第267話 舐めプしたまま力尽きてくれても良かったんだがね

 瑞穂の待機室パイロットルームでは、第一小隊と第二小隊が順調に6体の単一個体を倒したところを確認していた。


「順調ですね」


「そうだな。このまま進めば良いんだが」


「…すみません、フラグを立ててしまったようです。瑞穂に接近する敵性反応があります。C006ビヤーキーの大群が暗黒惑星ゾスと正反対の方向から接近中です」


 ラミアスが申し訳なさそうに言えば、恭介はそれを咎めたりしなかった。


「そういうこともあるさ。俺と麗華で出る」


「任せて」


「承知しました。お願いします」


 恭介と麗華は格納庫に移動し、それぞれアンチノミーとヴォイドに乗り込んだ。


 カタパルト付近まで恭介達が各々のゴーレムを移動させ、アンチノミーがその上に乗るとラミアスのアナウンスが入る。


『進路クリア。アンチノミー、発進どうぞ!』


「明日葉恭介、アンチノミー、出るぞ!」


 カタパルトから射出され、アンチノミーが瑞穂の外の宇宙空間に飛び出した。


『進路クリア。ヴォイド、発進どうぞ!』


麗華、ヴォイド、出るわよ!』


 明日葉と名乗れてご機嫌な麗華もヴォイドで宇宙空間に飛び出し、恭介のアンチノミーの隣に追いついた。


 ビヤーキーの大群は統率がきっちり取れており、その大群が巨大なビヤーキーを模っていた。


『『『…『『いあ! いあ! はすたあ! はすたあ くふあやく ぶるぐとむ ぶぐとらぐるん ぶるぐとむ あい! あい! はすたあ!』』…』』』


 ビヤーキーの大群から恭介達の頭にその言葉が聞こえた直後、巨大なビヤーキーを模ったビヤーキーの大群がもう1つ現れた。


 (このまま放置してたらどんどん増えてくんじゃないか?)


 恭介が思っているのと同様に麗華もこのままでは不味いと思ったらしく、ヴォイドの信号をオンにしてビヤーキーの動きを封じる。


「グッジョブだ麗華」


『ごめん、数が多過ぎて攻撃には参加できないかも』


『問題ない。そのまま足止めに徹してくれ。奴等は俺が討つ』


 麗華が足止めしてくれている間に、恭介はビヨンドロマンをホーミングランチャーに変形させて発射する。


 消費の激しいホーミングランチャー形態だが、敵の数が多くて密集しているならコストパフォーマンスもそこそこ良い。


 2連続で発射すれば、2体の巨大なビヤーキーを模っていたビヤーキーの大群の殲滅が完了した。


 その時、恭介達の正面の空間が歪んだ。


『恭介さん、麗華さん、緊急事態です! C205ハスターが急接近しております!』


 ラミアスの警告を受け、恭介は腰の両側にある4つのビットを飛ばして正面の空間の歪みにビームを放った。


 ところが、4本のビームは濃密な風のバリアと相殺されてしまい、空間の歪みからくすんだ黄緑色の襤褸布を被った人型生命体が現れた。


『ほう、驚いた。まさかこの私の力を相殺できる者がいるとはね』


「宇宙は広いからな。そういう奴だっているさ」


『どうやらそうらしい。忌々しいクトゥルフが消えたと聞いて、奴の母星を乗っ取りに来てみれば思わぬ強者と鉢合わせしたようだ』


「強者認定どうも」


 恭介がハスターと喋っている間、麗華はヴォイドの信号をオンにしてハスターの動きを止めようとする。


 それに気づいたハスターが不快感を示す。


『この私をその程度の力で防げると思うな!』


 ハスターの怒声と共に暴風が発生してそれがヴォイドを襲うが、そこに恭介が割り込んでもう一度ホーミングランチャー形態のビヨンドロマンから極太ビームを発射した。


 暴風が蹴散らして極太ビームがハスターに命中し、それによって黄緑色の襤褸布が消失して人型だったハスターが全身触手で構成された緑色で二足歩行の大蜥蜴に変わった。


『見事だ。見事だよ勇敢なる小さき者よ。この姿に戻ったのは何時ぶりだろうか』


「舐めプしたまま力尽きてくれても良かったんだがね」


『そういう訳にはいかないさ。強者には強者への礼節をもって対峙するのが私のポリシーだ。ついでに言えば、君を倒した後にその頭に穴を開けて脳を吸い取るまでがワンセットだがね』


『そんなことさせない!』


 麗華はネクサスに乗り換え、自分のことを視界に入れないハスターに対して追憶砲レミニセンスを発射した。


 全身が触手のハスターだから、すぐに攻撃されたことに気づいて触手を編み込んだ壁を創り出したが、属性の相性が悪くて追憶砲レミニセンスを防ぎ切れず、壁を壊されてダメージを負った。


『…姑息な手を使うだけの小者かと思ったが、その評価は上方修正しようじゃないか。よろしい、君達の脳味噌をいただこう』


「嫌に決まってんだろうが」


『冗談じゃないわ』


 ハスターの全身から暴風を纏った触手が伸びて来て、それがアンチノミーとネクサスを壊そうと鞭のように振るわれるが、恭介はそれをひらひらと躱し、麗華は盾形態のパラダイスロストで防ぐ。


 (さっさとギフトを使って倒そうって、おい)


 恭介が黒竜人機ドライザーを使おうとした時、モニターにルーナが恭介君専用縛りプレイチャレンジ中の文字を映し出した。


「どういうことだルーナ?」


『どうにもこの戦いは仕組まれたものっぽい気配がする。多分、クトゥルフとハスターの関係を利用した黒幕が恭介君達の情報を集めるためにハスターをここに誘導したんだ。だから、恭介君にはギフトなしで戦ってほしい。ハスターとの相性を考えればできるはずだよ』


「…報酬はちゃんと上乗せしろよ」


『勿論さ』


 ルーナが自分を虐めるために黒竜人機ドライザーを使わせない訳ではないとわかったため、恭介は予定を変更してアンチノミーのままハスターと戦うことにした。


 ドライザーに乗らなくとも、アンチノミーには戦えるだけの性能があるのは事実だから、恭介はビヨンドロマンを斬馬刀に変えて触手をバッサバッサと切断する。


 切断した触手は流石のハスターも操れないようだが、切断面から触手が再生しているので恭介と麗華の集中力切れが先か、ハスターの再生力切れが先かという勝負になっている。


『単純な攻撃では物足りなさそうだな。ならば、これでどうだ?』


 ハスターの触手を覆う暴風が消え、その代わりに全ての触手の先端から極細の風属性のビームが発射されるようになった。


 恭介は再びビヨンドロマンをホーミングランチャー形態に変形させ、極太のビームを連射した。


 火属性なら風属性のビームに打ち勝てるという考えに加え、火力面でもホーミングランチャーの方が上だからハスターの触手が放つビームを飲み込んでいく。


 (今度はこちらの番だ)


 無数の触手のビームがなくなった瞬間を狙い、恭介は全武装でハスターを攻撃する。


 天使の一対の翼のビームブーメランと悪魔の一対の翼の蛇腹剣が触手を根本から切断し、剥き出しになった部位を4つのビットからビームを撃って攻撃すれば、ハスターの表情が痛みに歪んだ。


『おのれ、よくも!』


 恭介がヘイトをたっぷり稼いでいる間に、麗華が屑再利用リサイクルで周辺に散ったハスターの触手で特大のロープに作り替え、それを残骸換金サルベージで換金する。


 視界に邪魔なものが映らなくなり、恭介はあと少し時間を稼げば勝てると判断してダメ押しのホーミングランチャーを連射した。


『私をここまで追い詰めるとは大した奴だ! だがここまでだ!』


 ハスターの全身の触手が束になって高火力のビームを発射する。


「力比べでは負けない!」


 存在理砲レゾンテートルを放ち、ビームとビームの押し合いが始まった。


 だがちょっと待ってほしい。


 ハスターは恭介がここまで体を張っていた理由を考えられていない。


『ギフト発動』


 麗華は200万ゴールドをコストに強力な一撃をパラダイスロストから発射した。


 そして、パラダイスロストには今までに吸収したダメージで攻撃が強化される性能を有している。


 結果として、極太の火属性のビームがハスターの胴体に巨大な風穴を開け、その直後にハスターが爆発した。


『おめでとうございます! ハスターの討伐が完了しました! 瑞穂周辺に敵性反応はありませんので帰艦して下さい!』


「「了解」」


 恭介と麗華が格納庫に着いたところで、それぞれのゴーレムのコックピットにバトルスコアが表示される。



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バトルスコア(VSクトゥルフ神話)

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出動時間:39分58秒

撃破数:ビヤーキー200体

    ハスター1体

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総合評価:S

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報酬:資源カード(食料)100×20枚

   資源カード(素材)100×20枚

   200万ゴールド

ファーストキルボーナス:火力支援兵装ユニット夜明拓装デイブレイカー

ノーダメージボーナス:魔石4種セット×100

ギフト:黒竜人機ドライザーLv50(stay)

コメント:派生能力も使わないでくれたから日本にも15枚ずつカードを送っといたよ

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 (75%も日本送られたのか。夜明拓装デイブレイカーもそうだけど大盤振る舞いだ)


 火力支援兵装ユニットという外付け兵器はゴーレムのどれかに専用の物として与えられた訳でなく、どのゴーレムにも使えると知って恭介は今回の戦いの報酬を大盤振る舞いだと判断した。


 これなら黒竜人機ドライザーを使わないで戦った甲斐があったと満足していた時、瑞穂にコンダクターとタイラントドレイク、ダビデが転送されて来た。

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