第305話 ロキ、またお前か
明日奈がヤード=サダジと戦っている時、恭介達はドリームランドを壊しながら先に進んでいた。
恭介達が先に進むのを妨害するように、黒い霧のカーテンが現れた。
『侵攻組の皆さん、黒い霧の中にC142クタニドがいます。気を付けて下さい』
ラミアスのアナウンスが聞こえた直後に、触手のような髭を備えたタコに似た頭部、鉤爪のある腕、そして蝙蝠に似た翼を持ち、全身がゴム状の瘤に覆われている人間に近い姿の化け物が黒い霧の中から現れた。
「あれ? クトゥルフ?」
『晶さん、C203クトゥルフではありません。これはC142クタニドです』
『晶君、クトゥルフとクタニドは従兄弟なんだよ。クタニドよりも慈愛に満ちてて人間達を守りたいと願う神だったはずなんだけど…』
ラミアスの説明にルーナが補足した後で、クタニドが喋り始める。
『人間は強欲で愚かな生き物です。かつて、私は人間を庇護すべき弱者だと判断して守っておりましたが、人間はとある神から悪知恵を授けられて私を滅ぼそうとしました。ナイアルラトホテップが地球を手中に収めることに賛成した訳ではありませんが、一度地球をリセットして新たな生物に地球を委ねることにしたのです』
『…その神に心当たりがあるのは俺だけか?』
『恭介さん、私にも心当たりがある』
『同じくです』
「それってロキ?」
クタニドの話を聞き、恭介と麗華、沙耶は名前こそ口にしなかったけれど同じ神のことを思い浮かべていた。
晶も同様であり、3人とは違ってストレートにその心当たりを口に出してクタニドに訊ねた。
『よくわかりましたね。そうです。悪神ロキが私の触手でタコ焼きを作って食べれば、人知を超えた力を手に入れられると唆したのです。しかも、どうやってか知りませんが、私の居場所や弱点を調べていたせいで人間達の攻撃は私に通用しました。守っていたはずの存在に裏切られた気持ちがわかりますか?』
『『「ロキ、またお前か」』』
クタニドの話を聞き、恭介と麗華、晶は額に手をやった。
『ルーナ、何か言いたいことはありますか? どうやら貴女の先祖が無駄に敵を増やしたようですけど』
『私の先祖がごめんなさい』
ジト目の沙耶に詰められ、ルーナは謝ることしかできなかった。
ルーナが生きていれば何か手の施しようがあったかもしれないが、ルーナもその事実は初めて知ったので今となっては謝ることしかできないのだ。
『謝って済むなら戦争なんて起こりませんよ。私の心は揺らぎません。仮に貴方達がその頃の人間と違ったとしても、人類全体は内容こそ違えど愚かな過ちを繰り返すでしょう。ですから、私を止めたければ倒してみなさい』
「ということは、順番的に僕の番だよね。恭介君達は先に進んじゃって」
『わかった。無理するなよ』
『ここはお願いします』
『ちゃんと追いついて来て下さいね』
晶がここに残ってクタニドと戦うと告げ、それを恭介達が先に進もうとするがクタニドは黒い霧を操ってその行く手を阻む。
『ヤード=サダジは1人だけ引き受けてそれ以外を通す指示に従ったようですが、私はその指示に従うつもりはありませんよ』
クタニドがそう言った瞬間、晶がカタルシスからペリュトン爆弾を発射して黒い霧を吹き飛ばし、恭介達を先に進ませた。
「まあまあ。僕が残ってあげるから恭介君達は通してよ」
『…私の霧をあっさり打ち破りますか。貴方達が乗るゴーレムからロキの力を感じるとは思ったのですが、やはり関係者でしたか』
「不本意ながらロキの子孫にデスゲームに駆り出され、気がついたらクトゥルフ神話の侵略者達と戦うことになっただけの一般人だよ」
『それはもう一般人の範疇を超えていますね』
冷静にツッコミを入れつつ、クタニドはいくつもの触手の先からビームを放ってメランコリーアスタロトを撃ち落とそうとした。
ところが、メランコリーアスタロトは自身に何かが近づけば近づく程そのスピードの落ちるフィールドを展開しており、撃たれたビームはメランコリーアスタロトに近づく程減速する。
それらを躱すのは容易く、晶はすいすいとビームを躱した。
ただ避けるだけではなく、晶は
これは自身に向けられた攻撃を防いだか躱した回数がカウントされ、それが10回を超えれば任意の攻撃に火力を上乗せできる。
火力を上乗せしないまま20回、30回とカウントが増えればそれだけ上乗せできる火力が上がるから、
その点、クタニドは大量に触手を生やしており、メランコリーアスタロトのフィールドがそれらの攻撃を防いでくれるから、
「あれれ~? おかしいな~? 一般人に攻撃が当たってないよ~? どうしてかな~?」
『この忌々しさ、貴方と喋っているとロキを思い出しますね』
「心外だね。僕をロキとかルーナと一緒にしないでよ」
『ちょっと待って。しれっと私を一括りにしないで』
「え?」
『え?』
晶からすれば同類なのだが、ルーナとしては厄介者のロキと一緒にしないでほしいらしい。
その認識に晶が驚けば、ルーナが驚かれることに驚くという事態になった。
『私を放置してお喋りとはいい度胸ですね。その舐め切った態度、許しませんよ!』
キレたクタニドがビームの本数を増やして火力を上げたため、晶は躱しつつカタルシスで反撃する。
ミサイルを発射して触手を攻撃すれば、クタニドは大して素早くないからそれが命中して撃てるビームの本数が減る。
それでも、触手はすぐに再生するから晶はミサイルではなく、ペリュトン爆弾でクタニドの体を破壊し始める。
クトゥルフに比べて再生速度が遅く、再生した際にクタニドの体はクトゥルフよりも代償を多く支払っているのかサイズが縮んでいた。
「あぁ、なるほど。だからクトゥルフと同じ上位単一個体じゃなくて単一個体なんだね。納得したよ」
『私はクトゥルフとは違って他者を再生に巻き込みません! 利己的なクトゥルフと一緒にしないで下さい!』
触手の半分を刃に変え、ビームと刃でクタニドはメランコリーアスタロトを攻撃し始めるが、メランコリーアスタロトのフィールドがある限りそれらの攻撃が届くまでに余裕があるから、晶はあっさりと回避する。
「さて、めでたく100回記念だ。ありがたく受け取ってよね」
カタルシスから
爆発がクタニドの全身を覆い、それが収まった時に再生し始めたクタニドは再生が完了しても自転車サイズまで縮むだろうことがわかった。
『くっ、ロキの手先にここまでやられるなんて不愉快です』
「僕はロキの手先じゃないよ。バイバイ」
カタルシスからミサイルを発射し、それが命中した時にはクタニドはもう再生できなくて戦闘が終わった。
『そうだよね。晶君は私の手先だもんね』
「違うね。どちらかと言えば恭介君の手先じゃない?」
『え~? 私が与えたギフトやその派生で得た力を使ってるのに~?』
「使えるものは使う。戦争をしてるんだから当然じゃないか」
これにはルーナも反論できなかった。
晶の言い分はもっともであり、ルーナだってクトゥルフ神話の侵略者達に対抗するべく恭介達をデスゲームに強制参加させ、私兵として育てたのだから言い返せないのは当然だろう。
クタニドを倒した晶を見つけ、そこに明日奈が合流した。
『晶さん、サボリですか?』
「お疲れ様。開口一番でサボリを疑うって酷くない? これでも僕、クタニドを倒したところなんだけど。あぁ、クタニドってクトゥルフの従兄弟ね」
『そうですか。では、早くトゥモロー様と合流しましょう』
「恭介君にしか興味ないのはわかるけど、それは露骨過ぎない?」
明日奈に雑な対応をされて晶は苦笑するしかなかった。
心配してほしいとまでは思っていなくとも、仲間なのだからもう少し関心を示してほしいと晶が思うことは何もおかしくない。
『私、トゥモロー様一筋なので』
「うん、知ってる。先を急ごうか」
『はい』
これ以上議論をしても無駄だとわかっているから、晶は明日奈と共に恭介達の向かった先へと進んだ。
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