第304話 ここは私に任せて先に行って下さい

 恭介達が瑞穂に来て67日目、ハイパードライブ状態を解除した瑞穂の正面にはドリームランドがあった。


 形は地球そっくりだが、青い海は赤く染まり、大地は生命の気配がしない灰色で樹々は黒いところが地球とは違う。


 生命の星と称されることもある地球に対し、ドリームランドはドリームと言いつつ良い夢を見させるつもりのない見た目である。


『総員、これよりドリームランド侵攻作戦を始めます。瑞穂の砲撃が終わり次第、侵攻組に出撃していただきます』


 ラミアスが作戦開始のアナウンスをしたら、恭介達はコックピットの中で頷いた。


 既にアンチノミーはカタパルトの上に乗っており、それ以外のゴーレムもカタパルト付近に移動している。


『それでは参ります。パニッシュメント照準、撃てぇぇぇ!』


 瑞穂の副砲であるパニッシュメントが放たれ、ドリームランドの黒い大森林にクレーターができる。


 (パニッシュメントでこれだけの威力か。アップデートパッチの効果が思ってたよりすごいな)


 恭介が亡国脱出の報酬で瑞穂をアップデートしたから、副砲のはずのパニッシュメントが主砲並みの火力に跳ね上がっていた。


 感心しているのは恭介だけではなく、それ以外の瑞穂クルーも目を丸くしていた。


『次です。審判ジャッジメント照準、撃てぇぇぇ!』


 今度は主砲の審判ジャッジメントが放たれ、灰色の大地にパニッシュメントによってできたものの倍以上大きなクレーターができた。


 特装砲までとは言わないが、主砲以上特装砲未満の火力があれば、特装砲をまだ撃っていないにもかかわらずドリームランド側の被害は想定以上に甚大だ。


 そのせいで怒り狂った雑魚モブの軍勢が瑞穂に襲い掛かる。


『薙ぎ払います。総員、衝撃に備えて下さい。魔開闢砲オリジンキャノン照準、撃てぇぇぇぇぇ!』


 ラミアスの発射許可が下りてすぐに、特装砲の魔開闢砲オリジンキャノンが瑞穂から発射され、雑魚モブの軍勢を消し飛ばすどころかドリームランドの赤い海を割った。


 パワーアップした特装砲が強過ぎて、瑞穂の攻撃だけでもドリームランド侵攻作戦の進捗率が30%に届いていた。


 それだけの攻撃ならば、反動で瑞穂全体が揺れるのは当然のことであり、恭介達の乗るゴーレムのコックピットにはラミアスの乳揺れシーンが映った。


『乳揺れ!』


『毎回同じこと言ってるけど飽きないのか?』


『何言ってるのさ恭介君。揺れる巨乳はいつ見たって良いものじゃないか!』


『ルーナ、興奮し過ぎだからハウス。ラミアス、予定通りに発進する』


 ルーナの意見に賛同すると麗華が嫉妬するし、今は大事な作戦が始まるところだから恭介はルーナを黙らせた。


『ご武運を祈っております。進路クリア。アンチノミー、発進どうぞ!』


『明日葉恭介、アンチノミー、出るぞ!』


 カタパルトから射出され、アンチノミーが瑞穂の外の宇宙空間に飛び出してから麗華達が続く。


『更科麗華、シグルドリーヴァ、出るわよ!』


『筧沙耶、ミラージュドレイク、発進します!』


『尾根晶、メランコリーアスタロト、行きまーす!』


「等々力明日奈、コメットゲイザー、出るわ!」


 シグルドリーヴァとミラージュドレイク、メランコリーアスタロト、コメットゲイザーも宇宙空間に飛び出し、恭介のアンチノミーの後ろに続く。


 更に麗華用の夜明拓装デイブレイカー自警盾団ヴィジランテが発進し、シグルドリーヴァは攻守両方で万全の状態になった。


 恭介の分が発進しなかったのは、黒竜人機ドライザーを使った時に夜明拓装デイブレイカー自警盾団ヴィジランテも乗換前のゴーレムと一緒に消えるからだ。


 元々装備して移動し、乗り換える時だけ武装解除することもできるが、ドライザーに乗り換えた後に装備した方が楽だから今は麗華の分だけ発進した。


 恭介達は瑞穂の砲撃で邪魔者が消えたため、あっさりとドリームランドに侵入できたが、そこにはヨグ=ソトースにそっくりな無数の触手と恐ろしい口を備えた化け物が待ち構えていた。


『侵攻組の皆さん、C141ヤード=サダジです。上位単一個体のC201ヨグ=ソトースではありませんので、ご安心下さい』


『ヨグ=ソトースの従兄弟として知られる個体だね。マイノグーラの持つ情報によれば、ヨグ=ソトースと上位単一個体の座をかけて負けたらしいよ』


 ラミアスの情報をルーナが補足してから明日奈が口を開く。


「ここは私に任せて先に行って下さい」


『明日奈ちゃん、その言い方は死亡フラグだよ』


『ルーナ、黙ってろ。等々力さん、ここは頼んだ。無事に追いついて来いよ』


「はい!」


 恭介達は昨日の打ち合わせ通り、この場を明日奈に任せて先に進んだ。


 その際、ヤード=サダジが恭介達を止めようとしなかったのを不自然に思い、麗華はその疑問を口にする。


「トゥモロー様達をすんなりと進ませてくれたのは何故かしら?」


『我、相手、汝。ナイアルラトホテップ、指示、それだけ』


「ナイアルラトホテップはトゥモロー様と戦いたがってるのか。この先のことを考えるなら、お前をさっさと倒して先に行かせてもらった方が良いわね」


 恭介の心配をしている訳ではないが、ナイアルラトホテップが恭介と真っ向から勝負するとは思えなかったから、明日奈は自分の露払いとしての役割を忠実に果たすべくヤード=サダジをさっさと倒すことにした。


『我、負け犬。されど、同じ、我、強い』


「…誰が負け犬よ! 私の新しい力を思い知らせてやる!」


 ヤード=サダジに負け犬と言われて明日奈はキレた。


 恭介を巡る恋愛の戦いでは麗華に負け、ナイアルラトホテップには実力で負けた今、明日奈にとって負け犬という言葉は絶対に言われたくなかったからだ。


 明日奈はファントムペインとヴァーミリオンを合成し、完成したデュアルクリムゾンを構えてヤード=サダジと距離を詰める。


 デュアルクリムゾンの見た目は真紅に輝く双剣だが、これによる攻撃は斬ると焼くの2つのダメージを与える仕様である。


 しかも、ファントムペインの性質を引き継ぐから痛みを増幅させるので、デュアルクリムゾンで斬られれば斬られる程痛みで苦しめられる。


 ヤード=サダジはコメットゲイザーを近づけさせまいと無数の触手を伸ばすが、明日奈は剣舞でも披露するような動きで触手をバッサバッサと斬り捨てる。


『ひぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』


 連続してデュアルクリムゾンで触手を斬られれば、ヤード=サダジが受ける痛みは想像を絶する程のものだ。


 叫ぶヤード=サダジが口から分裂するビームを発射して抵抗し、明日奈はそれらを躱しつつ追跡曲砲トレースキャノンでヤード=サダジに反撃する。


 曲がるビームがビームを発射した直後の口に命中し、ヤード=サダジが怯んで動けなくなった。


 その隙に触手を斬りながら近づけば、今度は激痛によってヤード=サダジが思うように動けなくなる。


「ほら、負け犬なんでしょ? 鳴きなさいよ、ヤード=サダジ」


『明日奈ちゃんがドSな件について恭介君に報告しよう』


「止 め ろ」


ちゃんとは違うベクトルで圧があるね』


 麗華の名前を訊き、明日奈の機嫌が余計に悪くなった。


 自分のことを負け犬と言ったヤード=サダジをわからせたことで、少し溜飲が下がったはずだったのにルーナは余計なことをしたものだ。


 言わなければ良いのに余計なことを言うのは、ルーナだからなので仕方ないけれど状況を考えるべきだろう。


 苛立ちによって攻撃が苛烈になり、ヤード=サダジの悲鳴がどんどん大きくなっていく。


『ひぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 止めろぉぉぉぉぉ!!』


「敵に慈悲はない」


 明日奈は容赦なく触手を斬り続け、デュアルクリムゾンが遂にヤード=サダジ本体に触れた。


 この時には既にヤード=サダジの声が弱っており、明日奈はフライトユニットからガトリングガンの銃撃と小型ミサイルを飛ばして本体にとどめを刺した。


「ヤード=サダジ、お前が負けた敗因は私を怒らせたことよ。地獄で詫びなさい」


『ヤード=サダジ、お前が負けた敗因は私を怒らせたことよ。地獄で詫びなさい。ふーん、クールじゃん。掲示板で流しとくね』


「止 め ろ」


『あっはい』


 先程よりも明日奈の圧が強かったから、ルーナはおとなしくなった。


 だがちょっと待ってほしい。


 掲示板でわざわざ流さなくとも戦いの様子はライブ配信されており、掲示板を経由して多くの人が見ているのだ。


 上位単一個体ではないとはいえ、ヨグ=ソトースそっくりなヤード=サダジとの戦いに注目されないはずがない。


 そうなると明日奈の動きが急にキレッキレになった理由を訊ねる者が出て来る訳で、それに対して分身のフォルフォルが律儀に答えるから結局バレる。


 その現実を明日奈に次げず、ルーナは蜂の巣になったヤード=サダジの死体を回収した。


 (トゥモロー様達にさっさと追いつかないと)


 既にこの場でやるべきことはやり終えたから、明日奈はコメットゲイザーを操縦して恭介達が進んだ方向に進んだ。

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