第283話 SAN値~~~~~~~… 直葬(パフッ)

 恭介と麗華が待機室パイロットルームに到着するのと同時に、全参加国のパイロットが乗ったゴーレムが第3回新人戦のイベント会場に入場した。


 本日のイベントを開けるのは恭介達のおかげなので、2人がいないタイミングでイベントが始まらないようにルーナが調整したようだ。


 モニターには一斉にいくつものゴーレムが入場門を通って現れ、その直後に紫色の着物を着たフォルフォルのホログラムが出現すると同時に曲が流れ始める。


『残骸飛び散る 戦場


 各国の資源 没収


 ニヤリと笑う 者がいる


 絶望している 者もいる(イェイ)


 広い~宇宙そら~ 飛び回り~


 田中が追放~(サヨナラだ)


 センチメンタル ユアハート


 迫る クトゥルフ デスボイス


 まった~り私は片手に


 団子と玄米茶~


 いあいあ くとぅるふ


 ふんぐるい むぐるうなふ


 SAN値~~~~~~~… 直葬(パフッ)』


 歌が終わった時、恭介は冷静にツッコんだ。


「日曜17時半からやる大喜利番組のテーマで歌う内容じゃないな」


「え~? そうかな~? シュールでこれはこれで良いと思うんだけど」


 いつの間にか麗華とは反対側から声がして横を向くと、どういう訳かルーナがここにいた。


「ルーナ、なんでここにいるんだよ? モニターに映ってるのがフォルフォルの姿だったからおかしいと思ってたけど、ここでサボるつもりか?」


「偶には分身達だけに運営させてみようと思ってね。私はここで団子と玄米茶を持って見物するのさ。だって偉い本体だもの」


「…観戦の邪魔をするなよ」


「は~い」


 ルーナなら追い払ってもちょっとしたら戻って来てしまうだろうから、追い払おうとするだけ労力の無駄であると判断して恭介はせめておとなしくしていろと告げた。


 恭介が許可した以上、他の瑞穂クルーが文句を言うことはないとわかったため、ルーナも恭介に失せろと言われないできるだけおとなしくするつもりで頷いた。


 そんなやり取りを恭介とルーナがしている一方で、モニター上ではフォルフォルが喋り始める。


『はい、という訳でこれから第3回新人戦を始めるよ。司会は紫の着物が良く似合う腹黒噺家フォルフォルが務めるんでよろしくね~』


『『『…『『田中君、フォルフォルの座布団全部持って行っちゃって!』』…』』』


「田中の扱い雑過ぎじゃない? さっきの替え歌でもしれっと酷いこと言われてたし」


「確かにそうだね。だがそれが良い。田中はいじられてなんぼだからさ」


 晶がフォルフォルの喋った後に聞こえた声にツッコミを入れたら、ルーナがよくぞツッコんでくれたと嬉しそうに反応した。


 麗華も気になったことがあったため、ルーナがここにいるので丁度良い機会だから質問する。


「ルーナ、代理戦争にしろ新人戦にしろなんでネタが日本寄りなの? 参加してるのは日本だけじゃないでしょ?」


「そこはほら、イベントを開くにあたってそれまでに一番成果を挙げてる国に寄せてるんだ。その方が自分の国のために頑張ろうって思えるかなって考えてね」


「いや、ネタを披露されたところで国のために頑張ろうなんて思わないからね?」


「なん…だと…?」


 驚いた顔でルーナが麗華以外の瑞穂クルーの様子を伺ったが、全員麗奈と同意見であることを示すように頷いた。


 これがルーナと瑞穂クルーの感覚のズレが明らかになった瞬間である。


 ルーナがショックを受けている間、モニター上のフォルフォルが新人戦のルール説明を始める。



 ・第3回新人戦は日本以外の国の首脳の熱烈な要望で試験的に復活しただけである

 ・第4回新人戦が開かれるかどうかは今回の結果と今後の各国の動き次第で決まる

 ・新人戦はレース部門とバトル部門が順番に行われる

 ・レース部門はランダムで2名が選出されて順番にレースに参加する

 ・レース部門は毎回違うコースで行われる

 ・バトル部門ではレース部門終了時に生存している者がソロで別々のテーマにて戦う

 ・報酬は部門毎に用意されており、実績によって按分される

 ・他国のパイロットを仕留めるとギフト以外全ての物的財産を引き継げる



 今までの新人戦との決定的な違いは、今回のイベントがあくまで試験的に復活しただけだと公表していることだ。


 日本を除く参加国の政府からすれば、資源をもっと手に入れて日本のように自国でゴーレムを開発したいところだろうが、ルーナの求める結果が出なければ次はない。


 それ以外ではオーバーエイジ枠がなくなった。


 これはデスゲームに参加していない4期パイロット同士の戦いだから、3期パイロットが参加すると4期パイロットに死の間際で戦わせるという目的とは異なってしまうので、当然の措置と言える。


 オーバーエイジ枠があった時はE国とA国、D国からF国のムッシュにヘイトが向けられていたが、今回はイベント会場に4期パイロットしかいないからF国にヘイトが向けられていない。


『それじゃ、レース部門のコース選択を始めるよ』


 笑顔のフォルフォルが指パッチンしたことで24面ダイスが2つ現れ、レース部門で走るコースの選定が始まる。


 サイコロを上に放り投げてからフォルフォルが歌い出す。


『何が出るかな♪ 何が出るかな♪』


 (着物のフォルフォルがあの歌を歌うと違和感しかない)


 このコース決めの流れは新人戦でもお約束なのだが、着物のフォルフォルがこの歌を歌うのは番組違いだから、違和感を覚えるのも頷ける。


 サイコロの動きが完全に止まった時、上を向いている面に記されていた文字はそれぞれスターフォートレスとルルイエメモリアルだった。


「ルーナ、ルルイエメモリアルなんて大丈夫なのか?」


「大丈夫だよ。4期パイロットにはギフトも配ってあるから、少なくともいきなりSAN値直葬してレース続行不可能にはならない程度に再現してある」


「「「…「「うわぁ…」」…」」」


 ルーナの回答を聞き、恭介達はルルイエメモリアルに挑むことになるパイロットを不憫に思った。


 同じレース部門に参加するとしても、ルルイエメモリアルで走るかスターフォートレスで走るかで難易度が違うだろうから、これから選ばれてしまう者に対して不憫に思うのはごく自然な感情だ。


『やったね! 第3回新人戦のレース部門はスターフォートレスとルルイエメモリアルで開催だよ! まずはスターフォートレスでレースするパイロットをランダムに選出するよ!』


 もう一度フォルフォルが指パッチンすると、ドラムロールが何処からともなく聞こえて来る。


 ドラムロールが聞こえている間、スポットライトが国ごとに順番に各国のゴーレムを照らすようになり、ドラムロールが終わった時に日本チームは万里香が乗ったオルタナティブγがスポットライトに照らされていた。


 それと同時に、待機室パイロットルームのモニターにレース参加者の情報が映し出される。



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レース参加者(第3回新人戦・スターフォートレス)

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1位:カルマサビ(日本/オルタナティブγ/無)

2位:ガンG(IN国/エクスキューショナー/風)

3位:カムチャッカマン(R国/ジャンクガンナー/火)

4位:チョンチー(C国/モノティガー/風)

5位:BTーベン(D国/イフリート/火)

6位:サークル&テーブル(E国/プリンシパリティ/水)

7位:カトゥーン(A国/キュクロパワード/土)

8位:ミゼラブル(F国/リャナンシー/水)

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「あれ、珍しく日本が1位スタートじゃん」


「1つ目のレースは設計図で簡単に強化できないことを考慮して、日本を1位スタートすることにしたよ。この結果次第で、2つ目のレースの日本のスタート順位が変わると思ってね」


「なるほど。先に走るコースがスターフォートレスで良かったな。ルルイエメモリアルじゃまともなデータなんて取れる気がしない」


「それはそうだね。まあ、今から始まるレースで日本の技術力がどれだけの位置にあるか確かめようよ」


 恭介の言い分に頷き、ルーナは選ばれたゴーレム達がスターフォートレスに転送されて行くのを見ながらそう言った。


 ここで明日奈が自信あり気に口を開く。


「万里香なら大丈夫です。情けないレースを見せようものならトゥモローファンクラブから除名します」


「恭介君、トゥモローファンクラブに推されて嬉しい?」


「ノーコメント」


 ニヤニヤしたルーナから質問され、恭介はどう答えても面倒になると思ったのでモニターから目を離さず手短に答え、それ以上何も補足しなかった。

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