第254話 頑張れ♡ 頑張れ♡
昼食の際に恭介と麗華が2期と3期パイロットと話をしたところ、彼等には縛りプレイの選択肢が用意されていなかった。
食堂のモニターに向けて恭介は質問をぶつける。
「ルーナ、縛りプレイが選べる基準を説明してくれ」
『クトゥルフ神話の侵略者達の上位単一個体と戦って無事に帰還できるか否か』
ルーナの答えを聞き、沙耶達はそれならば仕方ないと納得するしかなかった。
着実に強くなっているけれど、それでも上位単一個体と戦って無傷でいられる自信はないから、沙耶達に文句を言う資格はないのである。
「なるほど。線引きについては理解したが、パンドラクルーがデスゲームなしで増員するのなら、俺と麗華だけに縛りプレイを選ばせても釣り合いが取れるのか?」
『4期パイロットが選出され次第、パンゲアには高天原を出て行ってもらうことになったよ。寄るのは最低限の休みと補給の時だけだね。そうやって追い詰めてOJTの環境で4期パイロットには必死になってもらうんだ』
「田中は?」
『タイキック』
晶が質問したのは宇宙にいるのに日本人パイロットで唯一瑞穂に乗っていない田中のことだ。
そんな晶の質問に対し、流れるようにルーナはネタ発言で応じてみせた。
これには恭介達全員からルーナが白い目を向けられる。
ルーナもそこまでされるとボケたままは不味いとわかったらしく、わざとらしく咳払いをしてから再び話し出す。
『最初はパンゲアに乗せたままって案も考えたんだけど、田中が海外の政府からスパイ呼ばわりされるのはかわいそうかなって思って悩んでるんだよね』
「スパイ? あぁ、各国とのやり取りを田中は聞ける位置にいるだろうからな。でも、それを田中はどうやって日本に伝えるんだ? パンゲアって日本と連絡取れるの?」
『一応取れるよ。とはいえ、田中が日本と連絡を取ろうとすると各国のパイロットが張り付くから、田中は日本に連絡をしたことがないんだけどね』
「逆に他国のパイロットの方がスパイっぽくないか?」
田中が実は日本と連絡を取れていないと聞き、恭介は苦笑しながらルーナの話にツッコんだ。
常に誰かが田中に接触しようとしていると聞けば、田中に心休まる時間がなさそうでこの場にいる全員が同情した。
「ルーナ、田中さんを日本のゴーレム開発プロジェクトに送り込めないんですか?」
『ふむ、沙耶ちゃんはなかなか良いアイディアを出してくれたね。昔の田中ならすぐにデュエルしたがるから心配だったけど、矯正された今の田中なら日本に戻しても良いかもね。よし、決めた。田中は日本に帰してあげよう』
その瞬間、食堂のモニターが2つに分割されて片方にルーナが映り、もう片方には田中と彼の乗っていたメラクスが横須賀の海軍基地に資源と同じような感じで転送されたのが映っていた。
(即断即決過ぎやしないか? マジで悩んでたとは思えないんだが)
恭介はそんな風に思っていたが、実はルーナとフォルフォル達の話し合いの中で田中の処遇には3つの選択肢が用意されていた。
1つ目は田中がこれからもパンゲアに留まることだ。
外国人パイロットが更に増えるため、田中が今まで以上に居心地の悪い生活を送らなければならない。
2つ目は田中が瑞穂に移籍することだ。
今の田中ならば以前よりも馴染めるだろうが、1~3期パイロットはいずれも偶数人だから田中がハブられてしまう可能性は高い。
3つ目は沙耶が言ったように田中をゴーレム開発プロジェクトに移籍させることだ。
ゴーレム開発プロジェクトからすれば、一時的に立ち寄ってくれるよりもずっとこの場に留まってくれる貴重なサンプルとして田中は重宝されることだろう。
掲示板では田中が酷い目に遭って愉悦を感じるフォルフォルもいたが、そうは言ってもやり過ぎると後で自分達が怒られるから、どの選択をするか恭介達に委ねたのである。
『沙耶ちゃんのおかげで田中は日本に帰ることができたよ。そして、ゴーレム開発プロジェクトに貴重なサンプルとして出荷、ゴホン、出向するんだ』
「今、出荷って言ったろ」
『言ったよ』
「おい」
言っていないと取り繕うのがこの流れのセオリーなのだが、田中については本当にルーナの扱いが雑なので正直に答えた。
『だってさ、見てごらんよ。ゴーレム開発プロジェクトのメンバーがすぐに田中を取り囲んでるじゃないか』
ルーナがそう言った時には確かに、ゴーレム開発プロジェクトのメンバーが目を光らせて田中とメラクスを取り囲んでいた。
「ベースゴーレムもどきからオルタナティブにするまで1時間で済ませた技術チームがいるんだ。田中が根掘り葉掘り聞かれるのもそうだが、メラクスがあれば研究はノンストップで進みそうだ」
『安心してね。田中がこれまで手に入れた設計図も一緒に送り込んだから』
「それは安心できない。技術チームを過労死させるつもりか? 熱量があれば過労だって耐えられるなんてことはないぞ?」
『頑張れ♡ 頑張れ♡』
田中がこれからもみくちゃにされる展開は想像に難くなかったため、ルーナはとても良い笑みを浮かべていつの間にかボンボンを持ったチアリーダーコスで田中を応援していた。
悪意しか感じられない応援というのは嫌なものである。
モニターには手をワキワキさせた技術チームのメンバー達が田中ににじり寄る姿が映る。
『待て、落ち着くんだ。早まるんじゃない。話し合えばわかるはずだ』
『大丈夫。怖くない、怖くない』
『そうとも話し合おう。ちょっと向こうで話を聞くだけだから』
『1日は27時間あるから大丈夫』
『1日は24時間だ! 手をワキワキさせながら近寄るな!』
田中は後退るけれど、田中は既に技術チームに囲まれていて逃げられない。
技術チームは敵ではないから自衛と称して暴れることもできず、田中は結局技術チームの言いなりでメラクスを研究施設に移動させた。
メラクスに乗って逃げることもできなくはないけれど、逃げたところでゴーレム開発プロジェクトに合流した方が好待遇なのは間違いないので、田中は彼等の指示に従ったのだ。
モニターが分割された状態から元に戻ったところで、恭介はルーナに話しかける。
「いきなり送り込むのはやり過ぎじゃないか?」
『平気でしょ。別に田中はパンゲアクルーの女性陣と付き合ってる訳でもないし、既にパンゲアクルーには説明して承諾させたから』
「させたってところに圧を感じる」
『そんなことないよ。
ぶっちゃけルーナに歯向かえるはずもなく、パンゲアクルーは田中が自分によって日本のゴーレム開発プロジェクトに移籍したと言われても承諾するしかなかった。
4期パイロットが新しくパンゲアに来れば、1人しかいない
争いの火種は最初から潰しておくに越したことはないから、パンゲアクルーにとっては受け入れるべき横暴だったということだ。
「あっ、ゴーレム開発プロジェクトでは変形機能のないゴーレムの研究を進めてたよな」
『だから?』
「変形機能のあるメラクスなんてサンプルを与えたら、寄り道して研究が進まなくなるんじゃないかと思ったんだ」
『頑張れ♡ 頑張れ♡』
再びルーナはチアリーダーコスに着替えてゴーレム開発プロジェクトを応援した。
変形しないゴーレムの設計図だけでも貴重なサンプルなのだから、できればそれだけで研究を進めてほしいところだ。
しかし、好奇心を我慢するのはかなり難しいことだ。
一般人だってなかなか我慢できないのに、研究者という好奇心の塊が変形機能のあるゴーレムをサンプルで手に入れたら研究しないはずがない。
それが研究者の業というものである。
(でもまあ、これでオルタナティブシリーズがもっと強くなるなら良いか)
日本の4期パイロットはオルタナティブシリーズに乗って戦う想定だから、オルタナティブシリーズに多様性があることは正直好ましい。
だからこそ、ゴーレム開発プロジェクトに負担をかけることになるのは間違いないが、その頑張りによって日本がいざ攻め込まれても自衛できるようになるので、今は耐えてほしいと恭介達は思っている。
田中の処遇を決めるのに食休みが長くなったが、それももう終わったのでそれぞれ午後の時間を好きなように過ごし始めた。
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