第247話 同じゴーレムに乗ってるんですよね、あれ…

 博己と知樹がオルタナティブαとオルタナティブβのテストを終えて降りて来ると、恭介達に声をかける。


「いかがでしたでしょうか? もしも気づいたことがあれば教えていただけると助かります」


「そうですね。我々だけの意見では偏りが生じてしまいます。是非、皆様の意見も聞かせていただきたいです」


「これからの開発に更に期待できると思いました。まだ動きがぎこちなく感じましたが、それも操縦慣れすれば変わって来るでしょう。そこに技術の進歩が加われば、日本は独自の戦力を持ってると胸を張って言えますね」


 恭介の言葉はリップサービスではなく本心だ。


 ルーナの力を借りず、ここまでちゃんとしたゴーレムを開発できたことを本気ですごいと思っている。


 強いて言えば、博己と知樹には命がけの戦いをしたことはないから、それを想定した操縦ができていないというところだろう。


 しかし、それが悪いことなのかと訊かれればそうでもない。


 ゴーレムを申し分なく動かせる者が増えたということは、それだけ多くの者が命がけの戦いに参加せざるを得ないからである。


 幸一は折角この場に瑞穂クルーがいるので、データサンプルを増やしたいと思って訊ねることにした。


「なるほど。そういうことでしたら、皆様にもオルタナティブαとオルタナティブβをテストしていただけないでしょうか? データサンプルは多い程改良の時に役立ちますので」


「私がやります」


「僕もやってみたいな」


 真っ先に挙手したのは明日奈と晶だった。


 明日奈が手を挙げたのは、メイドインジャパンのゴーレムがどれだけ自分達の力になるか把握するためで、晶は純粋に操作してみたかったからである。


 他のクルーは先を越されたため、その後に続いて手を挙げたりしなかった。


「では、等々力さんと尾根さんにお願いしましょう。操縦スタイルからして、等々力さんがオルタナティブα、尾根さんにオルタナティブβのテストをお願いしたいのですがよろしいでしょうか?」


「それでお願いします」


「僕も構いません」


 幸一の提案に明日奈と晶が頷き、それぞれが乗るべきゴーレムに搭乗した。


 オルタナティブαのテストは剣を使った動作の確認だ。


 明日奈はデフォルトで装備された剣だけでなく、投擲用のナイフをサブで用意させてからテストを始める。


 まずは正面の的まで急接近し、左から横薙ぎにすることで的を真っ二つにする。


 その直後に剣を鞘にしまい、準備していた投擲用のナイフを全て拾い集め、残りの的に連続して投擲して的を破壊してみせた。


 オルタナティブαにはナイフを収納するポケットがないから取りに戻ったが、それでも動きは博己が操縦した時よりもずっと滑らかだったと言える。


「同じゴーレムに乗ってるんですよね、あれ…」


 博己は明日奈と自分の実力の差を目の当たりにして、自信を失ってしまった。


「これは場数の問題です。仮に速水さんが我々と同じくデスゲームに参戦してたなら、あれぐらい操縦できても不思議ではありませんよ」


「命がけってのはすごいことなんですね。わかってたつもりでしたけど、全然わかってませんでした」


 恭介にフォローされた博己だが、渇いた笑みを浮かべることしかできなかった。


 こればっかりは本当に場数が物を言うから、恭介もそれ以上のフォローはできなかった。


 続いて晶がオルタナティブβをテストする番になった。


 オルタナティブβの両手には実弾が入った銃があり、晶は両手撃ちをテストするつもりらしい。


 明日奈が派手に決めてくれたから、自分も見せ場を作らないとインパクトで明日奈に負けると思ったのだろう。


 晶はオルタナティブβを的が周囲にたくさん設置された場所まで移動し、射撃を中心としたテストを始める。


 どの的にも一度の射撃で当てて破壊し、無駄撃ちすることなく流れるような動きで全ての的に命中させた。


 その時に自分が敵に攻撃された時の動きも披露しており、知樹は口をぽかんと開けてしまった。


「オルタナティブβってあんな動きができたんですね…」


 (2期と3期から1人ずつテストに協力すれば、俺と麗華はやらなくても良さそうだな)


 テストをじっくり観察していた恭介は、オルタナティブαとオルタナティブβのどちらにも過剰な負荷がかかっていることに気づいたから、そのように判断した。


 明日奈と晶が張り切ってテストに臨んだことで、オルタナティブαもオルタナティブβも想定していない負荷がかかっている。


 これでもしも自分と麗華までテストしたならば、ゴーレム開発プロジェクトのメンバーの努力の結晶を壊してしまいかねない。


 というような事実をふまえた建前で断ろうとしているが、実際には明日奈と晶がテストを始めたことで研究施設に人が集まって来てしまったのだ。


 ここは軍の施設の内部にあるから、ただの野次馬が集まって来た訳ではないことはわかっている。


 それでも、恭介は二つ名が変わったことで変に目立ってしまったから、これ以上人前で目立つような真似はしたくないのである。


 明日奈と晶がそれぞれ試したゴーレムから降りて戻って来ると、どちらも満足した表情になっていた。


 自分達の実力を発揮してドヤっている訳だ。


 幸一は2人に声をかける。


「お疲れ様でした。どちらとも見事な操縦でしたね。驚きました」


「それほどでもないですよ」


「日本の技術力の高さには驚いたよ。想定してたよりもずっと操縦しやすかった」


 そこに技術者達がぞろぞろとやって来て、コックピット周りに留まらず機体全体の操縦性について次々に質問をし始めた。


 彼等も政府からプロジェクトに選ばれたメンバーではなく、民間企業から出向してゴーレム開発に熱量を持って挑んでいる者達だ。


 当然のことながら、彼等もGBOプレイヤーである。


 それを遠目で見ていたところ、同じく熱量がすごい所にはいかずにいた幸一が恭介に質問を投げかける。


「明日葉さん、日本の技術力でどこまでのゴーレムが造れると思いますか? GBO基準で言って下さるとお互いにわかりやすくて良いと思うので、正直なところをお聞かせ下さい」


「近い内に開発できそうということであれば、エンジェルシリーズならプリンシパリティまではできると思います。それ以外のゴーレムで言えば、メビィやリャナンシー、ラセツは開発できるんじゃないでしょうか」


「つまり、スフィンクスやアラクネ、それにリュージュのような変形するゴーレムは厳しいですが、変形しないゴーレムならばそこそこのゴーレムがすぐに造れるとお考えなんですね?」


「その通りです。変形はロマンがあってパイロットも乗りたいという衝動に駆られると思いますが、今はあちこち手を出すよりもまずは変形しないゴーレムの開発を進めるべきです。変形は必要に迫られて着手する方が良いでしょう」


 恭介の言葉を聞いて幸一は確かにその通りだと頷いた。


 今までの開発の工程においても、寄り道をせずにまずはベースゴーレムを仕上げるという目標があったから、自分達でも驚く程短期間でベースゴーレム擬きを開発できた。


 それをベースにしたオルタナティブαとオルタナティブβの開発は、ベースゴーレムの設計図を挿入してデザインを変更する仕組みが用意できなかった場合、最初から1種類のゴーレムに限定して造ればできると考えて行ったものだ。


 ここから無理に変形するゴーレムの開発に乗り出せば、今まで順調だったペースも鈍化するに違いない。


 まずはクトゥルフ神話の侵略者達と戦えるゴーレムを用意することが最優先だから、必要になる間では変形のことを一旦考えない方が結果的にスペックの高いゴーレムが完成する。


 恭介の考えは幸一がなんとなく理解していた部分を言語化したものだった。


『人間にできないことでも私なら華麗にやってのける。さあ、恭介君、私をちやほやしてちょうだい』


「ルーナ、ハウス」


『そんなぁ』


 当然のように幸一のスマホをハッキングし、そこから話しかけて来るルーナに対して恭介はぴしゃりと言った。


 確かに変形機能を有するゴーレムや武器を用意できるルーナはすごいけれど、それを素直に褒める気分にさせないぐらいルーナのやらかした数は多い。


 ちやほやしてほしいなら日頃の言動を改めなければなるまい。


 その後、恭介達は瑞穂に戻ると決めていた時間が来たため、研究施設から瑞穂に戻った。

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