第275話 チッ、リア充め。爆発…はこの武装じゃ無理だな。リア充を斬り捨ててやる!
ルーナが瑞穂に調整をすることで、恭介達は
模擬戦第一試合は3期パイロットの潤と4期パイロットの田中の組み合わせだ。
潤はサブゴーレムの水属性のバハムートを使い、田中は土属性のメラクスを使用する。
『模擬戦第一試合、始め』
開始のアナウンスと同時にバハムートとメラクスが動き出す。
バハムートは腕のあるドラゴン型ゴーレムであり、両手に剣を持った攻撃的なゴーレムだ。
口からビームを放てることに加え、一対の翼はソードビットで尻尾はコーティングすることでビームウィップに早変わりする。
それに対し、メラクスは回避と防御に舵を振り切ったゴーレムだ。
属性的な相性で見ても、土属性のメラクスに水属性の攻撃は効きにくいから良い戦いになるのではないかと恭介達は見ている。
『田中さん、お待ちかねのデュエルですね』
『待ってたぜェ!! デュエルする時をよぉぉぉ!!!』
(蟹頭が帰って来た)
恭介は戦い始めた田中が以前の蟹頭のテンションに戻ったことに気づいた。
それは戦いを見守っている他の者達も同様である。
潤がバハムートの両手の剣とソードビットの合計4本の剣を使って攻撃するが、田中は可能な限り回避して避けられないものはエネルギーバリアで防ぐ。
最初の方は回避できる回数の方が多かったが、段々と田中はエネルギーバリアを使わされる回数の方が増えて来た。
潤の戦い方を見て沙耶が思ったことを口にする。
「私の
「似てるけどあれってギフト由来じゃないんだろ? 精度も沙耶の方が上だし」
「あれは田辺さんの天然ですね。勝手に敵がドツボに嵌る時の傾向に似てますけど、あれは田中さんが単純なだけかと思います」
恭介が沙耶を褒めつつ訊ねると、沙耶は一瞬だけ嬉しそうにしたけれどすぐにそれを抑えて答えた。
潤は周りが勝手に不幸な目に遭う体質らしいけれど、田中の単純さはそれと噛み合ってしまって他のパイロットよりも潤に押されているようだ。
気づいたらほとんどエネルギーバリアでしか潤の攻撃を防げない程、田中は追い詰められていた。
『田中さん、メラクスは避けタンクができるゴーレムですよね。これじゃただのタンクですよ?』
『だったら見せてやるぜ! 俺の本気ってやつをよぉぉぉ!』
潤に煽るつもりはなく、あくまで事実を伝えただけだった。
ところが、田中からすれば潤に煽られたように聞こえて頭に血が上ってしまった。
「潤さんの言葉って悪く捉えられがちだよね。今も田中がシミュレーターの中で額に血管を浮かべてるのが容易に想像できるもん」
「晶は潤さんと違って普通に煽るよな」
「まあね。それで冷静さを失ってくれるなら儲けものだし」
晶の対人戦における戦闘スタイルだと、相手をキレさせて冷静さを失わせられるように煽っている。
それに対し、潤はその気がないからある意味晶よりも悪質だ。
恭介は晶と話しつつ、この模擬戦はそろそろ終わると予想した。
その予想は当たり、潤が尻尾のビームウィップを攻撃に交えたところで田中の防御が本格的に間に合わなくなって来た。
ダメ押しでバハムートの口からビームを放てば、メラクスの胴体が撃ち抜かれて模擬戦は終了した。
『試合終了。勝者、田辺潤』
シミュレーターから模擬戦終了のアナウンスが聞こえ、潤が私室から戻って来た。
「お疲れ様です」
「ありがとうございます。田中さんは多少腕が上がりましたけど、田中さんのままでしたね。GBOの時の癖がまだ残ってましたから、サブのバハムートでも楽に戦えました」
これもただの正直な感想なのだが、田中が聞いていたらムッとさせるだろうことは間違いない。
次の模擬戦は仁志の担当だったので、仁志が私室に戻って準備をし始める。
5分もかからず、モニター上には仁志が操縦する風属性のドミニオンが現れた。
仁志の相手はオルタナティブシリーズだから、サブで使っているエインヘリヤルだと勝負にならないので、格下げしてドミニオンを使っているのだ。
それからすぐにドミニオンの正面にオルタナティブαが現れた。
まだオルタナティブシリーズは通常のゴーレムと違い、まだ属性が組み込めていないから無属性である。
オルタナティブαはロイヤルガードに似た姿になっており、ゴーレム開発プロジェクトの技術チームの成長がいかに早いか如実に物語っている。
『胸を借りるつもりで挑ませてもらうよ、仁志』
『あまり手加減させないでくれよ、博己』
『上等だ。本気にさせてやる』
『やってみな』
『模擬戦第二試合、始め』
開始のアナウンスと同時にドミニオンとオルタナティブαが動き出す。
仁志は今回、ドミニオンにビームライフルとソードブレイカーを装備させていた。
盾は大きくてドミニオンのスピードを落としかねないから、オルタナティブαの剣をソードブレイカーで防ぐか壊しつつビームライフルで攻撃するようだ。
「笛吹さん、質問しても構いませんか?」
「なんでしょう、田辺さん?」
「仁志君と博己君はGBO時代だとどちらが強かったで」
「GBO時代も今も仁志です」
食い気味にきっぱりと言い切る遥を見て、その場にいる全員が遥の身内贔屓ではないかと感じた。
実際に仁志の方が強いかもしれないが、遥の仁志に対する期待は大きいようだ。
その期待が通じたのか、一瞬だけ仁志の動きが止まった。
『おいおい、シミュレーターの不調か?』
『違う。遥が今、サラッと俺に期待をした気がしてな』
『チッ、リア充め。爆発…はこの武装じゃ無理だな。リア充を斬り捨ててやる!』
『いきなりなんだよ!? 博己なら良い相手をいくらでも見つけられるだろ!?』
博己の攻撃が激しくなり、仁志はそれを躱しながら言い返した。
博己はイケメンだから、言い寄られることも多いはずなので仁志はなんで自分が嫉妬されなければならないのかと訊ねたのである。
『一癖も二癖もある人にばっかり好かれるんだよ! 俺は普通の恋愛がしたいんだよ!』
『俺もデスゲーム中、というか新人戦の最中に告白されたけど同じ感じをご希望?』
仁志の発言を受けて博己は落ち着きを取り戻す。
『…知ってた。普通じゃないよな。うん、落ち着いた』
『…博己、次に遥に会ったら殺されるぞ。この模擬戦、瑞穂の全員が見てるから。ついでに言えば、会話の中身も丸聞こえだ』
『何卒婚約者殿にとりなしていただけないでしょうか?』
『いきなりなんだよ気持ち悪いな』
こんな会話が繰り広げられている時、瑞穂の
「博己は次に会ったら張り倒す」
(速水さん、ルーナが関わってる以上、何かしゃべる時は気を付けるべきだ。俺達にプライバシーなんてないんだから)
瑞穂クルーにプライバシーは存在しない。
それゆえ、恭介は色んなリアクションをしたくとも心の中に留めておく術を身に着けた。
うっかり発した言葉が誰に届くかわからないからである。
ルーナというゲスな女神が関与している以上、シミュレーターによる模擬戦も彼女の愉悦になるよう細工されているのだから、博己は自分を守れるように備えておくべきだった。
『頼む! 俺が勝ったら俺を助けてくれ!』
『すまん、俺は遥の味方だから』
『薄情者ぉぉぉぉぉ!』
博己が勝負に出て仁志と距離を詰めるが、仁志は博己が振り下ろした剣をソードブレイカーで防いでから折り、反撃としてビームライフルを連射して博己のオルタナティブαを撃墜した。
『試合終了。勝者、山上仁志』
シミュレーターから模擬戦終了のアナウンスが聞こえ、少ししてから仁志が私室から戻って来た。
遥は仁志を笑顔で出迎える。
「仁志、よくやったわ」
「まあね。なんか期待されてる気がしたからな」
「流石ね。昔も今も仁志の方が博己よりも強いって断言してたから、負けたらただじゃおかなかったわ」
「アハハ…」
ただじゃおかないと言った理由はそれだけではないと思ったけれど、賢い仁志はそこで余計なことを言わずに笑顔で誤魔化した。
こういう状態において、遥に何か言うよりも笑って受け流す方が正解だと仁志はわかっているのだ。
ひとまず、潤と仁志が模擬戦で勝ったから模擬戦で3期パイロットが負け越すことはなくなった。
それだけで2人はホッとしているし、遥と明日奈が負けることなんて自分達が負けることよりも想像できないからこの後はゆったりと観戦するだけである。
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