第297話 なんだこの程度か。マッサージチェアの方が私にとっては刺激が強いよ。出直したまえ
恭介と麗華がコロシアムに行ったまま連続でバトルメモリーに挑んでいる頃、緊急事態が起きていた。
『総員、第一種戦闘配備。繰り返します。総員、第一種戦闘配備。高天原に侵略者が接近しております』
ラミアスが瑞穂の艦内放送で緊急事態が告げられたことにより、格納庫にいた2期と3期パイロットは今日のスケジュールを変更せざるを得なくなった。
「ラミアス、敵戦力について教えて下さい」
『承知しました。モニターにも映しますが、C137アブホースとC138イー・ト・ラーです。現在、C137アブホースは高天原に覆い被さろうと体を風呂敷のように薄く延ばしています』
「筧さん、ここは私達が行きます」
話を聞いていた明日奈が出動すると告げる。
単一個体2体ならば、3期パイロット4人で十分に戦えると判断してのことだ。
仁志と遥、潤も明日奈と同意見のようで頷いている。
「わかりました。では、アブホースとイー・ト・ラーの対処は3期パイロットにお任せします」
沙耶も6人で出撃するまでの敵ではないと判断し、明日奈達の出撃を許可した。
許可を得た明日奈達はそれぞれのゴーレムに乗り込み、順番にカタパルトへと自身の乗るゴーレムを動かした。
『無事に帰還して下さいね。進路クリア。コメットゲイザー、発進どうぞ!』
『等々力明日奈、コメットゲイザー、出るわ!』
カタパルトから射出され、コメットゲイザーが宇宙空間に飛び出す。
その後に他の3期パイロットの機体も続く。
『山上仁志、ドミヌスコンダクター、発進する!』
『笛吹遥、トリスタン、出るわよ!』
『田辺潤、ドレッドポープ、行きます』
3期パイロット全員が瑞穂から出撃した。
明日奈のコメットゲイザーは、ゲイザーにリミットブレイクキットを使用した機体だ。
火力の増したガトリングガンと小型ミサイルを内蔵したフライトユニットを背負い、モノアイの一角アンテナを頭から生やしているのは変わらないが、ただのゲイザーの時よりもボディーがスマートになった。
それだけでなく、専用兵装ユニットとしてコックピット下に
仁志のドミヌスコンダクターは、コンダクターとドミネーターを合成した結果であり、タクトオブフィクサーを装備しているのは変わらないが、両肩に攻撃を反らす盾が装備されてゴツくなった。
両肩の盾からエネルギーバリアが展開されるため、魔石の消費が激しくなるものの盾を壊されない限り本体が傷つくことはなくなった訳である。
遥のトリスタンは、タイラントドレイクとオクタグラムを合成して翼人型ゴーレムとして完成した。
2つの八角形のビットが回転しながら随行し、常にトリスタンを狙う敵を迎撃する。
各辺毎に銃が仕込まれているから、迎撃に隙はできにくくなっている。
潤のトレッドポープは、ダビデとリフレインが合成した結果できた翼人型ゴ-レムだ。
翼には銃が仕込まれていない代わりに、ヤルダバオトと同様の敵の動きを鈍らせる粉を撒き散らせる上、両肩に小型ミサイルランチャーが設置されているから粉で動けなくなった敵を狙い撃ちできる。
「遥さん、私と田辺さんでアブホースをやります」
『わかりました。では、イー・ト・ラーは私と仁志でやりましょう』
女性陣が素早く役割分担を決め、それに男性陣が付き従うのは3期パイロットならいつものことだ。
明日奈が潤とペアを組むことが多いのは、仁志と遥が婚約者であること以上に潤のギフトと体質を買っているからである。
敵に不幸が訪れれば隙ができるから、それだけでも仕留めるチャンスが増える。
恭介のために敵を倒すことを最優先する明日奈にとって、潤は利用価値が大きいパイロットなのだ。
明日奈と潤が体を広げるアブホースに攻撃し始めると、攻撃が当たった場所からアブホースの体に穴が開く。
しかし、アメーバのようなその体は穴が開いたならばそれを活かし、分裂して数を増やし始めた。
「厄介ね。田辺さん、粉でアブホースの動きを鈍らせて下さい。その後順番に私が焼きます」
『わかりました』
分裂して数を増やしてから、その体が薄く伸びていけば当初よりも高天原がアブホースに覆われる可能性が上がってしまう。
だからこそ、まずは敵の動きを止めて確実に敵の体を破壊しなければならない。
潤がドレッドポープの粉でアブホースの動きを鈍らせたら、明日奈がファントムペインで次々に致命傷を与えていく。
『『『…『『キェェェェェ!』』…』』』
ファントムペインは本来与えた痛みを増幅させるから、致命傷を与えた時の断末魔の叫びは音量が酷いことになる。
その叫び声は仁志と遥のペアと戦うイー・ト・ラーに焦りを生じさせる。
何故なら、アブホースが体を広げて高天原を覆い被さろうとすれば、敵がアブホースに攻撃するのは当然であり、アブホースの痛覚耐性はこの戦術を成功させるには十分だと思っていたからである。
3期パイロット全員のギフトレベルが36に到達したこともあり、イー・ト・ラーが精神を揺さぶって魅了しようとしても上手くいっていないから、イー・ト・ラーとしては高天原襲撃を成功させるための手段を2つ失敗してしまった訳だ。
想定外の事態が連続して起きれば焦らない方がおかしい。
イー・ト・ラーが焦って隙を見せたため、仁志と遥はそれを見逃さずに攻撃の密度を上げる。
結果的に、アブホースとイー・ト・ラーが倒されたタイミングはほとんど変わらなかった。
『3期パイロットの皆さん、気を付けて下さい! C207ナイアルラトホテップです!』
ラミアスのアナウンスが聞こえた時、明日奈達の前に暗黒のファラオと呼ぶべき見た目の異形が現れて拍手していた。
『素晴らしい。見事だよ。いくらアブホースとイー・ト・ラーが弱い部類とはいえ、ここまで完封するとは思っていなかったよ』
「風穴を開けてやる!」
明日奈が
『ふむ、行儀が悪いね。ナイアルラトホテップ様のありがたい話を最後まで聞きたまえ』
再びナイアルラトホテップが指パッチンすれば、ドミヌスコンダクターの背後に黒い渦が現れ、そこから明日奈の放った
その結果、ドミヌスコンダクターのコックピットが撃ち抜かれ、立て続けにドレッドポープのコックピットも撃ち抜いた。
仁志と潤はスケープゴートチケットを持っていたため、死ぬことなく瑞穂に強制送還されたがあっという間に2人やられてしまった事実は変わらない。
『よくも仁志をやってくれたわね! ギフト発動!』
手の内が全くわからないナイアルラトホテップに対し、仁志を殺されて激昂した遥が
そんな遥の攻撃をナイアルラトホテップは少し驚いたようだが、涼しい顔で耐えてみせた。
『なんだこの程度か。マッサージチェアの方が私にとっては刺激が強いよ。出直したまえ』
ナイアルラトホテップが右手をグッと握った瞬間、トリスタンがいきなり爆散した。
遥もスケープゴートチケットを保持していたから、その場で死なずに瑞穂に強制送還された。
クトゥルフ神話にもマッサージチェアが登場するのかというツッコミはさておき、数分の内に3人強制送還されてしまったことは異常事態としか言えない。
「ギフト発動」
この状況を打破できる手段は、
本物ではなくとも恭介ならば、ナイアルラトホテップをどうにかできる可能性がある。
アンチノミーが現れた途端、ナイアルラトホテップはそれを警戒した。
『ほう、これが貴様の切札か。今までの雑魚と比べて真面目にやらねば痛い目を見そうだ』
(流石はトゥモロー様。ナイアルラトホテップが警戒してるわ)
恭介に対する明日奈の信仰心が高まった。
アンチノミーはナイアルラトホテップを腰の両側にあるビットとXの翼の武装による攻撃で着実にダメージを与えていく。
『今のままでは不味いね。一旦退かせてもらおう』
「逃がさないわ」
明日奈は
それがナイアルラトホテップの癇に障ってしまった。
『調子に乗るなよ小娘。貴様の切札が強かろうが、貴様自体は取るに足らない』
ムッとした声を発したナイアルラトホテップがグッと拳を握った瞬間、コメットゲイザーは爆散してスケープゴートチケットにより明日奈は瑞穂に強制的に転送された。
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