第279話 謝罪する気持ちがあるなら言葉じゃなくて態度で示せ

 麗華が甘えて来るということは、ほぼ確実にルーナが余計なことを言ったのだと理解しているため、恭介は麗華を優しく抱き締めながら訊ねる。


「麗華、お疲れ様。またルーナに酷いことを言われたのか?」


「うん。金遣いの荒い奥さんを持って恭介君は大変だねぇって言われたの。私だって好きで300万ゴールドも使った訳じゃないのに」


「あの状況なら必要経費だろ。麗華が気に病む必要はない。ルーナ、出て来い」


『…私は悪くねえ! 悪くねえんだ!』


 そう言いつつも既に土下座しているあたり、この後の展開をルーナは予想できているようだ。


 予想できているなら何故同じ過ちを繰り返すのか問い詰めたいところだが、それはルーナだからという回答になってしまうだろう。


「麗華がシグルドリーヴァを使わなかったということは、おそらく縛りプレイでシグルドリーヴァ使用禁止だったはずだ。ヴォイドを相手にしてアルスマグナではスペックが足りないから、ネクサスでしか戦えなかった。属性的に不利な相手を倒すには、<金力変換マネーイズパワー>でいつも以上にゴールドをコストにする必要があった。倒し切れなかったら不味いから、少し多めに300万ゴールドをコストにした麗華を咎めるのはおかしくないか?」


『申し訳ございませんでした』


「謝罪する気持ちがあるなら言葉じゃなくて態度で示せ」


『…恭介君達の屋敷の敷地に特別な結界を展開するから許してくれないかな? 敷地内でのあらゆる攻撃ができなくなるよ。仮にしようとしたら、敷地の外にランダム強制転移するから安心できるでしょ?』


 どうすれば謝罪と判断してもらえるかと考え、ルーナは恭介と麗華の家族が安心して暮らせる手助けをすることにした。


 金銭による謝罪で納得してもらえないだろうから、恭介達の安全を保障することで謝罪の証としたのである。


「最近思うんだが、ルーナはわざと俺や麗華に怒られようとしてないか?」


『どういう意味かな? 私にそんなM気質はないんだけど』


「最終的に何を考えてるのかまではわからないけど、俺達に対する謝罪を理由にルーナが神としての力を行使してる気がする」


『…まったくもう、これだから恭介君のような賢い青年は大好物なんだよ』


 ルーナは恭介の予想を聞いて嬉しそうに微笑んだ。


 ルーナは唯一神になってなお、神々の間で定められた制約を一応守っていた。


 神が特定の相手に肩入れし過ぎるのは禁止されているから、自分がやらかしたことを理由にそのお詫びで自分の力を使うという制約の抜け穴を通すやり方をしているのだ。


 もっとも、ルーナの場合その制約を逆手にとってやりたい放題しているから、恭介達のためだけに制約の抜け穴を通している訳ではないのだが。


 とりあえず、恭介達の屋敷は安全な場所になった。


 ルーナがモニターから消えた後、恭介は麗華と気分転換するべくトレーニングルームで体を動かしてシャワーを浴びた後、昼食に丁度良い頃合いだったので食堂に向かった。


 そのタイミングで沙耶と晶も食堂に来たため、4人は一緒に食事をとることにした。


「沙耶と晶は午前に何をしてたんだ?」


「私と晶さんはレースとバトルメモリーですね。スケジュールを詰め込んだ分、いっぱい報酬も貰えてゴーレムを強化できました」


「流石に疲れたよ。でも、確かにゴーレムも武器も強くなったね」


 沙耶達の話によれば、それぞれが使用しているゴーレムや武器の強化に成功したようだ。


 レイダードレイクはリミットブレイクキットを使い、ミラージュドレイクに強化された。


 二対の翼を生やした竜人型ゴーレムであり、二対の翼がエネルギーバリアを展開するためのビットになっていることは変わらないが、尻尾の蛇腹剣がビームウィップに変わった。


 また、移動時のみ背景に同化できる迷彩機能が加わったことにより、奇襲がしやすくなった。


 機械竜形態のビームも火力が上がっており、その火力は対艦砲と言っても過言ではない。


 ユーザーパーはアノニマスウエポンとバイブレーションナイフと合成した結果、デストロイという蛇腹剣と大鎌デスサイズに加え、チェーンソーとドリルに変形できる武器に変わった。


 正に破壊するのに相応しい変形ラインナップと言えよう。


 その一方、晶のアスタロトはメランコリーアスタロトに変わっており、それに加えてサブとして使っているグローリアの武器をデュエルバヨネットに変えた。


 デュエルバヨネットは銃剣の括りにはいるが、剣にリボルバーが合体した見た目をしており、属性弾を剣先から発射できるから、晶が武器の性質上あまりしなかった近接戦闘もできるようになった。


 一方的に質問するのは良くないから、恭介と麗華もそれぞれのゴーレムの強化について話したところで昼食を終えた。


 恭介達が食堂から出て屋敷に帰ろうとしたところで、待機室パイロットルームのモニターに現れたにルーナに声をかけられた。


『間に合って良かった。まだ帰ってなかったね』


「敵襲か?」


『敵襲じゃないよ。明日の第三回新人戦に向けて、恭介君達4人に各種ゴーレムに関するレポートを書いてもらえないかなって思ってさ』


「「「「レポート?」」」」


 レポートなんて言葉を久し振りに耳にしたものだから、恭介達は訊き返すようなリアクションになった。


 元々会社員だったり大学生だったから、4人がレポートの存在を知らないはずはない。


 それでも、ここ最近はゴーレムのパイロットとして濃密な日々を過ごしていたから、2か月ぶりに聞いた単語に戸惑っただけである。


『3期パイロットは4期パイロットと付きっきりで模擬戦ばっかりしてるから、ゴーレム関連の座学があまりできてないんだよね。それで、恭介君達が今までに戦ったことのあるゴーレムについてレポートを書いてくれたら助かると思ってさ。色んなゴーレムと戦ったことがあるパイロットの目線って大事でしょ?』


「確かにな。情報はあるに越したことないか」


「代理戦争や新人戦だと出身国特有の操縦の癖とかもあるもんね」


「私は構いませんよ」


「僕も別に良いよ」


 こうしてルーナの頼みを聞き、恭介達は午後のスケジュールを変更してレポートを書くことになった。


 過去の代理戦争や新人戦、今までに挑んだコンテンツのことを思い出し、恭介達は4期パイロット達のためになる情報をまとめていく。


「日本以外に参加する国ってどこだっけ?」


「A国、C国、D国、E国、F国、IN国、R国ですよ、晶さん」


「流石はサーヤ。よく覚えてるね」


「これぐらい覚えといて下さい。いつ敵になるかわからないんですから」


 沙耶は代理戦争に参戦している国を警戒しているらしい。


 その発言を受けてルーナが沙耶に訊ねる。


『沙耶ちゃんは具体的にいつ国家間が争うことになると思ってるの?』


「クトゥルフ神話の侵略者達との戦いが収まって来たらですね。ゴーレムなんて技術がこの世界に齎された以上、各国が他国を出し抜いて世界トップの座に着こうとするでしょう。実際、日本だって私達の送った資源で国力を回復させ、独自にゴーレムを開発するようになったじゃないですか。それを他国がやらないとは考えられません」


『何故人類は争わなければならないんだろうね? 私が遺伝子を操作しちゃおうかな?』


「ルーナ、それは止めとけ。遺伝子レベルで介入されるのは気味が悪い」


 ルーナがとんでもないことを言うものだから、恭介がそれに待ったをかけた。


 恭介は余計なことはするなという意味で言ったけれど、ルーナはそれを自分に都合の良いように解釈する。


『そうだよね。私には人類の愚かさをニヤニヤしながら見て楽しむ方が似合ってるよね』


「ゲスナ、ハウス。恭介さんの言葉を都合良く解釈しないで」


『は~い』


 麗華が言外に黙れと言って来たため、これ以上のおふざけは不味いと思ってルーナは黙った。


 それからしばらくの間、待機室パイロットルームではBGMだけが聞こえる静かな状態が続いた。


 30分ぐらいで全員のペンが止まったため、ルーナが4人のレポートを自分のいる場所に転送させた。


『ふむふむ。今から珍回答の発表とかした方が良い?』


「しなくて結構。ルーナがチェックして使えると思ったところだけ4期パイロットに読ませれば良いさ。明日の新人戦まで時間がないんだから、くだらない遊びは止めとけ」


『そっかぁ。恭介君以外もそうしてほしいみたいだから、使えそうなところを4期パイロット達に読ませておくよ。時間を貰っちゃってごめんね。ありがとう』


 ルーナの頼み事が終わり、今度こそ恭介達は解散して瑞穂から各々の家に帰った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る