第266話 ノータイムで納得するのはどうなの?
第一小隊と別れた後、第二小隊を率いる晶は敵が現れなくて仁志から質問を受けていた。
『晶さんって筧さんのことを好きなんですか?』
「ほう、暇さえあれば恋愛トークとはリア充は違うね」
『適度な雑談は大事ですよ。緊張でガチガチにならないように付き合って下さい』
『仁志、作戦中でしょ? 気になるなら帰ってから私もいる所で訊けば良いじゃない』
(笛吹さんも興味あるのね。長引くと面倒だからサクッと終わらせよう)
古来より多数決というものは厄介なもので、絶対的な力を持っていない限りマイノリティは多数決の結果は覆せない。
別に隠す程自分は子供ではないから、ずるずると引っ張って今よりも面倒なことにならないように晶は仁志の質問に答えることにした。
「好きだね」
『はっきり言い切るんですね。正直、適当に流されると思ってたんですが』
「無駄な労力をかけたくないんだよ。それに、サーヤには僕が好きだってバレてるし」
『そんなところまで進んでたとは意外です。小隊長は沙耶さんのどこがお好きなんですか?』
恋バナをし始めたら、窘める側だったはずの遥まで話に乗って来た。
ここでクトゥルフ神話の侵略者達が見つかってくれと願う晶だったが、残念ながらラミアスからそのアナウンスは来なかった。
「僕と違ってしっかりしてるところかな」
『『確かに』』
「ノータイムで納得するのはどうなの?」
他人に流されたりその場のノリで動くことがあると自覚しているものの、考えることもなくあっさりと納得されて晶は傷ついた。
『失礼しました。小隊長は沙耶さんに告白しないんですか?』
「後でとか言ってた割に笛吹さんもグイグイ質問するね。軽く告白っぽいこともしたけど、恭介君みたいにしっかりしたら考えるって言われたかな。だから、今は準備期間みたいな感じだね」
『比較対象が恭介さんか。それは晶さんにとって厳しい戦いですね』
「だよねー。まあ、嫉妬する気持ちも起きないぐらい恭介君はすごいからね。僕はコツコツと信頼を積み上げることに専念してる訳よ」
そんな風に話していると、ラミアスから第二小隊の3人にアナウンスが届く。
『第二小隊の皆さん、進行方向に敵です。C128イスタシャとC129リサリアの姉妹がC130イオドと戦っています』
(アナウンスをくれるならもう少し早く欲しかったなぁ)
わざわざ隠す程のものではないとはいえ、自分から話すことでもない恋バナに掴まっていたため、晶はちょっとだけラミアスのタイミングの悪さに小言を言いたくなった。
それが自分の都合であることは理解しているため、晶はすぐに気持ちを切り替えた。
「ラミアス、どちらかに加勢してから残った方を倒すのと各個撃破のどちらが楽?」
『各個撃破ですね。敵の敵は味方なんて言葉もありますが、クトゥルフ神話の侵略者達に背中を預けるなんてリスクしかありません。安全性を取れば各個撃破一択です』
「わかった。ということで、仁志さんと笛吹さんはイスタシャとリサリアの姉妹をやっちゃって。僕はイオドを倒すから」
『『了解』』
ラミアスの意見を聞き、沙耶はすぐに誰がどの侵略者と戦うのか決めた。
イスタシャとリサリアはホラーゲームに出て来る女主人と呼ぶべき見た目の姉妹であり、特徴的なのは猫獣人によくある猫耳と猫尻尾である。
猫耳と猫尻尾があれば可愛いと思う者もいるかもしれないが、顔がホラーゲームに出て来る人を騙す敵に似ており、意地の悪さが表に出てしまっているから可愛いとは思えないだろう。
武器らしい武器は持っていないが、イオドと戦っている時は魔法らしき攻撃手段を使っていた。
姉妹の敵が連係プレーをしないとも限らないから、晶はカップルの仁志と遥にイスタシャとリサリアの相手を任せた。
イオドは巨大な複眼とロープ状の触手を持ち、肉体は粘液塗れの鱗に覆われ脈動する強い光を発している巨大な蠅のようであり、近づきたいと思う者はよっぽどの変人と言えよう。
それでも、晶は遠距離からの攻撃手段を有しているから、自分が引き受けるべきだろうと判断した。
アスタロトならばイオドが近づこうとしても、機体の効果で近付こうとすればするだけその速度が遅くなるから躱せるという点でも適任である。
(まずは粘液を吹き飛ばさないとね)
晶はイオドの粘液を吹き飛ばすべく、カタルシスからペリュトン爆弾を発射した。
イオドは触手でそれを弾こうとしたけれど、ペリュトン爆弾は幽体だから触れることができずに空振りする。
触手を通過したペリュトン爆弾が鱗の前で起爆し、その爆発でイオドの粘液が周囲に散らばった。
「うん、これはグロいね」
粘液が吹き飛ぶどころかぶよぶよした肉が見えたため、晶はこんなもの見ていられないと思ってカタルシスからミサイルを発射した。
アスタロトの展開する空間のおかげでミサイルは加速した状態で発射されるから、イオドは今度こそ触手で弾こうとしたもののタイミングを誤って空振りした。
傷口に塩を塗り込むだけでも十分痛いのに、そこにミサイルなんて命中すればただじゃすまないのは当然のことで、イオドはその時点で体半分を失った。
その時、失われたイオドの部位が残っている部位から光る怪しげな鉱石によって再生した。
それだけでなく、鉱石で再生した鱗を棘のように発射して晶に反撃し始める。
「残念だけど当たらないんだよね」
晶の言う通りで、棘はアスタロトに近づけば近づく程その動きが遅くなり、晶はそれらを簡単に躱した。
今までの2回の攻撃では火力が足りなかったと判断し、晶はカタルシスの中では最も高火力な極太のビームを発射した。
触手で防ごうにも一瞬で破壊され、そのビームが体に到達した直後にイオドは爆散した。
最初は邪魔な粘液を外す頭を使ったやり方だったが、最終的には高火力によるごり押しでイオドを倒したため、晶はもう少しスマートに勝てたかもしれないと感じた。
しかし、今は反省するよりも先に仁志と遥の説教を確認すべきだと気持ちを切り替え、戦闘音が響く方向を見た。
イスタシャとリサリアは最初見た時の形態と異なり、双頭二尾の巨大化け猫になっていた。
(追い詰めたら姉妹が合体しちゃったパターンかな)
その化け猫はボロボロであり、それ以外にイスタシャとリサリアらしい存在はいなかったから、晶はそんな風に考えた。
『ふん、私達が一緒になればお前の面妖な力なんて無効化できるわ』
『私達姉妹の力に勝てると思ったか、馬鹿め』
『粋がるわりには満身創痍じゃないか。思ってたより大したことないな』
『『ぶっ殺す!』』
煽り耐性が低いらしく、イスタシャとリサリアが怒って魔法を発射しようとした時に遥が死角から発射した
それによって左前脚の付け根を撃ち抜かれ、その痛みで魔法がキャンセルされた。
魔法が失敗した状態でその場に留まると狙われるから、イスタシャとリサリアは慌てて移動したのだが、ここで
イスタシャとリサリアが移動した先には、先程晶が吹き飛ばしたイオドの粘液が飛び散っており、それでイスタシャとリサリアはツルッと足を滑らせて転んでしまったのだ。
『まずは片方いただく』
敵が転んだ時には仁志が距離を詰めており、剣に変形させたタクトオブフィクサーでイスタシャの頭を切断した。
『イスタシャァァァ!』
『私を忘れないでほしいわね』
リサリアが姉を殺されて叫んでいると、遥が機械竜形態に変形させたタイラントドレイクのビームでリサリアの頭を消し飛ばした。
これでイスタシャもリサリアも力尽きたため、仁志と遥が割り振られた敵との戦いは終わった。
「お疲れ様。ちょっとだけ手こずってたね」
『タクトオブフィクサーで操って楽をしようと思ったんですが、イスタシャとリサリアがすぐにお互いを正気に戻して挙句の果てには合体までしましたから、結局楽をできませんでした』
『小隊長がイオドの粘液をぶちまけてくれたおかげで、決定的な隙が作れました。ありがとうございました』
「ただの偶然だけどお礼は受け取っておくよ。さあ、次に行くよ、次」
『『了解!』』
多少時間がかかったものの、第二小隊も順調に暗黒惑星ゾスの単一個体を倒して戦力を削れているから、今のところ侵攻作戦は順調と言って良いだろう。
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