第248話 パワーアップは邪魔するのがセオリーだよ!

 恭介達が瑞穂に来て55日目、高天原に移住する準備を整えた瑞穂クルーの家族が到着したため、瑞穂は横須賀の軍港を発った。


 今回、高天原に移住するのは移住希望を出した恭介と麗華、沙耶の親ぐらいだ。


 希望を募ったものの、両親や祖父母の中には移住を望まない者もいたし、兄弟姉妹等がいたとしてもいきなり移住できる状況になかったため、今回同行できる者は限られた。


 麗華の父親は銀行の頭取だったけれど、麗華がデスゲームに参加してからはいつでも駆け付けられるように後継者を決めて引き継ぎを済ませていたから、出航までに間に合った。


 もっとも、高天原と地球で通信環境が整っているから、地球側で困ったことが起きても連絡を取れるので何かあっても対処できる。


 瑞穂は空を飛んでいるけれど、そのままだと宇宙に戻ることはできない。


『総員、振動に備えて下さい。これより特装砲を発射して宇宙に向かいます』


 ラミアスのアナウンスが聞こえてから少しして、特装砲の魔開闢砲オリジンキャノンが宇宙に向かって放たれる。


魔開闢砲オリジンキャノン照準、撃てぇぇぇぇぇ!』


 魔開闢砲オリジンキャノンが放たれた瞬間に瑞穂がスピードを上げ、一気に宇宙に向かって上がっていく。


 それは外から見ればとても幻想的な光景だが、瑞穂の中にいる恭介達にはその様子がわからない。


 待機室パイロットルームにはラミアスを除いて乗艦している者が全員集まっており、恭介は彼等にも聞いてもらえるような音量でルーナに訊ねる。


「ルーナ、宇宙に上がるのになんで魔開闢砲オリジンキャノンが必要なんだ?」


魔開闢砲オリジンキャノンを発射した際に薄くなった大気と瑞穂が帯びたプラズマをブースターで増幅させて後方に収束させることで、磁場誘導を発生させて船体側の主推進器を全開することによって大気圏を離脱するんだ』


「…思ったよりも難しい内容だった。てっきり、様式美なんじゃないかと思ってた」


『そこはほら、君達のロマンを実現するためにちゃんとしたんだよ』


 無駄に再現度が高いけれど、これはルーナなりの恭介達に対するお礼の内の1つらしい。


 GBOをやり込んでいる恭介達ならば、こういう演出は大好物だと思って細部までこだわって用意したようだ。


 ルーナの説明を理解できたものはいなかったけれど、無事に大気圏を離脱できたので良しとしよう。


 ところが、高天原を捕捉したところで問題が生じた。


『総員、第一種戦闘配備。繰り返します。総員、第一種戦闘配備。高天原と我々を結ぶ直線上にC204クトゥグア及びC014ヤマンソの大群が接近中です』


「C204ってことは上位単一個体か。絶妙に嫌なタイミングで待ち伏せてくれるじゃないか。俺と麗華がクトゥグアと戦う。ヤマンソの処理は沙耶と晶に任せる。3期の4人はクトゥグアへの耐性があるとは言い難いから、別命があるまで各々のゴーレムに乗って待機」


「「「…「「了解!」」…」」」


『やだ、濡れる…』


 モニターに映るルーナが余計なことを言ったため、空気を読めと言う視線が一気にモニターに向けられる。


 ルーナはてへぺろしてすぐにモニターから姿を消した。


 くだらない問答に時間を費やす訳にはいかないから、恭介達は格納庫に移動し始める。


 恭子達は声をかけたかったけれど、真剣な表情の子供達を見てただ頑張ってくれと祈ることしかできない。


 それに気づいた恭介が恭子に声をかける。


「ああいう敵と戦うのも慣れた。無事に帰って来るから心配しなくて良い」


「親としては慣れてほしくないわ。ここで帰りを待ってるから、ちゃんと元気に戻って来て」


「わかってる」


 格納庫に向かう恭介の背中を見て、恭子は息子が知らぬ間に逞しくなったものだと感心した。


『恭介さん達が出撃する前に敵の数を減らします。審判ジャッジメント照準、撃てぇぇぇ!』


 瑞穂の主砲、審判ジャッジメントが放たれてそれがクトゥグアを守るように待機しているヤマンソに当たって爆発する。


 ラミアスがヤマンソの数を減らしている間に、恭介達は自分のゴーレムに乗ってカタパルトに向かって進んだ。


 ソリチュードがカタパルトの上にセットできたところで、ラミアスのアナウンスがコックピット内に響く。


『進路クリア。ソリチュード、発進どうぞ!』


「明日葉恭介、ソリチュード、出るぞ!」


 カタパルトから射出され、ソリチュードが瑞穂の外の宇宙空間に飛び出してから麗華達が続く。


『更科麗華、ヴォイド、出るわよ!』


『筧沙耶、レイダードレイク、発進します!』


『尾根晶、アスタロト、行きまーす!』


 ヴォイドとレイダードレイク、アスタロトも宇宙空間に飛び出した。


 ヴォイドがソリチュードの横に並び、レイダードレイクとアスタロトは残ったヤマンソ達を片付けるためにソリチュードとシグルドリーヴァから離れた。


 先程の爆発でヤマンソの数が減っており、沙耶と晶がそれらのヘイトを稼ぐように近くにいる個体からどんどん倒していく。


 その隙に恭介はギフトを発動する。


「ギフト発動」


 恭介が黒竜人機ドライザーを発動してソリチュードからドライザーのコックピットの中に移った。


 ドライザーが現れた途端、巨大な火の球の形状だったクトゥグアが大蛇の姿へと変わり、恭介に何もさせまいとクトゥグアが炎を吐き始める。


『私に任せて!』


 麗華がそう言って揚棄双砲アウフヘーベンを素早く連射した。


 盾をモチーフにしたドラゴンの顔を模した大砲から発射されたビームが命中した後、すぐに矛をモチーフにしたドラゴンの顔を模した大砲のビームが炎に命中したことで、クトゥグアが吐いた炎が押し返される。


 水属性の攻撃ということもあり、火属性のクトゥグアに対して相性が良いから力勝負ができるのである。


『我の炎は負けぬ! 消されようとも何度も蘇る!』


「それが事実なのか証明してみろ」


 クトゥグアの声が聞こえた時、恭介は既に土精霊槌ノームハンマーを発動していた。


 それにより、核ミサイルと同じだけのエネルギーを持った土精霊槌ノームハンマーがクトゥグアを殴り飛ばした。


 (あと一歩ってところだったけど、属性の不一致が影響したらしいな)


 ドライザー自体は水属性のスイッチによって青いカラーリングに変わっているが、土精霊槌ノームハンマーはドライザーの属性が変わろうと土属性で固定だ。


 したがって、属性の優劣に伴うダメージの増加は期待できない。


 そのせいで大ダメージを与えた手ごたえはあれど、それが致命傷には至らなかったことも理解できた。


 クトゥグアは大蛇の姿から邪悪な見た目のドラゴンに変形し、殴り飛ばされたところから瞬時に戻って来た。


『我に届く攻撃とはやるでは』


『ギフト発動』


 喋っている途中で麗華が金力変換マネーイズパワーを発動したものだから、クトゥグアはヴォイドから感じられる力に反応して喋るのを中断した。


 気持ち良く喋っているところを弱点属性の高火力砲撃なんて喰らえば、本気で不味いことになるとわかっていたからだ。


「余所見とは余裕だな」


 ヴォイドに気を取られている隙に、恭介がドライザーをクトゥグアの死角に移動させて三対の翼の銃と赤不動砲アチャラナータ竜鎮魂砲ドラゴンレクイエム、ビームランチャーに変形させたラストリゾートを一斉掃射して大ダメージを与えた。


 属性の相性を考慮しなければ、ダメージ総量では土精霊槌ノームハンマーには敵わない。


 しかし、これらの攻撃は土精霊槌ノームハンマーと違って水属性にビームが変質するから、属性の相性を考慮するとクトゥグアが受けたダメージは土精霊槌ノームハンマーに匹敵した。


 二度も大ダメージを与えられ、追い詰められたクトゥグアは沙耶と晶が戦っているヤマンソを取り込み始めた。


『させません!』


『パワーアップは邪魔するのがセオリーだよ!』


 沙耶達は吸い込まれていくヤマンソをを倒していくが、それでも全てを網羅することはできず10体程ヤマンソがクトゥグアに吸い込まれてしまった。


 そのヤマンソの炎を自身の体の治療に充てようとしたところで、恭介の攻撃によってクトゥグアの意識から消えてしまった麗華の一撃がクトゥグアの頭上から発射される。


『私を無視するなんて良い度胸ね』


 200万ゴールドをコストに発射した一撃は、弱っているクトゥグアを消滅させるには十分だった。


『おのれ! ただではやられぬぞぉぉぉ!』


 クトゥグアは自分の死を悟り、せめて恭介達を巻き添えにしてやると考えた結果、指向性のある爆発で恭介達を攻撃した。


「いただきます」


 恭介はドライザーをヴォイドの正面に移動させ、攻撃吸収アタックドレインで爆発を吸収してみせた。


 もしもクトゥグアが万全の状態で自爆すれば危なかったかもしれないが、死の間際の悪足搔き程度の攻撃なら攻撃吸収アタックドレインで十分に吸収できた。


 この時には沙耶と晶もヤマンソを蹴散らしており、ラミアスが戦闘終了のアナウンスを恭介達に告げる。


『恭介さん、麗華さん、沙耶さん、晶さん、お疲れ様でした。C204クトゥグアの反応が完全に消え、ヤマンソの大群も全滅しました。周囲に敵性反応もありませんので、瑞穂に戻って来て下さい』


『『『「了解」』』』


 恭介達は誰かが負傷することもなく、無事に戦闘を終えて瑞穂に帰還した。

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