第265話 我が覇道の邪魔をするか、ヒューマン
瑞穂から出撃した沙耶達はシャンの群れとの戦闘に入っていた。
「邪魔ですね。排除します」
『笛吹さんも頼める?』
『了解しました』
沙耶が迎撃すると宣言すると、晶が遥にも同じように対応してくれと頼んだ。
それにより、沙耶と遥はレイダードレイクとタイラントドレイクを機械竜形態に変形させ、その口からビームを発射してシャンの群れを薙ぎ払った。
『汚ねえ花火だ』
「晶さん、ネタに走ってないで作戦に集中して下さい」
『はーい』
晶がシャンの群れの撃墜される様子を見てネタに走るから、沙耶が冷静にツッコんで軌道修正した。
それから、第一小隊と第二小隊は暗黒惑星ゾスに到着したのだが、その瞬間から沙耶達の頭にたくさんの声が流れ込み始める。
『殺せ! 殺せ! 殺せ!』
『待ってたぜぇ! 下剋上できる時をよぉ!』
『暗黒惑星ゾスは朕のものである。卑しき者共、朕にひれ伏せ』
『むしゃくしゃする。何もかもぶち壊して静かにしよう』
(頭に直接好戦的な感情をぶつけて来るとは厄介ですね)
沙耶はギフトレベルが39だからどうにかなっているが、3期パイロットはギフトレベル30になったばかりだ。
ギフトから派生した力を会得すれば、クトゥルフ神話の侵略者達の精神干渉にもある程度耐えられることはわかっているけれど、それでも不安がないと言えば嘘になる。
「第一小隊、無事ですか?」
『異常ありません』
『無事です』
『第二小隊は平気?』
『大丈夫です』
『問題ありません』
沙耶と晶が小隊長として確認した後、各小隊のメンバーが無事であることを報告した。
どちらの小隊メンバーも以上がなかったから、侵攻作戦は次のフェーズに移る。
これからは第一小隊と第二小隊が二手に分かれ、暗黒惑星ゾスにいるクトゥルフ神話の侵略者達を駆逐するフェーズに入るのだ。
沙耶は明日奈と潤を引き連れ、暗黒惑星ゾスを西から攻めていく。
『第一小隊の皆さん、進行方向に敵です。C125チャウグナー・フォーンとC126キノトグリス、C127オトゥームが三つ巴の戦いを行っています』
「本当に戦国時代のようですね。一人一殺で構いませんね?」
『勿論です』
『わかりました』
沙耶の提示した方針に明日奈と潤は頷いた。
少し進んだ所では、ラミアスが伝えた通りにチャウグナー・フォーンとキノトグリス、オトゥームが戦っていた。
チャウグナー・フォーンは象の顔に水かきのように広がった耳、水晶の如く透き通った牙が生え丸々と太った体型が特徴であり、象の鼻は細い部分で直径30cmで朝顔の形に広がっており、これで獲物の血を吸うとされている。
キノトグリスはジャイアントスライムのような物体から右腕を生やした見た目であり、その腕に掴まれると有機物も無機物も機能が停止してしまうらしい。
オトゥームは小型クトゥルフが触手を剣に変えたような外見をしており、クトゥルフの騎士なんて別名があることから、クトゥルフの生まれた星の治安を乱すチャウグナー・フォーンとキノトグリスの戦いを終わらせに来たと見て良いだろう。
「私がチャウグナー・フォーンをやります。キノトグリスは田辺さんが、オトゥームは等々力さんが担当して下さい」
『『了解』』
第一小隊内で戦う敵の振り分けを素早く決めた後、沙耶はデフォルトの形態に戻ったレイダードレイクでチャウグナー・フォーンに対し、尻尾の蛇腹剣で攻撃を始める。
『我が覇道の邪魔をするか、ヒューマン』
「覇道を進んで良いのは兄さんだけです」
『何を言うか。覇道は我にあり』
「…晶さんあたりなら上手い返しができたでしょうね」
恭介が覇道を進みたがるキャラではないが、恭介なら覇道を進んでもおかしくないし自分はついていくつもりがあるから、チャウグナー・フォーンの発言に沙耶は待ったをかけた。
ところが、チャウグナー・フォーンはその発言に更に返して来るものだから、こういう時に晶なら相手の冷静さを失わせるレスバができたのにと呟いた。
ないものねだりをしても仕方がないので、沙耶は尻尾の蛇腹剣でチャウグナー・フォーンの象の鼻と切り結ぶ。
チャウグナー・フォーンは体が大きくて小回りが利かず、象の鼻を硬貨させて蛇腹剣の攻撃を防いでいるから、沙耶は象の鼻にカスダメしか与えられていない。
このように戦うことで、チャウグナー・フォーンは沙耶が取るに足らない敵だと誤認し、尻尾の蛇腹剣とユーザーパーさえどうにかすれば勝てると考えて動きがその対処だけに専念して視野を狭めている。
これは沙耶のギフトから派生した
発動した状態で沙耶が行動することで、敵が自分に都合の良い思考回路になって視野が狭まるから、ここで別の攻撃をすると面白い程上手く決まる。
沙耶は
『ぬぐわっ!?』
レイダードレイクがユーザーパーを手に持っていることから、それによる攻撃は流石にあるかもしれないと警戒していたようだが、伸縮自在な鉤爪で体を傷つけられた挙句、その爪の先端からビームも放たれればチャウグナー・フォーンの体は蜂の巣のようになってしまった。
風穴だらけになったチャウグナー・フォーンが爆散すると同時に、モニターに冷ややかな目を向けた沙耶が口を開く。
「油断大敵です。その程度では覇道なんて口にするのも烏滸がましいです」
まったくもって沙耶の言う通りである。
沙耶の
チャウグナー・フォーンは身の程を弁えないビッグマウスだったせいで、こんなにあっさり負けてしまったのだ。
沙耶がチャウグナー・フォーンと戦っている頃、明日奈はオトゥームの剣の触手をスパスパとファントムペインで切断していた。
オトゥームは触手を切断される度に痛覚をいじられ、最早戦いに集中できないようにされている。
『お前を殺すとトゥモロー様が喜ぶの。だからさっさと死んで』
最後は明日奈が痛覚が高まった状態でファントムペインを突き刺し、オトゥームは声にならない悲鳴と共に力尽きた。
オトゥームにとどめを刺す時、明日奈は特にシリアルキラーのような表情を浮かべていたりしない。
ただ目的を遂行する騎士になりきり、敵に対して無関心で無慈悲に振舞っているだけだ。
それが明日奈を近寄りがたい存在にしているのだが、戦闘中ゆえに誰も指摘できない。
ちなみに、恭介はオトゥームを殺したと言われても明日奈が思い描く程喜んだりしない。
敵が減ることに感謝することはあっても、明日奈の戦い方を見て引くことは間違いないからだ。
ルーナもモニターに顔を出しているが、モニター上のルーナは明日奈を見てヤバい奴をこの世に解き放ってしまったと戦慄するばかりである。
一方その頃潤は、冷静にキノトグリスの腕を躱しつつガトリングガン形態のバテシバでチクチクと攻撃していた。
キノトグリスの腕に攻撃せず、本体であるスライム部分を集中砲火しているけれど、潤はあまり手応えを感じられずにいた。
『どうやら核を体内で動かしてるようですね。それを壊さねば倒せなさそうです』
自身の攻撃で少しずつ体を再生する度に小さくなっているキノトグリスを見て、勝負をさっさと決めるならば近接戦を仕掛けなければいけないと潤は理解した。
その時、潤にとって都合の良いことが起きた。
明日奈が切断したオトゥームの剣の触手が飛んで来て、キノトグリスのスライム部分に刺さったのである。
それが核に掠ったらしく、キノトグリスのスライム部分はその痛みでブルブルと震え、そこから突き出した右腕の動きが止まった。
言っておくが、当然の如く潤は
あくまで潤が元から持っていた運によるものだ。
『やるなら今ですね』
あらゆるものの機能を停止させる右腕が動かない今、潤はチャンスを逃さずにキノトグリスに接近して
核が壊されたことにより、キノトグリスはドロドロに溶けて戦いが終わった。
沙耶は明日奈と潤が割り当てた敵との戦闘を終えたため、小隊長として労いの声をかける。
「お疲れ様です。等々力さんも田辺さんも無傷で何よりです」
『当然です。この程度の敵なら余裕です』
『こちらもまだ余裕があります』
「安心しました。それでは先に進みましょう」
まだまだ暗黒惑星ゾスには敵が多いので、沙耶達はすぐにこの場から移動を始めた。
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