第259話 どんな時にも家族を信じ支え合い、死が2人を分かつまで永遠に寄り添います

 恭介達が瑞穂に来て58日目、チャペルの中には明日奈を除いた高天原の住民全員が既にスタンバイしていた。


 新郎と新婦の招待客なんて分けられないのは、招待客が両方の知り合いであり人数も少ない小規模な結婚式だからだ。


 なお、ラミアスやアルファを筆頭としたメイド型アンドロイド達も招待されている。


 危険人物扱いの明日奈については急病による欠席とされており、真実は本人とルーナ、沙耶しか知らない。


 式場内の準備と新郎新婦の準備が整うと、司会を務めるルーナが口を開いた。


「それでは、新郎新婦の入場です」


 その言葉が式場内に響き渡った直後、荘厳な扉が開いて和紀が麗華をエスコートしながら入場し始めた。


 当日のお楽しみということで、恭介と麗華はリハーサルではお互いの衣装を見ていなかったため、目が合った時にお互いの衣装に見惚れてしまった。


 麗華の花嫁姿を見たことで、恭介は改めて自分が彼女の夫になるのだと自覚できた。


 その一方、麗華も恭介の正装にドキドキしていた。


 パイロットスーツや私服姿の恭介に慣れている分、余計に正装がグッと来たようだ。


 恭介と麗華の顔に喜びの感情が如実に現れており、招待客全員もなんだか温かい気持ちになれた。


 和紀が沙耶を定位置まで届けたところで、ルーナが開式を宣言する。


「只今より、明日葉恭介様、麗華様の結婚式を始めます」


 フォルフォルの姿で丁寧語なのは違和感の塊だけれど、結婚式の雰囲気を壊さないことを優先している。


 今日の結婚式はルーナという神がいるけれど人前式で行われる。


 これは恭介と麗華の希望を組み込みやすいからそうなった。


 ルーナとしては神前式にしてほしかったけれど、自分の気持ちを優先したら恭介達の結婚式に関わらせてもらえないだろうから2人の希望を優先したのだ。


「続いて新郎新婦の誓いの言葉に移ります。恭介様、麗華様、よろしくお願いします」


 司会者にバトンを託されると、最初に恭介が口を開いた。


「本日、私達2人は皆様の前で結婚式を挙げられることを感謝し、ここに夫婦の誓いをいたします」


「常にお互いを大切にし、戦場では背中を預け合ってそれぞれの長所を活かして戦いに挑みます」


「いつも感謝の気持ちを忘れません」


「笑顔の絶えない明るい家庭を築き、子供が生まれれば笑顔溢れる家庭にします」


「どんな時にも家族を信じ支え合い、死が2人を分かつまで永遠に寄り添います」


「喧嘩をしても必ず仲直りします」


「これらの誓いを心に刻み、これらは夫婦として力を合わせて新しい家庭を築いていくことをここに誓います。明日葉恭介」


「明日葉麗華」


 誓いの言葉が終われば、再びルーナにバトンが回った。


「素敵な誓いの言葉をありがとうございました。それでは、新郎と新婦の指輪の交換に移ります」


 恭介と麗華は司会者が言ってすぐに指輪の交換に移った。


 恭介が麗華の左手の薬指に結婚指輪を嵌めてあげると、麗華も恭介の左手の薬指に結婚指輪を嵌めてあげた。


「恭介様、麗華様が指輪の交換を終えました。最後に誓いのキスをもって夫婦の成立とさせていただきます」


 一般的な人前式では、この段階で結婚証明書や婚姻届に署名と押印したことで結婚の成立とする。


 しかし、麗華が1秒でも早く婚姻届を出したいと希望したため、それを叶えたから婚姻届への署名と押印はとっくに終わって提出し、ルーナの強権で最優先で受理された。


 それゆえ、プログラムにアレンジを加えて誓いのキスをここに捻じ込んだのだ。


 だが、ここで恭介にとって予想外の展開が起きた。


 リハーサル通りなら恭介から麗華にキスをするはずだったが、麗華は恭介に結婚指輪を嵌めてもらえたことで嬉しさがいっぱいになり、昂った気持ちを我慢できなくなって行動に移してしまった。


「恭介さん、愛してる!」


 そう、麗華が恭介の唇を肉食的に奪ったのである。


 効果音にするならば、間違いなくズキュウウウンとでも表現すべきだろう。


 これには恭子と麗美、遥のテンションが爆上がりした。


「「「キャァァァァァッ!」」」


 (麗華はずっとこの時を待ってたんだもんな。リハーサル通りじゃなくてもしょうがない)


 麗華が情熱的なキスを終えた瞬間に恭介はそう思った。


 その一方、ルーナと沙耶、晶はなんとなくこうなる予感がしていたらしく冷静だった。


 彼等は恭介がクールにリードしてキスして終わることはないと確信していたのだ。


 ちなみに、和紀と仁志、潤は口をパクパクさせている。


 目の前で起きた光景が頭の中で処理できていないらしい。


 実際、式の進行に支障が出ない範囲で流れが修正されてしまっている。


 本当は一緒になってはしゃぎたいルーナだけど、この場にいるためには脱線してはいけないと約束させられていたから、グッと堪えて司会を続ける。


「とても情熱的なキスでしたね。これらのキスをもちまして、明日葉恭介様、麗華様の結婚が成立しました。新郎新婦が退場します。ご来場の皆様、温かい拍手にて祝福して差し上げましょう!」


 機転を利かせたルーナの誘導に従い、式場内にいた者達は惜しみない拍手を恭介達に送った。


 恭介もこのビッグウェーブに乗るしかないと思い、麗華の手を引いてこの場から退出した。


 (でかした、ルーナ。麗華がすまん)


 心の中で恭介はルーナに感謝と謝罪をした。


 恭介が強引に手を引くなんてことは滅多にないから、麗華はとても幸せそうにしている。


 それだけ積極的な恭介はレアなのだ。


 とりあえず、この後行われる披露宴のために恭介達は控室へと移動した。


 時間が来ると恭介と麗華は披露宴の会場へと案内され、ルーナのテキパキとした進行で開宴の挨拶と新郎新婦の紹介、主賓挨拶と披露宴のプログラムは進められていった。


 今日のルーナは頼れるとわかったため、それだけで恭介は披露宴もどうにかなるだろうと安心できた。


 乾杯の後は恭介と麗華が揃ってケーキ入刀を行い、しばしの歓談と食事の時間となった。


「兄さん、麗華さん、結婚おめでとうございます」


「2人共おめでと~」


「「「おめでとうございます」」」


「ありがとう」


「ありがとうございます」


 2期と3期パイロットから祝われた時、恭介は心の中で大きく息を吐いていた。


 一時は麗華の熱烈なキスで結婚式が中断されてしまうと思ったけれど、ルーナがどうにか持ち直した。


 控室に引っ込んだ時には麗華も落ち着きを取り戻したので、流石に披露宴では麗華も我慢できなくなってやらかすことはなかった。


 両方の親とラミアス、アルファ達にも祝われた後、恭介と麗華の前にルーナがやって来た。


「今日ほど私が頼もしいと思ったことはないんじゃないかな?」


「確かにそうだな。助かったよ」


「悔しいけど頼もしかった」


「フフン、私だってやればできる神様なんだよ。わかったらもっとちやほやしてね」


「「前向きに検討する」」


「そんなぁ」


 今日はルーナが頼りになったのは間違いないけれど、この調子でいつもサポートしてくれるようなルーナではない。


 したがって、恭介も麗華もルーナに感謝してはいるもののちやほやするとは明言しなかった。


 その後、ゲストのスピーチでは瑞穂を代表してラミアスがスピーチをし始める。


「新郎の恭介さんは世界最高のパイロットであり、常勝無敗の頼れるチームリーダーです。新婦の舞さんはそんな恭介さんが唯一背中を預けられるパイロットであり、公私共にお二方に付け入る隙はないぐらいお似合いのペアです。私は恭介さんと麗華さんと共に瑞穂に乗れることを誇りに思っておりますし、これからも私にできることでお二方を支えていきたいと思います」


 これがAIから出て来る言葉なのだろうかと会場がざわつくぐらいには、ラミアスの言葉は抑揚もあって人間味あふれるスピーチだった。


 長々と喋らなかったのは、ルーナから割り当てられた時間を意識してのことだから、決してラミアスが喋る内容を忘れた訳ではない。


 新郎新婦がお色直しで退場し、再入場とキャンドルサービスのプログラムが終わると、ゲストによる余興が始まる。


 沙耶がピアノを弾いて晶が歌ったり、仁志と遥のGBO一発芸、潤のマジックという意外な特技が場を盛り上げた。


 祝電の紹介後は恭介と麗華がそれぞれの親に手紙を読み上げ、2期と3期のパイロットが目頭を押さえていた。


 謝辞では恭子と麗美が話して麗華に嬉し涙を流させた。


 恭介も嬉しかったのは間違いないのだが、恭子と離れていた期間がそこそこ長かったせいでウルっと来るだけに留まった。


 そして、閉会の時間となって恭介と麗華は退場した。


 (1日で準備してやるには無理があると思ってたけど、やってみたらあっという間だったな)


 披露宴は全体で2時間半程度だったが、笑いあり涙ありハプニングありで恭介の感覚ではあっという間に披露宴は終わったらしい。


 終わり良ければ総て良しと言う言葉にもある通り、今日の結婚式と披露宴は色々とあったが式場に集まった者全員が満足する終わりを迎えられたため、大成功と言っても過言ではないだろう。

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