第253話 だがちょっと待ってほしい

 レース会場から格納庫に帰って来た麗華は、ゴーレムの合成作業をせずにシグルドリーヴァのコックピットから出て来て恭介に抱き着く。


「お疲れ様。どうした? ルーナに酷いことでも言われたのか?」


「うん。攻撃禁止の縛りプレイだったから、私にできるベストを尽くしたのに残虐非道とか言って来たの」


 その瞬間、恭介が冷徹な視線をモニターに向けるよりも先にルーナがモニターに正座待機していた。


「俺の言いたいことがわかるな?」


『だがちょっと待ってほしい。私の発言は100%の誹謗中傷じゃなくて、70%の事実と20%の悪意と10%の抗議によるものなんだ』


「弱肉強食が当たり前のレースなんだから、攻撃禁止のルールを律義に守りつつできることをしたのはパイロットとして当然だろ? 少しでも悪意がある時点でアウトだ」


『簡単にクリアされたら縛りプレイの意味がないじゃないか。少しぐらい抗議したって、はい、すみませんでした』


 言いたいことを最後まで言おうとしたけれど、恭介の目が怖くてルーナは中断して謝った。


「こっちは高天原に引き籠る選択肢だってあるんだ。それをわざわざルーナの頼みでクトゥルフ神話の侵略者達と戦ってるんだからな? その辺を弁えろよ?」


『はい、すみませんでした』


「Botみたいな反応をすれば良いと思ってるのか? 誠意が足りない」


『じゃあ脱げと?』


 (こいつ、言葉が通じてないんじゃないか?)


 論理が飛躍したルーナの発言に恭介は困惑した。


 その代わりに今まで黙っていた麗華が恭介の代わりに口を開く。


「私の恭介さんに体で詫びるとか止めてくれる? ふざけたことばっかり喋ってるなら、私も今後一切協力しないわ」


『そんなこと言ったってしょうがないじゃないか。私はロキの巫女なんだもの。ふざけないと失われちゃう力もあるんだ』


 ロキの巫女とはなんと厄介極まりない職業なのだろうか。


 更に言えば、ルーナは虚構と幻想の神であり、それもルーナのうさん臭さに拍車をかけている。


「力が失われて困ることもあるのは事実だが、やって良いことと悪いことのボーダーは弁えろ」


『わかった。言質は取ったし、ボーダーには気を付けるよ』


 ルーナはそれだけ言ってモニターから消えた。


 あっさりということを聞いたルーナに対し、恭介は途端に不安を感じた。


「なんか俺、余計なことを言っちゃったか?」


「やって良いことと悪いことのボーダーの定義によっては不味いかも」


「あり得ない定義をしてたらまた注意しよう。それよりも、麗華も今回は設計図が手に入ったんじゃないか? 合成作業をしておいで」


「うん」


 ルーナについてこの場であれこれ考えても時間の無駄だから、麗華は恭介の言葉にうなずいてエクリプスのコックピットに乗り込んだ。


 まずはイクシードとドグマの設計図を合成してレゾナンスが完成した。


 レゾナンスには単体が対象であるものの、無理矢理敵と自分の行動を同調させる性能があるのでそれを悪用するとルーナが残虐非道と再び言い出しそうなことも実現可能だ。


 レゾナンスはエクリプスとスペックで釣り合うので、麗華は更に設計図合成キットを使って合成作業を進める。


 その結果、ネクサスが完成した。


 ネクサスはX型のビットを射出できる二対の翼を装備しており、エクリプス専用兵装ユニット回顧録メモワールはネクサスのコックピット下の大砲に変化し、名前も追憶砲レミニセンスに変わっていた。


 武器はアヴェンジャーからアヴェンジャー2ndにマイナーチェンジした。


 盾形態で溜め込んだダメージに基づいて盾から大剣、ビームライフルへと変形させられるのがアヴェンジャーだが、アヴェンジャー2ndは最初が盾形態なのは変わらなくとも大剣状態でもダメージを吸収してビームライフルに変形できるようになった。


 ネクサスの合成作業が完了したところで、昼食までまだ時間が残っていたから恭介と麗華はそれぞれ新しく手に入れたネメシスとネクサスに乗り込んでタワーに向かった。


 最近コンテンツとして復活した宝探しは地下12階も解放されていたため、タワーの昇降機に乗って地下12階にやって来た訳だ。


 地下12階層の内装は古代遺跡と呼ぶのが相応しく、壁には古代文字と絵が刻み込まれていた。


『ミッション! 1時間以内に妖精のランプを奪え!』


 (奪えってことは誰かが持ったまま動いてる可能性があるな)


 恭介はアナウンスを聞き、目的の宝が自分達から遠ざかる可能性に気がついた。


「麗華、先を急ごう。宝を持った敵が逃げるかもしれん」


『そうだね』


 麗華も事態をすぐに飲み込み、恭介の乗るネメシスの後に続く。


 そんな2人の行く手を広場にて阻むのはトロールの群れだった。


『「邪魔」』


 今更数が多かろうとトロールなんかに手こずるはずもなく、恭介達はあっさりと広間を突破した。


 広間を通過した2人を待ち構えるかのように、通路にグレートトロールが3体並んでいた。


「ダラシネェナ」


「ユガミネェナ」


「シカタナイネ」


『誰がだらしないって!? 許さない!』


 麗華はグレートトロール達の片言の発言に怒り、追憶砲レミニセンスを薙ぎ払うように放った。


 どうして麗華がキレているのかわからない恭介に対し、モニターに現れたルーナが説明を始める。


『解説しよう。麗華ちゃんは恭介君と付き合い出してから体重が増えてしまい、それを気にしているからグレートトロール達にキレたんだ』


『だ ま れ』


『あっはい』


 麗華の声が殺意マシマシだったことから、ルーナはすぐにモニターから消えた。


 体重が増えたという点だが、実のところ麗華は太った訳ではない。


 明日奈に負けないように、他の女性よりも女性として恭介に見てもらえるように、麗華はデスゲーム中にバストアップのためにいろいろしていた。


 そのおかげで目的が達せられ、バストアップした分だけ体重が増えたのだ。


 したがって、腹囲がぽっこりしたとかそんなことはない。


「麗華、落ち着け。そこで怒ったままだとルーナの思うつぼだ。俺は麗華を太ったと思ってない。丁度良いと思うぞ」


『…恭介さんがそう言ってくれるなら良いや』


 突き詰めれば恭介からの評価が大事なので、麗華は恭介に今の自分を肯定してもらえたから落ち着いた。


 それが理由で麗華の機嫌が良くなり、行く手を阻む各種トロールは次々に麗華によって屠られた。


 妖精印のランプを持っていたのはトロールキャスターであり、肉壁となってくれていたトロール達がいなくなってしまえば、魔法攻撃をするまでの時間でネメシスの両肩に備わったマシンガンで蜂の巣にされて倒れた。


 トロールキャスターを倒したことで、妖精のランプはネメシスのコックピット内にあるサイドポケットに転送され、宝探しのミッションをクリアしたことで、宝探しスコアが恭介達の見るモニターに表示される。



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宝探しスコア(マルチプレイ)

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ミッション:1時間以内に妖精のランプを奪え

残り時間:47分56秒

協調性:◎

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総合評価:S

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報酬:100万ゴールド

   資源カード(食料)100×10

   資源カード(素材)100×10

ランダムボーナス:スケープゴートチケット

ギフト:黒竜人機ドライザーLv50(stay)

コメント:ギフトなしで15分かからないのはショック。地下13階からはテコ入れ決定だね

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 (宝探しのタイパが良いのは間違いない)


 難易度が低くて報酬が良いのだから、宝探しは恭介達にとって都合の良いコンテンツと言えよう。


 ルーナは2人がギフトを使わずともあっさりクリアしてしまったので、地下13階以降は難易度を上げると宣言した。


 難易度が上がれば報酬もそれに比例して上がるから、恭介は文句を言わなかった。


 とりあえず、恭介と麗華は宝探しが無事に終わったから格納庫に戻り、それぞれのゴーレムの整備だけ済ませてから食堂で昼食を取ることにした。

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