第274話 おわかりいただけただろうか

 全てのパイロットが食堂に揃い、昼食後に喋っているところで瑞穂は高天原に到着した。


 それを知らせるべくラミアスが食堂にやって来る。


「長旅お疲れ様でした。瑞穂は高天原に到着しました」


『帰って来て早々にごめんね。日本のゴーレム開発プロジェクトからお願いがあるってさ。回線繋ぐよ』


 ラミアスからのお知らせが終わったと思いきや、モニターにルーナが現れて画面が分割された。


 ルーナが映っていない方の画面には幸一が現れた。


『瑞穂クルーの皆さん、お疲れ様です。ゴーレム開発プロジェクトの三島です。皆さんに折り入ってお願いしたいことがあり、フォルフォルを通じて連絡させていただきました』


「三島さん、どういった用件でしょうか?」


 幸一に応じるのは瑞穂のリーダーである恭介だ。


 トップ同士が話すことで意思決定を早くするつもりらしい。


『実は、フォルフォルから第3回新人戦をやらないかと提案されました。参加対象は日本の4期パイロットに加え、パンゲアに新しく加わった各国の4期パイロットです』


「ルーナ、どういうつもりだ?」


 そんな話は一度も聞いていなかったから、恭介はルーナに視線をやって詳細な説明を求めた。


 3期パイロットが参加した新人戦を最後に、代理戦争や新人戦といった国同士の争いは終わったと思っていたから、何故まだ戦う必要があるのか納得できる説明を求めるのは当然だろう。


『恭介君に伝えなかったのは、4期パイロットが1~3期パイロットとは違って日本の防衛を目的とした自衛戦力だからだよ。瑞穂クルーにならない4期パイロット達について、恭介君の時間を割くのはどうかと思って私が独断で進めてるんだ』


 瑞穂は日本政府の指揮下に入っている訳ではなく、あくまで恭介をリーダーにした私設集団だ。


 特に日本から支援している訳ではなく、むしろ資源を日本に融通してもらっているという点で政府は高天原と瑞穂を日本と対等の集団としてみなしている。


 それに対して、4期パイロットは政府が民間企業を巻き込んで立ち上げたゴーレム開発プロジェクトに所属する者達だから、政府の指揮下にあると言える。


 指揮系統が別々の集団に対し、ルーナが恭介に連絡しなかったのはおかしいことではない。


「俺に話が来なかった理由は理解した。じゃあ、なんで新人戦を復活させるのか説明してくれ」


『日本もそれ以外の国も共通して、4期パイロットには危機感が欠如してるからだよ。ぬるま湯で培養された戦士は戦士になり得ない。追い詰められてこそ本気になれるんだ。君達だってそうだったでしょ? デスゲームに参加したからこそ、死にたくなくて必死に強くなったんだ。4期パイロットにはそれが足りない』


「新人戦以外にも追い詰める手段はあったんじゃないか?」


『パンゲアクルーになった4期パイロットだけどね、OJT期間でもう半分死んだよ。いや、まだ半分と言った方が良いのかな? こうなったのはいざとなったらパンゲアの3期パイロット達が助けてくれるという甘えが招いた結果だよ。映像として記録してるから、まずはこれを見てほしい』


 そう言ってルーナが映っている画面の方には、パンゲアクルーになった4期パイロットが宇宙で3期パイロットとクトゥルフ神話の侵略者達の戦闘を見学していた時の映像が流された。


 3期から離れてパンゲアの近くで戦闘を見学していたにもかかわらず、発狂して死んだ者もいれば雑魚モブに弱点だと判断されて遠くから狙い撃ちされた者が複数いた。


『おわかりいただけただろうか』


「これは酷いな。準備が全然できてない」


『でしょ? 4期パイロットが私やブライトの制止の言葉を振り切って宇宙に飛び出したと思ったらこのざまさ。ギフトレベルが20にならないと雑魚モブ相手だって満足にできないってのに準備を怠る馬鹿共がいるのはとても嘆かわしいことだよ』


 恭介達はルーナの話を聞き、パンゲアクルーになった4期パイロットが無謀で見通しの甘い者達だと理解した。


 彼等に必死さが足りないというのは納得できる話である。


「パンゲアクルーの方は理解した。日本の4期パイロットについてはどうなんだ? 別にクトゥルフ神話の侵略者達と戦おうとしてる訳でもないだろ? 彼等こそじっくり育てるべきじゃないのか?」


『日本の4期パイロットはね、オルタナティブシリーズのテスト以外は私が監修したシミュレーターで鍛えてもらってるんだけど、模擬戦でしか戦闘を経験できてない。シミュレーターでの戦闘を軽く見てる訳じゃないけど、それでも追い込めてるとは言い難いよ』


 ルーナの言い分はもっともだ。


 いくらでもリトライ可能な模擬戦ばかりやっていては、いつになっても危機感が醸成されない。


 模擬戦とはあくまで本番のための戦いであり、本番までの時間が開けば開く程本気度が薄れてしまうだろう。


「いきなり人を殺せって言うのは難しくないか? 俺達だってデスゲームの状況下じゃなきゃ無理だったぞ?」


『それでも、各国の政府は第3回新人戦の開催を承諾したよ。参加すれば資源が手に入るからってむしろいつ開くんだって前のめりだったね』


「おいおい、正気か?」


『日本の持木首相は最後まで渋ってたんだけどね。ゴーレム開発プロジェクトの主要メンバーに相談し、嫌なら断ると言ったけどプロジェクト側がやると言ったから首を縦に振ったんだ』


 そこまで説明を聞いたら、恭介は再び幸一の方を向いた。


 どういう意図があって参加することにしたのか訊いておくべきと判断したのだ。


『私達も進んで人殺しをしたい訳じゃありません。ただ、瑞穂クルーの皆さんだけが手を血で染めるのは違うんじゃないかと思いました。私達は巣で餌を恵んでもらうだけの雛鳥のままで良いはずがない。戦える力が用意されつつある今、自分達も立ち上がって皆さんと同じ所に立ちたいんです』


「厳しい道のりですよ?」


『プロジェクトメンバー全員が覚悟しております。それで、第3回新人戦に向けて皆さんにお願いしたいことがあって連絡を取らせていただきました』


 背景の説明が終わり、冒頭の話に戻って来た。


 事情がわかっている今、恭介達は願いの内容によっては聞き入れるつもりになっていた。


「その願い事とはなんでしょう?」


『4期パイロットとシミュレーターを通じて模擬戦をお願いします。暗黒惑星ゾス侵攻作戦が終わってすぐに皆さんに日本へ帰って来てもらう訳にもいきませんので、できればシミュレーターで我々を鍛えてほしいのです』


「新人戦は何時開催ですか?」


『明後日です』


 (随分と急だな)


 じろりとルーナの方を見れば、恭介の視線から目を背けたルーナが口笛を吹いて誤魔化した。


 無駄に上手い口笛なのが余計に恭介をイライラさせたが、今更決まったことをぐちぐち言っても仕方がないから恭介は気持ちを切り替える。


「わかりました。準備が整い次第模擬戦を始めましょう。4期パイロットは誰ですか?」


「速水、田中、あと前回紹介できなかった者が2名です」


『田中は特別に4期枠として私がねじ込んでおいたよ。3期でもなければ4期でもないって立場だとかわいそうでしょ? 私的にはそれでも一向に構わなかったんだけど、私の分体が田中を玩具にし過ぎてるからバランスを取らないといけないんだ』


 (ルーナの分体が田中を玩具にしてるってどゆこと?)


 恭介はルーナ達の専用掲示板で田中がどんな扱いをされているか知らないから、ルーナの補足で田中が玩具と呼ばれたことに疑問を抱いた。


 そうだとしても、田中が4期であることに得はあっても損がないから気にしないことにした。


「残り2人はGBOのパイロットですか?」


「その通りです。パイロット名はカルマサビ@トゥモローファンクラブとコンビニマン@午後十時騎士団です」


 カルマサビ@トゥモローファンクラブという言葉が出た瞬間、恭介は心の中で唸った。


 非公認のファンクラブ会員は明日奈というヤバい奴がいるから、カルマサビ@トゥモローファンクラブも同様にヤバい奴だったら嫌だなんて思ったのである。


 とりあえず、模擬戦の形式について話し合った結果、最初に4期パイロットと模擬戦で対戦するのは3期パイロットの4人に決まった。


 3期パイロットがメインで使っている機体で戦うと勝負にならないから、使用できる機体についても制限を設けたところで打ち合わせは終わった。

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