第284話 この程度のコースで死ぬパイロットなんていないよね? あっ…(察し)
モニターが切り替わり、万里香のオルタナティブγが1位の位置に着いていた。
万里香達が乗るゴーレムにも、誰のどんなゴーレムがどの順位にいるのか映し出されているため、それを見てスタートまでの短い間にレースの作戦を練る必要がある。
満足に考える時間は与えられず、フォルフォルのアナウンスがモニターから聞こえる。
『3,2,1,GO!』
今回のレースでは、誰もニトロキャリッジやブラストキャリッジに乗っていないから、スタートダッシュで自爆するパイロットは存在しなかった。
スタート時に他のゴーレムを足止め、もっと言えば撃破してしまうのがレースにおいて当たり前になって来ている今、各国のパイロットは一部を除いて密集しているスタート地点で少しでも他のゴーレムを攻撃しつつ、自分はダメージを負わないように回避行動を取った。
一部のパイロットとは万里香のことであり、彼女だけが2位以下の足止めを考えずにスタートダッシュだけを意識していた。
だからこそ、真っ直ぐに進んでいる万里香は他のゴーレムに対してスタートダッシュで差を開けることに成功した。
『ウププププ、パンゲアクルーは馬鹿ばっかりだね。互いの足を引っ張って日本と差を開けられてるじゃん。雑ァ魚雑ァ魚』
その実況を聞いて恭介はルーナの方を向いた。
「ルーナ、煽り方が今までよりもウザくなってないか?」
「そりゃ4期パイロットは君達と違ってぬるま湯にズブズブに浸かってたんだもの。ここでストレス耐性を身に着けてもらうため、煽り方もキツく修正するさ」
「うわぁ…」
恭介がこいつマジかという表情になっていた時、他の瑞穂クルーも同じ表情になっていた。
それはそれとして、スターフォートレスは星型の要塞で走行するコースも星型だから急カーブを除いて基本的に直線的な道になっている。
ただし、ただの直線では面白みに欠けるし簡単であることから、要塞特有の武器や備品、糧食等の物資が積み上げられていて真っ直ぐは進めないようになっている。
しかも、嫌らしいことに積み上げられた物資の積み上げ方が雑であり、ちょっと刺激を与えれば崩れるのは容易に想像できる。
万里香はできるだけ最短経路を進むべく、積み上げられた物資を足場にして進むことも厭わなかった。
それにより、積み上げられた物資が倒壊して空を飛べないゴーレムにとって嫌なばらけ方をした。
2位以下の団子状態のゴーレム達は、自分以外を蹴落とすべく攻撃するだけでは足りず、障害物にも気を付けなければ足元を掬われてしまうだろう。
スターフォートレスはコースの両側が堀になっており、万里香が最初の急カーブを曲がろうと減速した時にそこからグサダーツが次々に飛び出した。
「陰湿な仕掛けだね。ゴーレムの操縦に慣れ始めたところの4期パイロットには厳しそう」
「そうは言うけど麗華ちゃん、この程度で苦戦してたら戦場じゃすぐにお陀仏だよ? グサダーツなんて直線的にしか飛ばないんだから、それさえ把握していれば十分避けられるはず」
ルーナがそう言った時、万里香はどうにか急カーブを曲がり切ってグサダーツが飛び交うエリアを突破していた。
しかし、2位以下のゴーレム達はグサダーツの突進を避けきれず、操縦するゴーレムを傷つけられていた。
その中にはコックピットを突き抜けられたゴーレムもいた。
『ワッショイ! 第3回新人戦最初の犠牲者はIN国のガンGとR国のカムチャッカマンだ! グサダーツの群れを捌き切れずにやられちゃったね! 他の参加者に倒されてない以上、物的財産は没収だよ! 残念!』
最初のコーナーまでにそれぞれ7位と8位まで転落したカムチャッカマンが乗るジャンクガンナー、8位のガンGが乗るエクスキューショナーはグサダーツの群れにやられてこの新人戦で最初の犠牲者になった。
「うん、これは酷いね。最初のコーナーで2人脱落だなんて情けない。ジャンクガンナーもエクスキューショナーもあの程度の攻撃なら躱せるスペックなのに、なんでこれしきの妨害にやられてるんだか」
「麗華さんの言う通り、4期パイロットにはまだ早い仕掛けのようですね。まだ1周目も始まったばかりですが、2周目にどれだけ残れるでしょうか」
ルーナがパンゲアクルーを酷評していると、沙耶が麗華の言った通りで4期パイロットにはコーナーの仕掛けが厳しいと言った。
実際のところ、1周目は障害物とコーナーでグサダーツの群れが出るだけだから、この程度で篩い落とされるパイロットはルーナにとって価値のないパイロットなのだが、4期パイロットの質が低いことが明らかになった。
オルタナティブγに乗る万里香は少しずつだが着実に2位との差を開き、コーナーではグサダーツの飛び出すタイミングや射線を把握して避けられていた。
万里香が2周目に突入すると、スターフォートレスに何処からともなく砲弾が飛んで来るようになった。
その砲弾に命中してしまい、6位のチョンチーが乗るモノティガーが爆散した。
『ナイスショット! C国のチョンチーが流れ弾に当たってやられちゃったね! 他の参加者に倒されてない以上、物的財産は没収だよ! 残念!』
これで残りは3期パイロットがいる5ヶ国のみになった。
1位の万里香はミスをしない走行を続けているが、その後方では遂にパンゲアクルー同士の戦いに動きがあった。
『ナイスショット! E国のサークル&テーブルがD国のBTベンの狙撃に成功したよ! これでBTベンの物的財産はサークル&テーブルに移譲されたね! おめでとう!』
「これ、この新人戦が終わったらパンゲアがギスギスするだろうね」
「晶君、それが良いんじゃないか。まったくもう、各国の無能はそれをわかってて新人戦をやりたいって言ってるんだから、滑稽過ぎて腹筋が割れちゃいそうだよ」
フォルフォルのアナウンスを聞いて晶が悪趣味だと言外に指摘したが、それに対してルーナはそうなることを前提に第3回新人戦は開かれているんだと愉悦を感じる笑みを浮かべて応じた。
砲弾は各コーナーでも飛んで来る数は減らず、タイミングがぴったり合うと砲弾がグサダーツに命中することもあった。
万里香が2周目の最終コーナーを曲がり終える頃、後ろでは最終コーナーに入ったところでF国のミゼラブルとA国のカトゥーンが互いの攻撃に当たって爆散した。
『ダブルノックアウト! F国のミゼラブルとA国のカトゥーンが相打ち! 両者の物的財産は没収だよ! 残念!』
いよいよ万里香が3周目に突入し、2位は少し離れた所にE国のサークル&テーブルがいる。
3周目のスターフォートレスでは、コースがブロック分けされてブロック毎に上下の移動をするようになった。
三拍子のリズムでブロックが動くから、タイミングを見誤ると上空にかち上げられたり当たらないはずの流れ弾に当たるリスクが生じた。
そんなギミックが作動しても、流石にコーナーではそのギミックは作動せず平地だったのは救いと言える。
サークル&テーブルが無理に1位を目指さず、堅実にゴールすることだけを考えたため、万里香も無理をせずとも1位でゴールラインを通過できた。
『ゴォォォル! 優勝は日本の
フォルフォルは万里香が1位であることを宣言し、オルタナティブγは魔法陣によってイベントエリアに転送される。
それから1分以上かかって2位のサークル&テーブルがゴールし、その転送中にモニターにはレーススコアが表示された。
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レーススコア(第3回新人戦・スターフォートレス)
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1位:業=錆(日本/オルタナティブγ/41分55秒)
2位:サークル&テーブル(E国/プリンシパリティ/43分7秒/小破)
3位:ミゼラブル(F国/リャナンシー/記録なし/死亡)
4位:カトゥーン(A国/キュクロパワード/記録なし/死亡)
5位:BTベン(D国/イフリート/記録なし/死亡)
6位:チョンチー(C国/モノティガー/記録なし/死亡)
7位:カムチャッカマン(R国/ジャンクガンナー/記録なし/死亡)
8位:ガンG(IN国/エクスキューショナー/記録なし/死亡)
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備考:この程度のコースで死ぬパイロットなんていないよね? あっ…(察し)
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「万里香が無傷で1位なのはトゥモローファンクラブとして当然です」
「恭介君、コメントしてあげて」
「オルタナティブシリーズのスペックも想像以上に良かったが、初心者向けじゃないコースで三箇さんはよくやってくれたと思う」
今度はノーコメントではなく、恭介は万里香が無事にゴールしてくれたから彼女を労うコメントをした。
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