第257話 それでこそ私の娘ね。押して押して押しまくるの
婚約したまま結婚式はいつ挙げるかタイミングを考えていた恭介達だったが、ルーナによってここまで準備されてしまうとその結論を先送りすることはできなくなった。
それゆえ、恭介と麗華は屋敷に戻って昼食を取りながら緊急家族会議を始める。
「おい、なんで家族会議なのにお前がいるんだルーナ?」
「そう固いことを言わないでよ。私はウェディングプランナーとして同席してるだけなんだから」
「俺はルーナが関わるだけで嫌な予感しかしないんだよ」
恭介が溜息をついていると、恭子が恭介を安心させるべく口を開く。
「大丈夫よ。私が楽しみにしてる結婚式でふざけた真似はさせないから。ねぇ、フォルフォル?」
「Yes,Ma'am」
恭子に目の笑っていない笑みを向けられ、ルーナは立ち上がって敬礼した。
ルーナは実力で言えば恭子をどうとでもできるのだが、そんな力があっても恭子に恐れをなしているようだ。
そこに麗美が話に加わる。
「私はフォルフォルの力を使ってでも結婚式を早く挙げてほしいわ。麗華も恭介さんも危険な戦いに身を置いてるんだもの。どうせやることやってるんだから、元気な時に結婚式をやっておきましょうよ。ね、和紀さん」
「そ、そうだな」
麗美のとんでもない発言に対し、和紀はぐったりした様子で頷いた。
更科家では麗美の発言権が一番強いらしく、和紀に異論を口にする意思は少しも感じられなかった。
両家の親はルーナが結婚式に関与しても構わないスタンスだったが、恭介は麗華がどのように考えているのか確かめなければ話を進められないので、麗華の方を向いた。
「麗華はどうしたい?」
「私は…、1秒でも早く結婚式を挙げたいな」
そう口にした麗華は不安そうな表情になっていた。
その気持ちをルーナが遠慮せずに代弁してしまう。
「麗華ちゃんはね、これ以上お預けされたくないんだ。少しでも早く恭介君を自分のものにしたいんだよ。いくら恭介君が誠実だからといっても、麗華ちゃんは独占欲が強いから結婚して子供ができるまで安心できないんだ。だからさ、恭介君は麗華ちゃんと結婚して子供を作っちゃいなよ」
「ルーナ!?」
「それでこそ私の娘ね。押して押して押しまくるの」
「お母さん!?」
ルーナに本心をバラされてしまったことも恥ずかしいが、麗美にそれを全肯定されたどころか更にアクセルまで踏まれて麗華の顔が真っ赤になっている。
麗華がここまで恥ずかしがっているということは、ルーナが口にしたことは事実なのだろうと恭介も理解できた。
そんな恭介にダメ押しするような形で恭子が再び口を開く。
「麗華ちゃんは等々力さんを警戒してるのよ。婚約者にここまでアプローチされてるんだから、恭介も覚悟を決めて結婚しなさい。恭介だってフォルフォルが余計なことをしなければ、結婚式を挙げることに賛成なんでしょ? さっきも言ったけど私がいる限りフォルフォルは余計なことをしないはずだから安心して」
「…わかった。麗華、結婚式を挙げるか?」
「うん!」
恭介から結婚式を挙げようと言われ、麗華の不安そうだった表情が満面の笑みに変わった。
「そうと決まれば結婚式の打ち合わせだね! ここから先は大船に乗ったつもりでいてね!」
ルーナも元気になり、結婚式の打ち合わせにそのまま突入した。
打ち合わせは女性陣とルーナによって加速し、恭介と和紀は完全に置いてけぼりになった。
恭介としては麗華が満足する結婚式になればそれで良いので、よっぽど突拍子のない催しにならなければ口を挟むつもりはない。
和紀は単純に女性陣のパワーに圧倒されてしまい、借りて来た猫のようになっているのだ。
結婚に関する諸手続は持木の協力もあってスムーズに進むらしく、あれよあれよと話し合いが進んで結婚式は明日挙げられることになった。
「待て、展開が早過ぎるだろ」
「そんなことないよ。結婚式に参列できるのはここにいる両家とその親戚、瑞穂クルーだけなんだから予定の確保なんてすぐにできるじゃん」
高天原にいる者達は、明日の予定があったとしても急ぎの用事である可能性は低い。
だからこそ、ルーナの言う通りで恭介と麗華の結婚式を明日挙げると言っても予定を開けるのは容易いのだ。
「予定の確保についてはわかったが、みんなの結婚式に参列する服の手配とかどうすんの?」
「それぐらい私がジャストフィットする衣装とアクセサリーを準備するさ。10分あれば余裕だね」
「ジ○バンニもびっくりだわ」
「はいはい。驚くのはそこまでにして、恭介君達にはこれから式場に来てもらってリハーサルするよ」
張り切っているルーナに抜かりはないようで、恭介達は屋敷を出て結婚式場に移動した。
高天原には大抵の施設が揃っており、その中には当然結婚式場もある。
受付をフォルフォルの分身が行っているあたり、ルーナは自分の持てる力を総動員して何がなんでも明日には恭介と麗華の結婚式を行うつもりらしい。
やらなければいけないことはそこそこ多く、それらをこなしている内にあっという間に夜になった。
それでも、ルーナのおかげで圧倒的に時短できたのは間違いない。
結婚式の準備に明るくない恭介でも、それだけはちゃんと理解できた。
夕食を取って風呂に入っていると、そこに麗華が合流する。
以前なら考えられなかったが、今となっては当然のように恭介と麗華は毎日混浴している。
「ふぅ…」
麗華が湯舟に浸かり色っぽく息を吐く。
「今日は大忙しだったな。お疲れ様」
「恭介さんもお疲れ様。でも、私はこの疲れを心地良く感じられてるよ。だって、これでようやく恭介さんと結婚できるんだもの」
「待たせて悪かった」
「私こそ急かしてごめんね。だけどね、私はどうしても恭介さんとずっと一緒にいられる証が欲しいの。私が独りぼっちになる悪夢を見て起きた時、恭介さんが隣にいてくれるだけでどれだけ気持ちが安らいだことか」
麗華はギフトレベルが恭介の次に高いけれど、メンタル面ではまだまだ心配な点がある。
それは恭介も理解しているから、麗華が魘されていることに気づいて起きた時に麗華を抱き締めて眠るようにしている。
そうすることですぐに麗華は安心した表情になり、悪夢を見ることもなくなるようだから恭介はいつも眠る時に気を付けている。
冷静に考えてみれば、大学をまだ卒業していない学生にゴーレムで戦わせているのだから、それは仕方のないことであろう。
「確かに、俺が抱き締めると麗華はすぐに安心するよな」
「うん。恭介さんの匂いが好きだし、恭介さんに抱き締められると自然ともう大丈夫って思えるの」
そう言って麗華が湯舟の中で自分に抱き着くので、恭介は麗華を抱き締め返した。
それだけで麗華はニッコリと笑うが、ふと麗華は再び不安そうな表情になる。
「恭介さん、私と結婚することに躊躇いはない?」
「ないぞ。いきなりどうしたんだ?」
「私ばかり幸せになってる気がしたから、恭介さんは本当に幸せになれるのかなって気になったんだ」
「幸せだから安心してくれ」
恭介はノータイムで答えた。
ここで言い淀んでしまえば麗華をもっと不安にさせてしまうから、恥ずかしく思っていたけれどそれを我慢して素直な気持ちを告げた。
「本当? 無理して言ってない?」
「俺は嘘を吐かないことに定評がある」
「だよね。ありがとう」
麗華は恭介が嘘をつかないことを良く知っているから、即答してくれたことが嬉しくて恭介にフレンチキスをした。
もしもこの場で大人のキスをしようものなら、麗華が我慢できなくなって恭介を襲ってしまうからである。
我慢するためにフレンチ・キスで留めたとも言える。
「どうしよう、我慢できなくなりそう」
「麗華、落ち着いて。それは不味い。誰か来たら困ったことになる」
風呂場が騒がしいと麗美、メイド型アンドロイドが駆け付けて来る恐れがあるから、恭介は麗華を落ち着かせた。
麗華も恭介に止められれば止まれる程度には冷静さを残していたらしく、2回深呼吸して落ち着きを取り戻した。
「ごめんね。幸福感が溢れ過ぎて危ないところだったよ」
「続きは寝室に戻ってからな。風呂はお湯に浸かって体を癒す場所なんだから」
「は~い」
この後、恭介達がいつもより早く風呂場を出て寝室に向かったのはここだけの話である。
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