第252話 攻撃しないと言ったでしょ。あれは本当よ。これは行動阻害

 格納庫に戻って来た恭介は、すぐにアンチノミーからレジサイドに乗り換えて合成作業を開始する。


 レジサイドはターミネーターとメサイアを一緒に合成することで強化されるとわかったため、デイリークエストボーナスで手に入れた設計図合成キットを使えば、恭介の懐は全く痛まない。


 合成の結果、完成したゴーレムはネメシスと呼ばれる機体だった。


 ネメシスはレジサイドの上位互換と表現できるゴーレムだ。


 レジサイドは両肩にはガトリングガン、左腕にパイルバンカー、右腕にエネルギーシールド、一対の翼はソードウィングになっているため武器庫のようなゴーレムだったが、ネメシスは基本的にその装備を踏襲している。


 勿論、それらの武装がアップデートされており、ガトリングガンは実弾からビームに変わり、パイルバンカーは発射から命中するまでにかかる時間が短縮された。


 エネルギーシールドはハニカム構造で強固なものとなり、ソードウイングの蛇腹剣も操作性が上がっている。


 それに加え、レジサイドにはなかったカウンターシステムが導入されている。


 防いだダメージを任意の攻撃のタイミングに上乗せできるシステムで、エクリプスのアヴェンジャーよりも融通が利く。


 ネメシスの合成が終わって恭介がコックピットから出て来ると、ニコニコした麗華がそれを待ち構えていた。


「恭介さん、レースお疲れ様。ドライザーに乗らなかったのにすごかったね」


「なんとかな。縛りプレイをしてみて改めてドライザーのありがたさがわかったよ」


「なんで縛りプレイなんてしたの?」


「ルーナから報酬が増えるからやってみないかって言われたんだ」


 その瞬間、麗華が格納庫のモニターに目の笑っていない笑みを向ける。


「ルーナ、出て来なさい。どうせ聞いてるんでしょ? 恭介さんに縛りプレイをさせたのはなんでなのか説明しなさい」


『私は悪くない。私は通常プレイと恭介君専用縛りプレイがあるって言っただけなんだ。縛りプレイの方が報酬は豪華だし、恭介君が得られる報酬とは別に日本にも資源を送れるって提示しただけだよ』


「恭介さん、それって本当?」


『信用してよ!?』


 ルーナの言い分をそのまま鵜呑みにはできないから、麗華は恭介にルーナの言っていることが正しいか訊ねた。


 それを見てルーナが抗議するけれど、日頃の言動を考えると残念ながらそうして当然である。


「事実だ。できないとは思ってなかったからやった。あっ、そう言えば」


『恭介君、それ以上はいけない』


 恭介がこの場において余計なことを言おうとしたから、ルーナがそれをインターセプトした。


 実際のところ、恭介はルーナが恭介のことを大好物と口にしたことを言おうとしたので、ルーナの判断は正しい。


「ルーナのことだから余計なことを言ったのはわかったわ。恭介さん、私もレースに挑んで来るね」


「おう。気を付けてな」


「うん」


 麗華はヴォイドに乗り込み、レース会場に移動した。


『デーモンキャッスルに挑むんだよね。通常プレイと麗華ちゃん専用縛りプレイがあるけどどっちでやる?』


「私にもそのオプションがあったのね。具体的にどんな縛りなのよ?」


『攻撃禁止。麗華ちゃんと言えば野蛮。野蛮と言えば麗華ちゃんだからね』


「懲りない悪神ね。恭介さんは私のことを野蛮だなんて言わないもん。でも良いわ。私は攻撃しなくたってレースで勝てるって証明してあげる」


『悪神呼ばわりするなんて酷い。私は事実を…、なんでもないよ。いってらっしゃーい』


 これ以上余計なことを言うと危険だと判断し、ルーナはデーモンキャッスルへ繋がる入場門を開いた。


 開かれた入場門をくぐり、麗華は各種デーモンが邪魔者として登場するデーモンキャッスルにやって来た。


 デーモンキャッスルのスタート地点には既に7機のゴーレムが位置に着いており、ヴォイドが位置に着くのを待っている。


 1位の位置から順番に水属性のブラウアリトン、火属性のロッソオリエンス、土属性のゲルプアマイモン、風属性のグリューンパイモン、風属性のメラクス、火属性のセンジュ、土属性のガイアドレイクが並ぶ。


 瑞穂クルーやパンゲアクルーが乗るゴーレムもあるが、ヴォイドのスペックなら問題ないと麗華は判断して8位の位置に着いた。


『3,2,1,GO!』


 開始の合図と共に、ヴォイドが信号をオンにすることでヴォイド以外のゴーレムがまともに操縦できなくなり、ヴォイドが1位に躍り出た。


『やると思ってたよ』


「攻撃しないと言ったでしょ。あれは本当よ。これは行動阻害」


『麗華ちゃんも狡くなったよね』


「狡いなんて失礼しちゃう。私はちゃんとルールに則ってるわ」


 ルーナがモニターからジト目を向けるけれど、麗華が言った通りヴォイドの性能はあくまで行動阻害だから直接的な攻撃ではないので、縛りプレイの縛りをちゃんと守っていると言える。


 地団太を踏むルーナはさておき、麗華の走行を邪魔しに現れたのはデーモンだった。


 デーモンが魔法陣を展開した時、ヴォイドは既にデーモンを追い越していた。


 ハーロットよりもスペックの高いヴォイドならば、デーモンが配下を召喚するまでの間に突破することも容易い。


 デーモンキャッスルが厄介なのは各種デーモンだけでなく、コースの天井が下がって床の位置が上がり始め、それと同時に両側の壁の幅も少しずつだが狭まって来た。


 コースを進んで行くにつれて天井からギロチン、床から銃撃、両側の壁から飛び出す槍といったギミックが増えていくし、天井と床、左右の壁が狭まっていく速度も緩急をつけるようになり、タイミングを掴むのが難しくなっていった。


 (ギミックを壊したいなぁ。でも、そうすると攻撃禁止に反するんだよね)


 揚棄双砲アウフヘーベンやソードウイングでギミックを破壊したいところだが、それをやれば縛りプレイのためにシグルドリーヴァを使わずヴォイドに乗って来た意味がなくなる。


 それゆえ、麗華は雑念を振り払ってギミックを冷静に躱していく。


 デーモンが何度か現れても戦わずに進んで1周目が無事に終わり、麗華が2周目に突入するや否や天井と床、左右の壁の狭まる速度が上がった。


 狭まるだけではなく広がりもしたため、天井と床、左右の壁の位置が変わるのはギミックの出現から自分の操縦するゴーレムにその攻撃が届くまでのタイミングをずらすいやらしさもある。


 ギミックとデーモン率いるモンスターにやられたのか、麗華が進んで行く内にゲルプアマイモンとグリューンパイモン、ブラウアリトン、センジュの順番で残骸が見つかった。


 (そこそこの機体に乗ってるんだから、こんなやられ方をするなんて情けない)


 麗華からすれば、デーモンとその配下、コースのギミックの脅威なんて攻撃できるなら大したことなかったから、1位の座を競い合う相手としては情けなく感じたようだ。


 その時、突然天井と床、左右の壁が同じタイミングで同じだけ狭まり、前方から強烈なビームが放たれた。


 しかし、前方にはメラクスがいてエネルギーバリアを展開していたから、麗華はそれを盾にしてビームを凌いだ。


 ビームさえ収まればメラクスは用済みなので、ヴォイドの信号でメラクスに攻撃されないよう動きを封じて追い抜く。


 デーモンネクロマンサーも出現してヴォイドの邪魔をしようとするが、ヴォイドの信号は敵対するデーモンネクロマンサーにも通用するから、デーモンネクロマンサーは何もできずにヴォイドを素通りさせてしまう。


 麗華が3周目に突入すれば、今度はアークデーモンも現れる。


 アークデーモンもデーモンネクロマンサーと同様にヴォイドの信号にやられてしまい、ヴォイドはギミック以外に邪魔されずに進んだ。


 再びビームが発射される時、前方にはアークデーモン率いる配下と交戦中のロッソオリエンスとガイアドレイクがいた。


 (これは利用するしかない)


 自ら攻撃することができない以上、ビームを防ぐためには盾が必要だから麗華はヴォイドの信号でそれらの動きを止める。


 そうすることで、それらがビームの射線に存在することになるから肉壁になる訳だ。


 更にここに来るまでの間で屑再利用リサイクルを使い、大破していたゴーレムの部品を即席のシールドに生まれ変わらせていたから、肉壁によって威力の減衰したビームをそのシールドで防いだ。


 後はもうタイムアタックだから、ゴーレムチェンジャーでシグルドリーヴァに乗り換えてスピードアップして一気にゴールした。


『ゴォォォル! 優勝は瑞穂のスナイプクイーン、福神漬け&シグルドリーヴァだぁぁぁぁぁ!』


 アナウンスが聞こえてすぐに麗華はデーモンキャッスルを脱出し、モニターに映し出されたレーススコアを確認する。



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レーススコア(ソロプレイ・デーモンキャッスル)

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走行タイム:35分40秒

障害物接触数:1回

モンスター接触数:0回

攻撃回数:0回

他パイロット周回遅れ人数:7人

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総合評価:S

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報酬:資源カード(食料)100×10枚

   資源カード(素材)100×10枚

   100万ゴールド

非殺生ボーナス:魔石4種セット×100

ぶっちぎりボーナス:イクシードの設計図

攻撃禁止ボーナス:ドグマの設計図

デイリークエストボーナス:設計図合成キット

ギフト:金力変換マネーイズパワーLv41(stay)

コメント:残虐非道な麗華ちゃんのおかげで資源カードの5割が日本にも送られたよ

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 (縛りなんか設けるからあんな方法しか選べなかったのに)


 豪華な報酬をみて喜んだものの、コメント欄を見て不愉快な気持ちになる麗華だった。

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