第294話 なんだファザコンか

 昼食時に食堂で3期パイロットに状況を説明したら、食休みが終わってすぐに3期パイロットは二度とスケープゴートチケットの世話になりたくないと気合を入れ、各々のやるべきコンテンツをするべく格納庫に向かった。


 明日奈はスケープゴートチケットを使った訳ではないけれど、同期の3人がに負けたらトゥモローファンクラブの会員として恥ずかしいらしく、同期の3人よりも追い込んでいる。


 沙耶と晶は元々、2機目のゴーレムを強化しようとしていたところで3機目のゴーレムが手に入ったから、強化するのに丁度良い設計図がなくてコンテンツに挑みに行った。


 恭介達もバトルメモリーを挑もうとした時、コックピットにラミアスからアナウンスが入る。


『恭介さん、麗華さん、大変です。地球に大量のC002ナイトゴーントとC012忌まわしき狩人が接近中です』


「ナイアルラトホテップの姿はないのか?」


『C207ナイアルラトホテップの姿はありません』


「そうか。じゃあ、俺と麗華しかいないしとりあえず出撃する」


 2期と3期パイロットが出撃してしまっている以上、出撃できるのは恭介と麗華しかいない。


 だからこそ、恭介達はアンチノミーとシグルドリーヴァをカタパルトに向けて動かす。


『進路クリア。アンチノミー、発進どうぞ!』


「明日葉恭介、アンチノミー、出るぞ!」


 カタパルトから射出され、アンチノミーが宇宙空間に飛び出してから麗華が続く。


『麗華さんも気を付けて下さい。進路クリア。シグルドリーヴァ、発進どうぞ!』


『明日葉麗華、シグルドリーヴァ、出るわよ!』


 アンチノミーに続いてシグルドリーヴァも出撃した。


 高天原と地球は近い位置にあるが、地球に接近しているナイトゴーントと忌まわしき狩人の大群は恭介達と反対側にいる。


 地球に降下されては困るから、その前に麗華が全武装を一斉掃射して降下の邪魔をする。


 やられた同胞を喰らい、自らを強化するのはいつも通りの行動である。


 無論、強化された個体を逃す訳にはいかないから、恭介はアンチノミーの腰の両サイドにあるビットからビームを射出し、強くなりそうな順番で倒していく。


 (ん? なんだろうこの違和感は?)


 敵をサクサク倒している時、恭介はふと敵の群れに違和感を覚えた。


『恭介君、どうしたんだい?』


「ルーナ、敵は本当にナイトゴーントと忌まわしき狩人だけか?」


『…まさか、何かがあの群れに潜んでるってこと? ナイアルラトホテップかな?』


「確信がある訳じゃなくて、ただなんとなく異物が紛れ込んでる気がしただけだ」


 上手く言葉にできないけれど、恭介は敵の群れがただの雑魚モブの混成集団ではないように感じ取った。


 その感覚は正しかった。


『恭介さん、麗華さん、申し訳ございません! 現在戦闘中の敵集団の中にC136イブ=ツトゥルがおります! 先程までC002ナイトゴーントに擬態しておりました!』


『恭介君はニュー○イプってことで良いのかな?』


「有益な情報が出せないなら黙ってろ」


『あっはい』


 なんとなくでも気づけなかったら、油断していたところをやられていたかもしれない。


 それゆえ、ルーナを黙らせつつ恭介は気持ちを切り替えた。


「麗華、周囲の掃除を任せて良いか?」


『大丈夫! 倒したらすぐに合流するね!』


 麗華は恭介だけに負担をかけさせないように、全武装でガンガン攻撃して敵の数を減らしていく。


 義体を解除したイブ=ツトゥルは巨大で緑の衣を纏い、蝙蝠の翼を背中から生やし、胴体にはいくつもの乳房が垂れ下がっている。


 一説ではそこから分泌する乳により、無数のナイトゴーントを養っているのだが今はそんなことを考えている場合じゃない。


『我が父は貴様等を高く評価してるようだが、貴様等にはそんな価値はない。それを証明してみせよう』


「なんだファザコンか」


『ファザコンで何が悪い!?』


 イブ=ツトゥルは開き直っており、ファザコンであることを馬鹿にする発言をした恭介にキレて全ての乳房からビームを放った。


 (えっ、そこからビーム出るの?)


 想定外の事態が起きてびっくりしたが、恭介は危なげなくそれら全てを躱した。


 ビヨンドロマンをホーミングランチャーに変え、自身の攻撃が当たるまで止めないイブ=ツトゥルに反撃を開始する。


 イブ=ツトゥルのビームは直線でしか飛ばないが、恭介の放ったビームは追尾するからイブ=ツトゥルだけが一方的にダメージを負っていく。


『このチート野郎が!』


 そう吐き捨てたイブ=ツトゥルは無数の蝙蝠に分裂し、アンチノミーを取り囲むように移動し始める。


 しかし、恭介を包囲しようとしたイブ=ツトゥルは頭に血が上ったせいで大事なことを忘れていた。


『私の恭介さんになんてもの見せんのよ!』


 全武装で一斉掃射するだけでなく、ガトリングガンに変形させたアルテマバヨネットで連射すれば、麗華の攻撃は分裂したイブ=ツトゥルにどんどん命中していく。


 麗華が怒っていることだが、これはイブ=ツトゥルがいくつもの乳房を露出してそこからビームを放ったことだ。


 恭介は化け物を異性として見ることはないのだが、自分の夫になんてものを見せるのかと麗華は大変お怒りである。


『『『…『『なんだ貴様は! 我が従僕の相手をしてたはずだろう!』』…』』』


『あんな雑魚共すぐに片付いたわ! そんなことよりもさっさとくたばれ!』


 麗華の攻撃で次々に蝙蝠が撃墜されるけれど、やられては増殖するからなかなかイブ=ツトゥルが倒せない。


 (んー、なんとなくあいつかな)


 恭介は直感で本体だと思った蝙蝠に対し、存在理砲レゾンテートルを発射した。


 そのビームが蝙蝠を撃ち抜いた瞬間、他の蝙蝠達が一気に消滅した。


『な、何故わかった…』


「勘」


『嘘だ…』


 恭介に勘と言われてガックリ来たイブ=ツトゥルは、ビームのダメージに耐え切れなくなって力尽きた。


『恭介さん、麗華さん、お疲れ様です。周辺に敵性反応はありません。帰還して下さい』


『「了解」』


 ラミアスから戦闘終了のアナウンスが聞こえたため、恭介達はそれぞれのゴーレムを操縦して高天原に戻る。


 恭介と麗華が高天原内の瑞穂の格納庫に到着すると、2人のゴーレムのコックピットにバトルスコアが表示される。



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バトルスコア(VSクトゥルフ神話)

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出動時間:15分3秒

撃破数:ナイトゴーント120体

    忌まわしき狩人80体

    イブ=ツトゥル1体

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総合評価:S

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報酬:資源カード(食料)100×10枚

   資源カード(素材)100×10枚

   100万ゴールド

ファーストキルボーナス:防御支援兵装ユニット自警盾団ヴィジランテ

ノーダメージボーナス:魔石4種セット×100

ギフト:黄竜人機ドラキオンLv50(stay)

コメント:ナイアルラトホテップは来なかったね

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「イブ=ツトゥルのことをナイアルラトホテップがどれだけ気にしてるんだろうな?」


『さあね。恭介君はナイアルラトホテップが気にしてないと思うの?』


「全く気にしてないとは思わないが、気にしてるならイブ=ツトゥルが独断で攻め込んだ時にどうなっても良いように近くで待機してるはずだ」


『そう言われれば確かにそうかもね。でも、クトゥルフ神話の侵略者達は人間とは違う価値観で生きてるんだ。何処でどんな風に仕掛けて来るかわからないからこそ、しっかりと備えておく必要があると思う』


 ルーナの言い分はもっともだった。


 人間にはやられた同胞の死体を喰らって強くなる性質もなければ、そのような文化も存在しない。


 その一方、クトゥルフ神話の侵略者達にはそれがあるのだから人間と同じ尺度で考えてはいけないのである。


 それから、恭介はファーストキルボーナスで手に入れた防御支援兵装ユニット自警盾団ヴィジランテについて確認してみた。


 これは4つの盾を装備した航空戦闘機の見た目をしており、一定以上のスペックを持つゴーレムならば装備できる兵装ユニットだ。


 夜明拓装デイブレイカーとは異なり、変形武器ではなく使用者の衛星のように盾が周囲をグルグル回る。


 敵の攻撃を自動で守ってくれるから、攻撃に集中できるという点で遠距離攻撃の際に重宝するだろう。


 報酬の確認を終えてコックピットから出ると、恭介は待ち構えていた麗華に抱き着かれた。


「恭介さん、お疲れ様」


「麗華もお疲れ様。今日も麗華が敵の認識外から攻撃してくれたおかげで、楽に倒すことができたよ」


「それじゃあご褒美欲しい」


 そう言って麗華は恭介の胸に頭をぐりぐりと擦りつけて甘えた。


 甘えられるチャンスに甘える麗華に対し、恭介は麗華が満足するまで頭を撫でてあげた。

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