第285話 待て。なんで俺だけパイロットネームが二つ名表記なんだ?
万里香がイベント会場に戻って来てからススコア発表が行われ、全員がそれに目を通したと判断したところでフォルフォルが喋り出す。
『同胞を殺されて悔しいとか、資源が足りないとか思うなら次のレースで恨みを晴らして物資を奪おうね。過去ばかり見ずに前を見るんだ。止まるんじゃないぞ。じゃあ、恐怖のルルイエメモリアルで走るパイロットをランダムでコースに飛ばすよ』
誰もがどうか自分以外のパイロットに当たれと祈った瞬間、田中が乗るオルタナティブΔがルルイエメモリアルに転送された。
「やっぱりか。こうなる予感はしてたぞ畜生」
『予想できて偉いねぇ。頑張れ♡ 頑張れ♡』
「ウザいから黙れよ」
『私に口答えするとは田中も偉くなったものだね』
オルタナティブΔのモニターに映るフォルフォルは、田中に対して恭介達への態度と違って強気である。
フォルフォルが自分に対して対応がキツいのは前からなので、田中はそこまで気にせずフォルフォルに訊ねる。
「他のゴーレムの情報が見たいんだが? それとなんで俺は8位スタートなんだ?」
『しょうがないなぁ。はい、レース参加者の一覧だよ。8位なのはさっきのレースの結果と君の実力を考慮してのことさ。妥当だね』
自分のことをフォルフォルが評価していることに驚いたが、それはそれとして田中はモニターに映ったレース参加者一覧を確認し始める。
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レース参加者(第3回新人戦・ルルイエメモリアル)
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1位:ハフバリ(IN国/ブリキドール/土)
2位:ペレストロイカ(R国/ライカンスロープ/風)
3位:チャオズ(C国/マッドクラウン/水)
4位:ハスハス(D国/シーサー/土)
5位:バブルマン(A国/ザントマン/火)
6位:ルカルゴン(F国/スイーパー/風)
7位:フェアリス(E国/ハイピクシー/火)
8位:エンディミオンのTANAKA(日本/オルタナティブΔ/無)
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「待て。なんで俺だけパイロットネームが二つ名表記なんだ?」
『そんなこと言ったってしょうがないじゃないか。君はエンディミオンのTANAKAとして有名だけど、パイロットネームの蟹頭って表示すると誰このパイロットって扱いになるんだもん』
「嘘だろ? 俺のことをただ揶揄ってるだけなんだろ?」
『じ じ つ』
フォルフォルに強調して断言され、田中はガックリと項垂れた。
それでも、そろそろスタートの合図が出されると思ってすぐに気持ちを切り替える。
『3,2,1,GO!』
スタートの合図と共に、田中はオルタナティブΔを巧みに操縦して一気に1位に追いついた。
オルタナティブΔだが、その姿はテスタメントに似ている。
これは田中が日本に強制送還された時に持ち帰った設計図のデータを使い、テスタメントそのものとまではいかなくともそれに近いスペックを再現したのだ。
テスタメントは遠距離重視で実弾とビームを切り替えられる銃を装備しており、状況に応じて使い分けられる遠距離戦を得意とするパイロット向けのゴーレムだが、オルタナティブΔはビームライフルと盾を装備しており、背中にはフライトユニットがあるから飛べる。
そのフライトユニットがあるおかげで、スタートダッシュに成功して一気に1位まで追いついた訳である。
田中がE国のフェアリスと1位争いをしていると、コースのあちこちから声が聞こえる。
『『『…『『いあいあ!』』…』』』
「マジで?」
田中は顔を引き攣らせた。
何故なら、自分の行く手を阻むべく現れたのがディープワンそっくりの存在の群れだったからだ。
『どうだい? ディープワン=レプリカはちゃんと気持ち悪いだろう? 私もよくここまで再現できたと自画自賛したくなる仕上がりだよ。』
フォルフォルがオルタナティブΔのモニターに現れ、渾身のドヤ顔を披露した。
それだけの自信作がディープワン=レプリカである。
ディープワン=レプリカの群れはゴーレムに飛びつき、数でそれらを圧殺せんと行動に移る。
『ああ! 窓に! 窓に!』
最初の犠牲者はフェアリスだった。
田中がディープワン=レプリカの群れを躱しながら進むのに対し、フェアリスには田中レベルの回避技能はなかったから、あっという間にディープワン=レプリカに密集されて発狂した。
勿論それでフェアリスから離れる訳もなく、一斉に攻撃されてハイピクシーが爆散した。
それどころか、他のゴーレムにもディープワン=レプリカの群れに掴まり、フェアリス同様にやられる者まで出て来てしまった。
『ウププププ、雑魚ばっかりだね。E国のフェアリスにD国のハスハス、R国のペレストロイカが脱落しちゃったよ。物的資源? そんなの没収に決まってるじゃん。馬ァ鹿』
最早アナウンスと呼ぶには煽り要素が強過ぎる。
田中がディープワン=レプリカの群れを避けられたのは、過去の避けタンクとしての経験のおかげである。
ルルイエメモリアルはコース自体に癖はないけれど、とにかくクトゥルフ神話の侵略者達とのレプリカが脅威のコースだ。
ディープワン=レプリカの群れを追い抜いて2周目に突入し、田中は次にショゴス=レプリカの群れと接敵した。
「非殺生ボーナスが欲しいな。攻撃せずに突破してやる」
レースの報酬を豪華にするならば、下手に敵を倒さず全て敵を避けて行く方が良い。
それを田中もわかっているから、ショゴス=レプリカの群れを倒したら気持ち良いと思っても手を出さずに進む。
『こいつ等レプリカだよ? 本物じゃないんだよ? C国のチャオズにIN国のハフバリも脱落しちゃったよ。物的資源は当然没収だね。雑ァ魚雑ァ魚』
フォルフォルが脱落したパイロットを煽ったところで、残るパイロットは田中を含めてA国のバブルマンとF国のルカルゴンの3人になってしまった。
2周目でこれ以上の脱落はなく、田中が3周目に突入した時に再び声が聞こえ始める。
『『『…『『いあいあ!』』…』』』
今度はヤマンソ=レプリカの群れが現れた。
「逃げるんだよォ!」
ヤマンソは炎を飛ばして来るから、密集だけ気を付ければ良い訳ではない。
田中は全力で逃げに徹した。
『良いじゃん田中! もっと踊ってよ! 君のダンスは滑稽で見ててとても楽しいんだ!』
「気が散るから黙っててくれ!」
流石に自分が声をかけたせいで死なれるのは困るから、フォルフォルはそれ以上田中に話しかけなかった。
ただし、パイロットが死んでしまった時は別である。
『レプリカにやられちゃう奴おりゅ? いるんだよなぁ! F国のルカルゴンが死んだってよ! 物的資源は没収募集ゥ!』
田中はそのアナウンスも耳に入っていたが、とにかくヤマンソの攻撃を避けることに集中していたから反応しなかった。
前方にバブルマンが操縦するザントマンがいたが、ギリギリ追い越せずに田中はゴールラインを通過した。
『ゴォォォル! 優勝は日本が誇るエンディミオンのTANAKA&オルタナティブΔだぁぁぁぁぁ!』
フォルフォルは田中が1位であることを宣言し、オルタナティブΔは魔法陣によってイベント会場に転送される。
転送中に田中はモニターに表示されたレーススコアに目を通していく。
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レーススコア(第3回新人戦・ルルイエメモリアル)
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走行タイム:33分17秒
障害物接触数:0回
モンスター接触数:0回
攻撃回数:0回
他パイロット周回遅れ人数:5人
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総合評価:A
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報酬:資源カード(食料)100×5枚
資源カード(素材)100×5枚
50万ゴールド
非殺生ボーナス:魔石4種セット×50
ギフト:
コメント:君は面白かったけど他のパイロットは情けなかったね
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「他の奴のことなんて気にする余裕なんてないわ」
田中がそう呟いた直後、オルタナティブΔはイベント会場に転送された。
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