沙耶はすかさずに
そして、その隙に背後から襲おうとしていたノーデンスを
「やり返そうとしてるのがバレバレです。単一個体の中でもかなり弱い方ですね。四天王どころか単一個体で最弱って恥ずかしくないですか?」
『ふざけるなぁぁぁぁぁ!』
怒りを原動力にして立ち上がり、筋肉を膨張させて更に大きくなったノーデンスは残った槍を合体させて巨大な槍を作り出し、それをミラージュドレイクに向かって投げつけた。
沙耶はミラージュドレイクを背景に同化させ、ノーデンスの投げた槍を躱した。
その槍は沙耶が先程までいた場所を通過した瞬間に分裂し、ミラージュドレイクを追尾し始める。
『躱したと思ったか!? 残念、今度の槍は貴様に当たるまで追跡するのだ!』
「ならば操る者を仕留めるまでです」
ノーデンスの背後で背景への同化を解除し、沙耶は
それでも、追尾するいくつもの槍は止まらない。
『ふん! 私を倒せば止まると思ったか!? 残念だったな!』
「生首が喋らないで下さいよ。普通に気持ち悪いです」
刈ったはずの首が喋り、沙耶はその現象を気味悪がった。
それと同時に、沙耶は
その上、囮に攻撃が命中した直後に爆発が起こり、攻撃した者を巻き添えにするおまけ付きだから、沙耶は
沙耶を追うはずの槍が自分に向かって飛んで来れば、ノーデンスは流石に慌てる。
『何故だ!? 何故、槍が儂を狙うのだ!?』
その問いに沙耶は答えず、ただ槍が立て続けにノーデンスの生首に刺さるのを見守る。
それから、
破片は速やかにルーナによって回収され、ノーデンスの持つ情報を強引に引き出した。
『ふむ、旧神勢力がナイアルラトホテップに与してるのは、ドリームランドで旧神勢力がナイアルラトホテップに保護されてたからだね。保護してもらった分、義理を果たした訳だ』
「ルーナ、意図的にスルーしてる要因があると思うのですが」
『…何もないよ』
「そうですか。では、その台詞を私の目を見て言ってみて下さい」
本当はルーナ自身も理解しているのだが、それを言うとまた自分が責められるからルーナは言いたくないことを言わなかった。
意図的にスルーしているのは、勿論のことながらロキのことだ。
クタニドがロキに唆された人間に追われたことからして、他の旧神達にも余計なことをしている可能性は非常に大きい。
やがてルーナは沙耶のジト目に耐えられなくなり、白状することにした。
『ごめん。ロキが地球から旧神勢力を追い出すためにあれこれやってた』
「そうでしょうね。クトゥルフ神話の侵略者達が義理堅くないとは言いませんが、クタニドの怒り方を見ればロキがやらかしてたことは容易に想像できます。本当にロキは迷惑な神ですね」
『面目ねぇ…』
ロキの巫女として、今はもう存在しないロキの代わりに謝ることしかできないルーナは不憫な面もある。
しかし、ルーナもロキ同様に好奇心や自分の楽しみを優先するところがあるから、ルーナを被害者に括るのは難しいところだ。
ノーデンスとの戦闘に意外と時間がかかったこともあり、後方から晶と明日奈が合流した。
『サーヤ、お疲れ様。戦闘してたんだね』
「はい。ノーデンスという単一個体が相手でした。無駄話をしてる暇はありませんから、急いで兄さん達を追いかけましょう」
『賛成です』
『やれやれ。恭介君はモテモテだねぇ』
戦闘が終わってすぐに恭介を追いかけようとする沙耶に加え、恭介一筋な明日奈を見て晶は溜息をついた。
もっとも、恭介と麗華をナイアルラトホテップのいる場所に送り届けるのがドリームランド侵攻作戦の肝だから、晶も沙耶と明日奈の意見に同意して恭介達を追いかけた。
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