第303話 怖くないとは言わない。それでも、勝ち取らなきゃいけないって気持ちの方が強い
麗華は格納庫に戻って来た後、新たに手に入れた
「恭介さん、私も
「
「確かにそうかも。攻撃に専念できると助かるよね」
『ただでさえ攻撃寄りな麗華ちゃんがもっと攻撃的になっちゃう…』
はわわとわざとらしく慌てるルーナが格納庫のモニターに現れたが、恭介も麗華もスルーした。
昼食を取るには少し早かったから、2人はトレーニングルームで軽く汗を流し、シャワーを浴びてから食堂に移動した。
食後に恭介と麗華はラミアスに呼ばれ、艦長室の中に入った。
「恭介さん、麗華さん、お疲れ様です。明日からのドリームランド侵攻に伴う作戦会議をするべく集まっていただきました」
「まあ、このタイミングで呼ばれるとなればそれしかないか。ルーナ、敵についてわかってることを全て話してくれ」
『はいは〜い』
ドリームランド侵攻作戦を実行すると言い出したのはルーナだから、この場にいないはずがない。
モニターに現れてすぐに、ルーナは恭介達にドリームランドについてわかっている情報を共有し始める。
「やっぱり、ドリームランド侵攻を完遂するならナイアルラトホテップの討伐はマストか」
『そうだよ。仮にドリームランドを破壊したとしても、ナイアルラトホテップはケロッとしてるだろうからね』
クトゥルフ神話の侵略者達のほとんどは、宇宙空間に放り出されても生きていられる。
それゆえ、面倒臭そうなナイアルラトホテップの討伐をドリームランドの破壊と一緒に済ませるという手段を選ぶなら、一瞬でドリームランドを塵にするぐらいの攻撃手段が求められるだろう。
また、仮にそんな手段があったとしても、ナイアルラトホテップがそれを素直にやらせるとは思えない。
邪魔しない方がおかしいこともあり、ドリームランドの破壊はナイアルラトホテップの討伐後と考える方が現実的だ。
「ナイアルラトホテップって恭介さんのコピーとは良い戦いをしたんだよね? それなら、恭介さんと私が一気に相手をすればこちら側が有意な状態で戦えるんじゃない?」
『麗華ちゃん、ナイアルラトホテップをそこまで甘く見ないほうが良い。怠惰に座して待つような存在だったら、明日奈ちゃんの
「強くなる上位単一個体ってのは、嬉しくない話だな。ルーナ、マイノグーラを倒した時、俺達の情報はナイアルラトホテップに伝わったと思うか?」
『そこまでは伝わってないと思うな。もしも伝わってたなら、明日奈ちゃんの
ルーナの読みは恭介達にとって納得できるものだった。
ナイアルラトホテップがMでない限り、わざわざ明日奈にダメージを与えられる理由はない。
「とりあえず、今日の亡国脱出で麗華が
『それには賛成。問題はナイアルラトホテップと戦うまでの露払いだね。奴以外に上位単一個体はいないみたいだけど、単一個体はまだまだいるっぽい。沙耶ちゃんと晶君だけで露払いできるかな?』
「そこが悩ましいところだよな」
恭介とルーナが唸っていると、麗華が首を傾げる。
「3期パイロットの4人は瑞穂に待機なの?」
「待機だな。足手纏いだからって訳じゃないぞ。瑞穂の守りにコピーパイロットプログラムだけじゃ心配だし、彼等の精神面を考慮してのことだ。力の差を見せつけられてしまった以上、勝てるビジョンが見えない相手を戦わせるのは危険だ」
『うーん、明日奈ちゃんは連れてったら? 露払いにもう1人ぐらい必要な気がする』
慎重論の恭介に対し、ルーナは攻め込むメンバーをもう1人増やせないか考え、3期パイロットで最も善戦した明日奈を追加してはどうかと告げた。
そこで意外な意見を述べたのは麗華だった。
「あの女を連れて行こう」
『意外だね。麗華ちゃんは反対すると思ったんだけど』
「あの女のことは嫌いだけど、強くなった姿を恭介さんに披露する舞台ぐらいあっても良いと思う。というか、その舞台を用意しなかった時にネチネチ言いそうだから、露払いとして連れてく」
「『なるほど』」
恭介とルーナの反応がシンクロした。
ラミアスも声に出したりこそしなかったけれど、確かにそうだと頷いていた。
侵攻作戦の侵攻組は恭介と麗華、沙耶、晶、明日奈に決まり、露払いを行う順番は明日奈、晶、沙耶の順番に決まった。
「ところで、前々から気になってたけど王のアザトースは何処にいるんだ?」
『その情報だけは今までに回収した侵略者達もアザトースの存在しか知らなかった。多分、唯一の手がかりを握ってるのがナイアルラトホテップなんだよ』
「一番嫌なのはドリームランドでナイアルラトホテップと続けて戦うことだな。いずれ戦うにせよ、この2連戦は避けたい」
『こればっかりは私にも現時点ではなんとも言えないね。下手なことを言えばフラグになりそうだから、余計なことは言わないよ』
いつもならわざとフラグを立てるぐらいはやってのけるはずなのに、それを避けるということはルーナもそうなったら不味いと思っているらしい。
アザトースの情報でわかっていることと言えば、それはクトゥルフ神話の王であることだけだ。
どれだけ強いのかわからない相手と戦うのに、策も練らずに行き当たりばったりなのは避けたいと思うのが自然だ。
とりあえず、何もわからないアザトースのことは棚上げするしかないから、攻め込む手筈をまとめて作戦会議を終えた。
それから、
「トゥモロー様、私に再起のチャンスを与えて下さりありがとうございます」
本当は恭介がその機会を与えた訳ではないけれど、それを正直に言うとこの場が荒れると思って恭介は頷く。
「悔しさをバネに強くなったなら、俺達について来れるはずだ。それでも、くれぐれも無理はしないように」
「わかりました。無理はしません」
明日奈は素直に応じたため、この場で恭介がそれ以上深掘りすることはなかった。
しかし、麗華と沙耶は直感的に違和感を覚えたため、侵攻する際は注意しておこうと心に決めた。
「麗華さん、少しだけ兄さんを借ります」
「どうぞ」
麗華は沙耶を明日奈のように警戒していないので、先に私室へと戻った。
2人きりになったところで、沙耶がなかなか口を開けずにいるから恭介が話しかけてみる。
「沙耶、明日の作戦が怖いのか?」
「…怖いです。大気圏突入も正直怖かったですし、3期パイロットがあっさり倒された相手と戦いに行くのは怖いです。逆に兄さんは怖くないんですか?」
「怖くないとは言わない。それでも、勝ち取らなきゃいけないって気持ちの方が強い」
「何を勝ち取らなきゃいけないんですか?」
恭介が怖さを乗り越えて勝ち取りたいものを知りたくて、沙耶はそれについて訊ねた。
恭介の考えを知ることで、自分も恐怖に打ち勝てるのではないかと思ったのだ。
「麗華と平和に暮らせる日々だ。それと戦争とか関係なくGBOで遊べる日々もか」
「…麗華さんは幸せですね。それに比べて私には何もない。兄さんは、平和な世界に私を入れてくれないんですか?」
「そんなことない。沙耶も家族だからな。家族と平和に暮らせたら良いと思う」
「でも、麗華さんよりは優先度は低いんですよね? いえ、今のは失言でした。兄さんにやっとできたパートナーに対して失礼でしたね」
つい言ってはいけないことを口にしてしまったから、沙耶は恭介に謝った。
そんな沙耶は見た目以上に精神面で弱っていたようなので、恭介は沙耶を優しく抱き締めた。
それは愛する者に対してというよりも、怖い夢を見て怯えている子供を落ち着かせるようなものだった。
沙耶も恭介を抱き締め返し、気持ちが落ち着くまでそのままでいた。
強者であり、頼れる兄であり、慕っている異性でもある恭介の心臓の鼓動を聞いていたことで心が落ち着き、沙耶の顔色が良くなった。
「ありがとうございました。もう大丈夫です。これ以上は麗華さんに疑われちゃいますので止めておきます」
「そうだな。まあ、明日は沙耶も無理だけはするな。いざとなれば俺と麗華がなんとかするから」
恭介は沙耶の部屋を出る時、改めて気持ちを引き締めた。
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