第29章 第3回新人戦

第281話 馬鹿なのか? 新しいタイプの馬鹿なのか?

 恭介達が瑞穂に来て63日目にして第3回新人戦当日、恭介と麗華が新人戦を視聴するべく瑞穂に向かう準備をしていたところ、ルーナが突然部屋に現れた。


「恭介君、麗華ちゃん、大変だよ」


「…確かに大変だ。不法侵入者がいる」


「アルファとベータに摘み出してもらわないと」


「えっ!? そんな冷静に私を外に摘み出そうとしないで! 緊急事態なんだから!」


 恭介と麗華が自分を屋敷の外に摘み出そうとしたため、ルーナはまず自分の話を聞いてほしいと言外に告げた。


 ルーナの慌てぶりからして、何か厄介な事態になっているのは間違いないだろうから仕方なく恭介はルーナに話の続きを促す。


「それで、何があったんだ?」


「A国に上位単一個体のC206マイノグーラが配下を率いて急接近してるんだ。それをパンゲアが阻止しようとしてるんだけど、ぶっちゃけ勝率1割ないの」


「なんでA国? A国の何処に向かってんの?」


 マイノグーラが地球を襲うなら、前回クトゥルフ神話の侵略者達が攻めた日本なのではと思った恭介だったが、実際にマイノグーラが攻め込もうとしているのはA国と聞いてその理由に疑問を抱いた。


 仮にA国で日本と同じようにゴーレム開発を行っているとしても、その進捗は資源の保有量を考えれば日本よりも遅いはずだ。


 それなら日本の方が狙われるはずであり、A国が襲われる理由に思い当たるものなんてない。


 麗華もそれは同じようで、恭介の隣でうんうんと頷いている。


「A国のギャンブルが盛んなあの町に向かってるんだ。マイノグーラは光るものが嫌いらしいんだけど、馬鹿なA国が手に入れた資源であの町をギラギラさせてるせいで、地球で一番明るくなっちゃったんだ。それで狙われてるみたい」


「馬鹿なのか? 新しいタイプの馬鹿なのか?」


「資源がなくとも見栄はある馬鹿だってことなんじゃないのかな。とにかく、パンゲアが地球に接近しているマイノグーラとその配下の行く手を阻もうとしてるんだ。彼らが上位単一個体に勝てると思う? 私は思わない。ということで、恭介君と麗華ちゃんに助けてあげてほしいんだ」


「「なんで?」」


 ルーナの頼みに対し、恭介と麗華のリアクションがシンクロした。


 実際、2人が首を傾げるのは当然と言える。


 何故なら、恭介達にパンゲアを助ける理由がないからだ。


 パンゲアが高天原に停泊できたのは、ちゃんとそれなりの対価を払ったからである。


 いわばビジネスライクな関係であり、そこには権利義務以外の何物も存在しない。


「このままだと折角準備した第3回新人戦が台無しにされちゃうんだよ!? 助けてよ恭介くぅ~ん!」


「ルーナの都合じゃんか」


「そうだよ! 私の都合! だから助けて! 報酬に色を付けるからさ!」


 ルーナに縋るように頼まれ、恭介は麗華と目を見合わせる。


 頼みを聞いてあげるかどうかという相談がアイコンタクトだけでなされ、10秒で結論を出した。


「ちゃんと報酬に色を付けろよ」


「それと次から無断で忍び込んで来たら本当に摘み出すからね」


「ありがとう! それじゃ、移動してもらうね!」


 恭介と麗華から承諾を得たので、ルーナは2人を瑞穂の格納庫に転送した。


 しかも、ただ転送するだけじゃなくて戦闘服に着替えさせられていた。


「さっさと出撃しろってことらしいな」


「それだけ不味い状況みたいだね。行こう、恭介さん」


「だな。行こうか」


 恭介達はそれぞれアンチノミーとシグルドリーヴァに乗り込み、カタパルト付近に機体を動かす。


 今までに起きた話を全て把握しているらしく、ラミアスのアナウンスが恭介に届く。


『恭介さん、C206マイノグーラと戦闘だと聞きました。火力支援兵装ユニット夜明拓装デイブレイカーを使用しますか?』


「そうだな。上位単一個体相手なら使おう。発進後に夜明拓装デイブレイカーも射出してくれ」


『承知しました。進路クリア。アンチノミー、発進どうぞ!』


「明日葉恭介、アンチノミー、出るぞ!」


 カタパルトから射出され、アンチノミーが宇宙空間に飛び出してから麗華が続く。


『麗華さんも気を付けて下さい。進路クリア。シグルドリーヴァ、発進どうぞ!』


『明日葉麗華、シグルドリーヴァ、出るわよ!』


 アンチノミーに続いてシグルドリーヴァも出撃した。


 そのすぐ後に、恭介とラミアスが夜明拓装デイブレイカーと呼んだ火力支援兵装ユニットが瑞穂から射出された。


 夜明拓装デイブレイカーは一定以上のスペックを持つゴーレムならば装備できる兵装ユニットで、それは射出される際は航空戦闘機のように見える。


 しかし、予め5つの武器を登録しておくことで、その5つの武器に変形できるロマン溢れる兵装ユニットなのだ。


 アンチノミーとシグルドリーヴァの後ろに続き、夜明拓装デイブレイカーも目的地に飛んで行く。


 しばらくすると、前方の地球付近で既にマイノグーラとその配下の群れがパンゲアと交戦していた。


『恭介さん、麗華さん、C206マイノグーラの配下はC017ヘルハウンドです』


 ヘルハウンドはティンダロスの猟犬の祖先と言われており、その実力はティンダロスの猟犬の上位互換と言える。


 マイノグーラは真っ黒で蝙蝠の翼を生やしたメデューサと呼ぶべき見た目であり、業の深い男を虜にしてしまいそうな見た目をしている。


『次はマシな相手かしら? 瞬殺しちゃった雑魚モブ4匹じゃ物足りないわ』


『恭介さん、麗華さん、パンゲアは4期パイロット以外がやられたそうです。スケープゴートチケットを使われて強制帰艦させられており、すぐに復帰は不可能な程精神的に追い詰められているようです』


 (これは勿体ぶってる場合じゃなさそうだ。プラン変更だな)


「ギフト発動」


 そう唱えたことにより、恭介はアンチノミーからドライザーに乗り換えた。


 更に、航空戦闘機形態だった夜明拓装デイブレイカーがホーミングランチャー形態のビヨンドロマンに変形してドライザーの左手に握られた。


「麗華、周りのヘルハウンドを倒してくれ。俺はマイノグーラをやる」


『了解』


 1対多数の戦闘は麗華も得意だから、シグルドリーヴァの全武装で一斉掃射してヘルハウンドの群れを倒していく。


 それと同じタイミングで、恭介は夜明拓装デイブレイカーから極太の追撃するビームを連射する。


 マイノグーラは蛇の髪の目から細いビームを束ねるように放って迎撃するが、夜明拓装デイブレイカーの攻撃はただの囮だ。


 囮に注意が向いている間に、赤不動砲アチャラナータでマイノグーラの体に風穴を開ける。


『妾の体に傷をつけた? 楽しませてくれそうね!』


 すぐに体の穴が塞がり、マイノグーラの一対の翼が大量の触手に変形してドライザーを襲う。


 (触手好きだな、クトゥルフ神話の侵略者達は!)


 夜明拓装デイブレイカーをビームソード形態のプロヴィデンスに変形させ、ラストリゾートもビームソード形態に変えたことで二刀流になり、恭介はマイノグーラが伸ばして来た触手をバッサバッサと切断していく。


 切断された触手はそのまま動かなくなる訳ではなく、1ヶ所に集まってそれが大砲へと形を変える。


 今度はラストリゾートをビームキャノンに変形させ、触手の大砲が発射される前に跡形もなく消し飛ばした。


 それだけに留まらず、再び夜明拓装デイブレイカーをホーミングランチャー形態のビヨンドロマンに変形させて蛇の髪を破壊する作業に戻った。


 ドライザーは1日に最大5時間稼働させられるだけでなく、エネルギーの消費を考慮せずに戦えるから、エネルギーを多く消耗するホーミングランチャーだろうとガンガン連射できる。


「まだまだ火力は上がるぞ」


 三対の翼のビットから6本のビームを発射し、それに対処すべく背中の触手を使っているせいで正面ががら空きだから、恭介は竜鎮魂砲ドラゴンレクイエムでマイノグーラの体に2つの大きな風穴を開けた。


『おのれ! どれだけ武器を使うつもりだ! 妬ましい! 妬ましいわ!』


「ギフト発動」


 恭介に気を取られている間に、ヘルハウンドを掃討した麗華が200万ゴールドをコストに金力変換マネーイズパワーを発動し、連結した翡翠衛砲ジェイドサテライトでマイノグーラの頭上から股下までビームで貫いた。


 体に大きな穴が3つも空いた訳だが、その穴を塞いでマイノグーラは口で弧を描くように笑みを浮かべた。


『クックックッ…』


 (マジか。麗華のギフトを喰らってもまだ動けるの?)


『ハッハッハッ…』


「嘘でしょ? あんなに攻撃を受けたのにどんな体の構造なのよ」


『ハーッハッハッハ!! 痛いわ! 痛かったわ! 妾が味わった痛み、倍にして返してやるわ!』


 三段笑いをし終えたマイノグーラの目は完全にイッており、戦いは第二ラウンドに突入した。

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