第272話 まだ人間らしい感情が残ってたのね。意外だわ

 恭介が帰って来てすぐに、4機目のベースゴーレムを土属性のベルフェゴールに変えた。


 その作業に対した時間はかからなかったから、恭介はすぐにベルフェゴールのコックピットから出て来た。


「恭介さん、お疲れ様。4機目はベルフェゴールなんだね」


「ありがとう。さっきのレースで手に入ったのがベルフェゴールだったんだ。ここからまた強化してくよ」


「そっか。でも、恭介さんはこれでドライザーに乗らなくても全属性のゴーレムに乗れるようになったんだね」


 麗華がそのように言うと、恭介は麗華の耳に口を近づけて喋る。


「ああ。あまり大きな声では言わないが、ギフトレベルが上限に到達した今、ドライザーを使い過ぎると俺が人から神になっちゃうらしい。それをルーナは阻止したいそうだ」


「恭介さんが神? なんの神?」


「時空神だとさ。本当かどうかわかったもんじゃないが、ルーナは今の自分が唯一神である状態を維持したいみたいだ。それで4機目のベースゴーレムが用意されたんじゃないかと思ってる」


「そうなんだ…。とりあえず、私もレースに挑んで来るね」


「おう。気をつけてな」


 恭介に見送られ、麗華はヴォイドに乗ってレース会場にやって来た。


 その瞬間、モニターにルーナが映ったのを確認するや否や麗華は訊ねる。


「ルーナ、正直に答えなさい。恭介さんはあと何回ドライザーに乗ったら時空神になっちゃうの?」


『現時点ではあと5回かな。ただ、恭介君は時空の力と相性が良いらしくて、黒竜人機ドライザーを使わなくても少しずつだけど時空神に近づいてる。だから、時が経つにつれて人間のまま黒竜人機ドライザーを使える回数は減るかもしれない』


「時空神になることのメリットとデメリットは?」


『メリットは時間と空間を操れるようになることと、寿命が私みたいに果てしなく伸びるね。デメリットとしては、麗華ちゃんが人間のままだと確実に恭介君より先に死んでしまうから寂しい思いをするってことかな』


「大問題じゃないの。私が神になるか恭介さんの変化を止めるかしないと恭介さんに悲しい思いをさせちゃうわ」


 恭介が神になれるなら、自分だって条件を満たせば神になれると考えて麗華はそのように言った。


 それに対してルーナは困った表情になる。


『麗華ちゃんはギフトレベルが43か。神になるには先が長そうだね』


「ルーナが私に縛りプレイなんて設けるから尚更ね」


『…わかった。麗華ちゃんの報酬上乗せ条件を変えるよ。2周走り終わるまでに全員を周回遅れにして。それが条件になるから自由に攻撃して良いよ』


「どういうつもり? 唯一神のままでいたかったんじゃないの?」


 ルーナが譲歩するものだから、麗華は一体何の目的があってそうするのかと訊ねた。


 恭介が神にならないようにしたいならば、違う解決策を提示するべきなのに麗華が神になる手伝いをしようとしているのだから、麗華が訊ねるのも当然だ。


『私だけが神という状態の方がちやほやされると思うから続けたいけど、残念ながら瑞穂の今の戦力だと今後の戦いで恭介君が黒竜人機ドライザーを使う可能性は高い。だから、正直私は恭介君が時空神になっちゃうと思ってる。それで麗華ちゃんが神になれずに死んでごらんよ。私は永遠に恭介君に恨まれ続けるんだ。そんなの嫌だもん。それなら麗華ちゃんも神の領域に入ってもらう方が良い』


「私にとっては都合が良いけど、ルーナってやけに恭介さんを恐れてるよね。なんで?」


 麗華の質問を受けてルーナは少し考えてから口を開く。


『人間だった頃、よく私を叱って来た幼馴染に似てるからかな。勿論、外見は全然違うけど、性格というか内なる部分が似てるんだ。ついでに言えば、恭介君のお母様も似てるから怖いね』


「まだ人間らしい感情が残ってたのね。意外だわ」


『麗華ちゃんは一体私をなんだと思ってるのかな?』


「ゲスで利己的な駄女神」


『辛辣辛辣ゥ! ほら、さっさと入場門をくぐってミッドナイトパークでレースしておいで!』


 思ったよりも自分にグサっと刺さる評価を口にされ、ルーナはこれ以上傷口が広がる前にミッドナイトパークに繋がる入場門を開いた。


 開かれた入場門をくぐり、麗華は各種デーモンが邪魔者として登場するミッドナイトパークにやって来た。


 ミッドナイトパークのスタート地点には既に7機のゴーレムが位置に着いており、シグルドリーヴァが位置に着くのを待っている。


 1位の位置から順番に風属性のグローリア、水属性のパラノイア、土属性のドミネーター、火属性のアザゼル、風属性のリフレイン、水属性のバーストゴリアテ、土属性のジグザグライカンが並ぶ。


 見覚えのあるゴーレムもあるが、どのゴーレムもヴォイドのスペックより下だと判断し、麗華は8位の位置に着いた。


『3,2,1,GO!』


 開始の合図と共に、ヴォイドが信号をオンにすることでヴォイド以外のゴーレムがまともに操縦できなくなり、麗華はスタートダッシュを決めながらインジャスティスをガトリングガンに変形させて発射した。


 それにより、グローリアとドミネーター、アザゼル、リフレインの4機をスタートで撃墜させた。


『これじゃ瑞穂のスナイプクイーンじゃなくて瑞穂のクルーエルクイーンだね』


「煩い。ハウス」


『クゥーン…』


 ルーナの哀愁漂う犬の泣き真似が以前よりも上手くなっているが、麗華はそれがどうしたと言わんばかりにスルーした。


 ヴォイドからゴーレムチェンジャーでシグルドリーヴァに乗り換え、前方から押し寄せて来る群体のハザードゾンビアーミーを麗華はあっさりと追い越していく。


 ハザードゾンビアーミーが通常のクラッカーから絶対に鳴らないような絶叫によく似た音を出すが、麗華はそれを無視してどんどん先に進んで行く。


 クラッカーの音に釣られて別のハザードゾンビアーミーも近寄って来るけれど、そのハザードゾンビアーミーのクラッカーもなった時には麗華のシグルドリーヴァが通過しており、麗華の後方は常に騒々しくなる。


 1周目が終わったところでピエロ要素の入った警備兵という見た目のクラウンボマーが現れた。


 背負ったタンクからピエロ印の爆弾を取り出しては投げるのを繰り返し、レースに参加するゴーレムもハザードゾンビアーミーも関係なく倒そうとする。


 クラウンボマーの動作はそこまで素早くなかったから、シグルドリーヴァはクラウンボマーが投げて来る爆弾にわざわざ避けずとも全く当たらない。


 2周目も半分を過ぎる所で、パラノイアとバーストゴリアテが全身ボロボロの状態で転がっていた。


 どうやら派手にやり合っていたところを、ハザードゾンビアーミーとクラウンボマーに挟まれてやられてしまったようだ。


 (あと半周でジグザグライカンに追いつかなきゃ!)


 そう思った麗華は前方の離れた位置に小さくジグザグライカンの姿を見つけた。


「ギフト発動」


 200万ゴールドをコストに金力変換マネーイズパワーを発動し、麗華は連結した翡翠衛砲ジェイドサテライトでジグザグライカンを狙撃した。


 極太のビームが四足歩行で走るジグザグライカンの膝から下を撃ち抜き、ジグザグライカンは走って先に進めなくなった。


 それが麗華の3周目に入る手前の位置だったから、麗華はギリギリ報酬上乗せ条件を満たした状態で3周目に突入できた。


 今度はメリーゴーランドの馬に乗る兵隊の人形がガトリングガンを放ち、ジェットコースターに乗っている人形から爆弾が投げられ、お金を入れて動くパンダのアトラクションはゴーレムに特攻を仕掛け始めた。


 そうだとしても、麗華はシグルドリーヴァを巧みに操縦してそれらの妨害を全て躱し、被弾することなくそのまま1位でゴールした。


『ゴォォォル! 優勝は瑞穂のスナイプクイーン、福神漬け&シグルドリーヴァだぁぁぁぁぁ!』


 麗華はミッドナイトパークを速やかに脱出し、モニターに映し出されたレーススコアをチェックする。



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レーススコア(ソロプレイ・ミッドナイトパーク)

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走行タイム:37分27秒

障害物接触数:0回

モンスター接触数:0回

攻撃回数:5回

他パイロット周回遅れ人数:7人

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総合評価:S

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報酬:資源カード(食料)100×10枚

   資源カード(素材)100×10枚

   100万ゴールド

ぶっちぎりボーナス:ベースゴーレム

超ぶっちぎりボーナス:パラノイアの設計図

デイリークエストボーナス:100万ゴールド

ギフト:金力変換マネーイズパワーLv44(up)

コメント:残骸換金サルベージすれば儲けも出たのに勿体ない

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 (ジグザグライカンの足止めを優先したら、残骸換金サルベージができなかっただけよ)


 ルーナのコメントを見て麗華はムッとした表情になった。


 それはそれとして、麗華も4機目のベースゴーレムを手に入れたから、恭介に並べたと気分を良くして瑞穂の格納庫に帰還した。

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